幻影の戦い
新章開始です
「はぁ……ついた」
「あそこが、サガハタ村、みたいですね」
僕たちが向かっていた場所、それはサガハタという村だ。なぜ、ここにきたのかといえば話は簡単で、
「それで? ここに本当に神杖を強化できる宝玉? というのがあるの? 」
「神様曰く、そうだって」
そう、ユラムに宝玉のありかを教えてもらったところ、名前だけ教えてくれた。ただ、教えてくれたのはこの一つだけ。全部教えてくれたらいいのにって思うけど、ユラム曰く、
『あんたにそんな処理能力ないでしょ? 一つで十分なのよ』
ということらしい。まあ一つだけでもかなり強い能力だし、それが二つとなればかなり心強いな。ある程度戦えるだけの力が手に入ると思うし、他のはそのうち、でいいだろう。旅をしていればそのうち見つかるはずだ。
「さて、まずは情報収集と宿探しね。ヒヨリとアカリが宿をお願い」
「わかったわ」
「了解」
ユキの指示で僕たちはそれぞれ行動を開始する。情報収集ではカナデがかなり強いし妥当な感じかな。そして僕とヒヨリは村を歩き回る。もちろん宿が優先だけど何かめぼしい情報があればそれを探すのを忘れない。
「にしてもあんたと二人で行動するのって何気に初よね」
「作戦会議をしてた時はあったけどね」
ヒヨリとそんな風に会話しながら適度に歩いていく。まあ、なんていうかヒヨリがいると本当にありがたいよね。性差別とかそんなことを言うつもりはないけれどやっぱり女の子がいた方が相手に警戒心を抱かせにくいみたいだね。さくさくと情報が集まったよ。
「ふーん、いいところじゃないの」
「そうだね」
そして僕たちは一つの宿屋に到着した。村特有なのか知らないけどこの村にはここしか宿屋がないみたいだ。さて、今回はどんな感じになるのかな。
「さすがに僕もここに泊まるよ? 」
「わかってるわよ。ユキたちと話したんだけどアカリは私と同室ね」
「了解」
前の村みたいに部屋割りで揉め事が起きないように先に決めておく。ユキがいるとはいえ節約するに越したことはなく、二部屋借りて先に片方の部屋に僕とヒヨリの荷物を置いておく。これで揉め事が起きることは完全になくなったはずだ。
僕とヒヨリに恋愛感情が全くないことぐらい互いに分かりきっているし、問題なのは僕とユキが同室になることだけだからカナデとで良かったのだけど僕的にはやっぱりヒヨリの方が気持ちが楽だな。
「それじゃあユキたちを探しに行きましょうか」
「そうだね」
大体一時間ぐらい探索するようにしている。それくらい経てばカナデの能力で僕たちを探してくれるはずだから絶対に逸れるなんてことはない。それに、万一のことがあったとしてもヒヨリの能力でなんとでもなる。あんまり使いたくはないみたいだけど、ユキにもしものことがあればきっとすぐに使うだろう。
「にしてもここの雰囲気」
「どうかした? 」
二人で歩いているとふと、ヒヨリがどこか懐かしむようにあたりの風景を眺めていた。ここの風景がとうしたのだろうか。特に何か目立つような特徴がある感じじゃないけど。
「うん、私の故郷にちょっと似てる」
「へえ」
「アカリの故郷もこんな感じなの? 」
「あー……まあ、そんな感じ」
田舎とかあるし、別に嘘をついているわけではない。まあ僕たちは東京という大都会にある高校に通っているからかなり発展しているけど、まあ科学とかこの世界にはほぼほぼないみたいだし絶対に違うと断言できる。
「ふーん。あんたの故郷とかよく知らないのよねー。珍しい黒髪だし」
「あはは」
異世界とかってなぜか黒髪って珍しいみたいだよね。カナデもヒヨリもユキもみんな黒髪じゃないし。
「いつか話すよ」
「そうね。もしかしたらこの先あの小沼山みたいなのと戦うことがあるかもしれないしね」
小沼山……、この先どれだけ戦うことになるのだろうか。でも、それを気にしてはいられない。まあ、それにしたっていつか話せる時が来ればいいな。そんなことを思いながらヒヨリと村を歩いていく。ここがヒヨリの故郷と似ているのか。ヒヨリも昔何かあったのかわからないけど、それもいつか明らかになるのかな。
「あ、いました! アカリさーん」
「どうやら向こうが先に見つけたわね」
向こうから僕を呼ぶ声が聞こえたので見たらユキとカナデが歩いていた。カナデの肩に小鳥が止まっている。どうやらここの村でもカナデは人気みたいだ。
「宿屋は見つかった? 」
「見つけたよ」
「それで、部屋は」
「僕とヒヨリが同室だね」
「「ええー」」
部屋割りについて説明したら大声を上げられた。そこまで驚くようなことがあるのだろうか。でも、納得してもらうしかない。それに、ユキ、お前の方はスイレンの村で同室ってことになってただろ。
「結局、アカリは教会の方にずっといたじゃないの」
「ははは」
「そういえばユキたちは? 何か見つけた?」
「見つけたのは見つけたのですが」
僕たちの情報は全て話したので次はカナデたちからの情報だ。宝玉の場所は教えてもらえることができたのだろうか。できればダンジョンとかそういったところにあって手に入れることに罪悪感を抱かない感じで済ませたいのだけど。でも、カナデの口ぶりからしてそんな甘い展開はなさそうだな。
「この村の村長が持っているみたいです。代々お守りとして受け継がれているとか」
『さあて、あなたはどうするの? 』
もちろん、もらう。自分のやりたいことをするために貰うしかない。それでも、できることなら奪うことは最後にしたいな。
「奪う、ですか」
「……できればやりたくないのだけどね」
「その選択肢がアカリから出てくることが意外だわ」
ヒヨリには意外だと言われたけど……やっぱり意外かもな。こんな風に考えることはなかったから。ただ、思うことがあるとすれば小沼山たちに盗られるぐらいなら、という思いがある。
「ま、邪神教の人間が狙っていることを伝えて穏便に貰えるようにしましょう。一応アポは取り付けておいたから」
「さすが公爵」
ここはおとなしく、ユキの好意み甘えることにしよう。彼女のおかげでどうやらその村の長と面会することができるみたいだ。あとは僕次第、ということだよな。交渉事は得意じゃないし、下手に能力のことは明かせないからね。
「さて、夕飯を買って食べましょう」
「そうだな」
ユキに言われるまでもなく、もうすぐ日が暮れる。今日は移動していたしあとは休むことにするか。僕たちは食事処……あれ? そもそも村にあるっけ?
「あ、アカリ聞いてなかったの? 宿屋でお金を余分に払っておいたからちゃんとそこで食べましょ」
「あ、ごめん」
僕は聞いてなかったけど、ヒヨリがどうやらそこらへんのこと済ませておいてくれたみたいだ。というわけで、僕たちは宿に戻って夕飯を食べる。そして特に何かあるわけでもなく、夜が明けて、
「おはよう、アカリ」
「ああ、おはよう。ヒヨリ」
目が覚めて、ヒヨリに挨拶をする。この宿はベッドが二つあったので僕がどこか別室で寝たりとか床で寝たりとかおかしなことにならずに済んだ。床とか本当に寝たくない。教会で寝たときとか結構腰とか痛かったからね。
「さて、下に降りましょうか」
「ああ、そうだな」
そして下に降りる。ちょうどユキたちも起きたみたいで、4人揃って食堂に向かう。そして準備された朝食を手にとって座れる場所を探す……どうやら僕たちの他にもう1グループ宿泊しているみたいだ。そこのグループは男二人に女二人となんやかんやでバランスがいいって……え?
「あれ? 湊じゃないか? 」
「か、神崎? 」
そこに座っていたのは神崎たちだった。いや、まさか今度は王宮のクラスメートたちと取り合うとかそんな展開になるとかそんなことないよね?




