幻影の戦い2
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「か、神崎!?」
「アカリ? どうかしたの?」
思わず叫んでしまった僕の元にユキが近づいてくる。いや、ユキだけじゃない。ヒヨリも、カナデも近づいてきた。僕の目の前にいるのは神崎と栞、それから市ヶ谷さんともう一人が久留米だ。神崎と仲がいいちょっと暑苦しい男子。なんでこの四人がここにいるのか突っ込みたくなったけどそれより先に市ヶ谷さんがユキたちに反応した。
「その子達湊くんの知り合い?」
「み、湊くん……」
そしてなぜか栞からかなり攻めるような視線が飛んでくる。市ヶ谷さんは半ば呆れたような面白がっているような視線だ。あの、そんな目をしてくるのなら助けてくれませんかね。
「湊? ああ、アカリの名字ね。ということはあなたたちはアカリの故郷の友人かしら」
「え、あ、ああ。そうだな俺は神崎夏樹」
「私はユキよ。よろしくね」
神崎とユキを初めにしてみんなが自己紹介を始める。特に女子たちが互いに自己紹介を行っているときに、僕は神崎に幾つか質問をした。
「それで、どうしてこんな村に?」
「ああ、この村にある宝玉? というのを取りに来たんだよ。なんでも強い力を秘めているらしくて俺たちの戦力増強に使えるって話だ」
「まじか……」
神崎にどうしてここに来たのか聞いたら予想通りというか一番最悪な答えが返ってきた。宝玉って結構有名なのかな。普通にこいつら宝玉のことを知っていたけど。
『うーん、まあこれ持っているだけで能力を一つ行使できるって感じかしら』
ああ、そういうことね。要はよくある魔道具みたいな感じでお手軽に使えると。ん? でもこの宝玉の能力って使ったらかなりやばいんじゃないの?
『そうねぇ。まあ本来の能力が発動しているわけじゃないし、あなただけと考えてくれていいわよ』
ユラムの説明を考えると宝玉の本来の能力を使うことができるのは僕だけだけどそのせいでついでに命まで削られてしまうという感じなのね。そしてユラムと話していて少し心ここに在らずといった感じになってしまったけど結果的に黙ってしまった僕を見て、神崎は何かを察したようだ。
「も、もしかして湊たちも宝玉を求めてきたのか?」
「ああ、そうなんだよ」
「まじかー」
「え? 湊くんたちも!? なんでまた」
市ヶ谷さんに逆に質問されるけどなんて答えたらいいのだろうか。いや、待てよ。
「それがあれば少しでも力が手に入るかなって」
「ああ、なるほどね」
ちょっと苦し紛れになったけどこの言い訳で納得してくれたみたいだ。僕に力がないことくらいわかりきっていたし。それも当然か。そんな僕らに神崎が一つ提案をする。
「なあ、湊、お前らもこれから村長のところに行くんだよな」
「ああ、そうだな」
「なら、俺たちと一緒に行こうぜ」
「まあ、別にいいけど……ユキたちもそれでいいか?」
「ええ、問題ないわ」
僕としてもそこまでおかしな話でもないし、念のためにユキたちに確認したら問題ないとのことなので、僕はそれを承諾するこっちのほうが穏便に済みそうだし。
「それで、湊たちはいつ頃向かう予定だったんだ? 」
「え? あー確か昼過ぎだったな」
そんなことをユキが言っていたような気がする。チラッと見れば頷いていたので間違っていなかった。それを聞くと、神崎は納得したような顔をして。
「俺たちは昼前に来るように言われていたんだ」
「なるほど」
僕が行く前にすでに宝玉は王宮の使者に渡してしまいましたってことにするつもりだったのか。まあ、公爵と王宮どちらを敵に回すかって考えたら妥当だよな。おまけにユキもまだ公爵の娘だし権力としてはかなり弱い。だから面倒なことになる前に片付けようとしたのだろう。
「一緒でよかったな」
「お前はそれでいいのか?」
「まあ……そりゃできれば宝玉は欲しいけど、お前になら別にいいかなって」
「そ、そうか」
こいつ、さっきから発言がかなり格好いいな。あくまでもフェアに行きたいとか。普通にしていれば余裕で手に入れることができたというのに。
「それじゃあ、昼前にここの宿の前に集合ということでいいか?」
「ああ、構わないよ」
そして最後に神崎がそう宣言して僕たちは一度解散ということになった。さてと、少し時間が空いたしどうしようかな。一旦部屋に戻ってもいいし、ここで神崎と話してもいい。そんな風に思っていると、僕に声がかかった。
「ねえ、アカリ」
「ん?」
ユキが話しかけてきた。向こうを見れば市ヶ谷さん、栞、カナデ、ヒヨリの四人が仲良さげに話していた。どうして向こうに混ざらないのだろうか。
「ちょっとアカリと相談したくて」
「僕に?」
そんなことを言われてしまったら話を聞くしかないな。でも、ユキが相談ってどんなことだろうか。
「それで、相談って?」
「私の能力のことは知っているでしょ?」
「まあ、そうだね」
確か未来を見ることができるって話だよな。それで誰の未来を見たんだ? 誰かに聞かれたくない感じだったので僕たちは僕の部屋に移動した。ここなら、まず誰かに聞かれる可能性は低くなるだろうな。
「それで、アカリを観たら、なんか……」
「なんか?」
どうやら僕の未来を観たみたいだ。それで、どんな内容だったのか聞こうとしたら、ユキは顔を赤らめてしまった。
「ど、どうしたんだよ」
「なんか、アカリがあの栞って女の子とキスしてたんだけど」
「……は?」
顔を赤らめているからどんな内容が飛んでくるかと思ったらとんでもないところから飛んできたんだけど。ちょ、ちょっと待って、一体どうやったらそんな未来に到着するんだよ。
「ちょっと待って、僕は別に栞と付き合っているわけじゃなくてだな」
「それで、なんかその光景が見えた瞬間にすごいイライラしてしまって……」
「あー」
言い訳をしようとしたら、ユキの次の言葉を聞いてどうしようもない感情になる。それって、要は嫉妬だよね。忘れがちだけどユキは僕に(無意識の)好意を抱いている。それでそのイライラの相談をしに来たってことなのか?
「違うわよ。もし、その未来が実現したら本当にイライラしそうだから先に言っておこうかと」
「ああ、そっちね」
「ただ、気になることもあるのよ」
「気になること?」
「ええ、栞の方を視てみたらそんな未来がないみたいなのよ」
「え?」
それはちょっと気になる内容だな。でも、ユキの能力の穴というかそれで正しく視れてないとかそんなとこじゃないのかな? 僕はそう思ってそう、説明する。
「確かに私自身の能力についてそこまで知り尽くしているわけじゃないけど……なによ、もしかしてアカリそんな未来期待してるの?」
「べべべべべ、別に」
ユキから白い目でみられる。つい、動揺してしまった。だって栞って色眼鏡抜きにして美人だし、そんな子とキスしたいとか考えるのも健全な高校生男子としてごく自然なことではないでしょうか。
『気持ち悪い』
僕の思考を読まないでもらえます? まあ、話しかけてきたからちょうどいい。ユラム、ユキの能力ってどんな感じなのか教えてくれないか?
『嫌よ』
ですよね。ならこれが嘘か本当か……まあ、僕が知ってしまったことで変わる可能性もあるわけだけどどうなるのかな。ただ、一つ言えるとしたら、
「あの、ユキ? わかったからその目をやめてくれ」
冷たい目でみないでください。とてもいたたまれない気分になります。




