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神の武器6

後半は視点が変わります。ご注意ください


「はぁ……はぁ……」

「アカリ! 」


 村から飛び出すように去って夜道を歩いていたらしばらくしたらユキたちが後ろから追いかけてきた。あ、そういえばユキたちのことをすっかりと忘れていたけど、良かったのだろうか。


「ごめん」

「いいよ。私もあの言い方にはちょっと怒りを覚えたし」


 すぐに彼女たちに謝罪の言葉を口にするけど、すぐにユキから訂正の言葉が来る。うん、そう言ってもらえるととても助かるな。さらにカナデも続いていってくれる。


「気にしてませんよ。それにしても、ひどい言い草でしたね」

「ああ……ん? ヒヨリ? 」

「いや、途中からあの修道女いなくなっていたなって」

「そうだっけ? 」


 ヒヨリが少し悩んでいる顔をしていたのでどうしたのかと思えば、確かに修道女がいなくなっていたな。いつの間にどこかに行ったんだろうか。てか、この杖、僕が持っていっても良かったのかな


『今さらそんなことを言っても仕方がないでしょ』


 それはどうだけどさ……、でも、なんか釈然としない。それに……、


 僕は持っている杖を見る。この杖を求めて、僕はここにきた。そして無事に手に入れることができたわけだけど、あの時の村人たちの言葉にショックを受けたのも事実だ。


『そうね……でも、しょうがないことよ。村人たちは自分が生き残ることが大事、正義だった。でも、あなたはみんなが生き残ることが正義だった。結果として、あなたは自分の正義を優先して、この村にとっての悪人を逃した』


 そうなんだよね。僕は、あいつらに死んで欲しく無かったから、まともに戦うということを選択しなかった。世良と戦った時に、僕も全力で戦っていたらあいつを捕まえることができて、そして村人たちからの信用を得られて、


『でも、杖は手に入らなかったでしょうね。その杖は村人たちにとって、「必要」なものだったから』


 ……。ユラムの言葉を聞いて、僕は黙ってしまった。まあ、さっきから端から見たらずっと黙っているのだけどね。カナデたちも気を利かせて離れてくれているのもありがたい。


 必要、か。それなんだよね。これを手に入れることができたのだって、村人たちが不要と判断したからっていうのが実情だし。お互いの動きが綺麗に噛み合った結果、僕はこの杖を手に入れることができたんだよね。


『そうね、自分の正義を貫いた結果、ということにしておきましょう』


 それでいいのだろうか。自分の中でまだ解決しきれていない。ただ言えるのは一歩どこかで歯車が狂っていたら大変なことが起きていたということ。まだ、足りない。自分の正義を貫くためには、まだ色々と足りていないところがある。


「なあ、ユラム」

『何かしら?』


 近くに誰もいないから、僕はユラムの名前を口にだす。まあ、そんなことは置いておいて、僕は宣言する。


「次、あいつらと出会ったら、僕は戦うよ。戦うために、もっと力が欲しいんだ」


 そのために、他のこの玉のありかを教えて欲しい。この杖の名前は七元徳。そして七つの穴が空いているということはあと6個あるんだろ?


『そうね、ま、それくらいは教えてあげようかしらね』


 いつもいつでも感じる。自分の力のなさを。今まではなんとかなっていたけど、これ以上はダメだ。カナデ、ヒヨリ、ユキ、大切な仲間ができたから。彼女たちのことを考えたら、これ以上悠長にしていられない。


『でも、今回のはいい教訓になったと思うわ。正義と戦うのは悪じゃない、別の人の正義』

「ああ、そうだな」


 このスイレンの村で僕と、小沼山と、そして村人たちの互いの正義がぶつかり合ってそして、結果的に僕が一番いい結果を迎えた。


 この運の良さを、噛み締めて僕はまた旅を続けよう。それに、小沼山……最後に世良を気遣ったのはクラスメートとしての最後の情、という風に考えてもいいのだろうな。














「はぁ……はぁ……」

「どこ行こうとしているんだ?」


 俺は走っている修道服の女性に声をかける。彼女が走ってきたのはあのスイレンの村の方。あそこにはあの神様の杖があるところだよな。そして女性は俺を見て絶望の表情を浮かべた。


「あ、あなたたちは」

「俺たちが誰か、なんて関係ないだろ。それよりもお前に聞きたいことがある」

「な、なんのことですか」

「お前、スイレンの教会にいたよな? 神の杖はどうした」

「そ、それは……」


 こいつ、何を知っている。目が泳いでいるからきっと何かあったのだろう。問題があるとすれば誰が手に入れたのかということだ。


「どうした? 橘」

「桜花」


 後ろから桜花が出てくる。今回杖を手に入れるために遣わされたのは俺と桜花の二人。あの杖が勇者とかの手に渡ってしまったら色々とまずいらしい。


「俺に任せてくれよ。時間がないだろ」

「ああ、そうだな」


 桜花に任せるか。こうしている間にも杖を手に入れた奴は移動しているかもしれない。俺がこいつを拷問してもいいがそれだと少し時間がかかる。その点、桜花の能力ならその時間がかなり省略できる。


「な、何をするつもりですか」

「面倒だな」


 俺は素早く修道女の後ろに回りこむとそのまま腕を抑える。これで準備は整った。桜花が女性の前に立ち、能力を使用する。詳しい説明はされていないが幻術を扱う、ということは聞いている。


「ちっ」

「どうした? 」


 能力を使用していた桜花の表情がどんどんと曇っていき、かなり不機嫌になっていった。こいつがこんな風な表情をするなんてあんまりこっちの世界に来てみたことないんだけどな。


「あいつがいた」

「あいつ……ああ、湊か」


 一瞬わからなかったけど、桜花が口にするあいつってことは間違いなく湊だろうな。なるほど、あいつがねぇ。リンシャンの街で出会ったことを思い出す。あんな間抜けな面をしていた奴が俺たちの先を突くなんてな。


「なあ、湊がどこに行ったのかわかるか? 」

「いや、こいつはそれを見る前に逃げたらしい」

「逃げた? どうして」

「逃げたというよりは教会の大元に伝えようとしていたみたいだ。神杖を盗られたって」

「なるほどねぇ」


 なら、こいつをこのまま逃がせば湊がしたことが権力者に伝わるわけか。でも、それは少し困るな。権力者に伝わってしまえば厳重に警護される可能性がある。それはちょっと面倒になる。俺たちが回収するためにはこいつをここで始末しておいた方がいい。


「桜花、どうせあいつは宝玉を集めに回るはずだ。そのどこかに行けばいいだろう」

「……」

「桜花? 」

「あいつ、女子を連れてやがった。しかも三人も」

「へえ? 」


 桜花に今後の方針を伝えようとしたらとんでもないことを聞かされてしまった。なるほどねぇ。あいつ、この世界に来てハーレムを楽しんでやがったのか。俺たちがどんな生活をしていたか知りもしないで。湊に対しての怒りがふつふつと湧いてくる。


「わかった。戻って宝玉のありかを聞こう。そして俺たちが宝玉を集めるんだ。そうすればそのうち出会うだろう」

「了解、こいつはどうする? 」

「俺が片付ける……もういいぞ」

「ああ」


 桜花に充分だと伝えると、この女から離れた。どうやら幻術での情報読み取りが終わったらしい。さて、次は俺の仕事だ。怯えたような目をしているが……、あいにくそんな目をした奴を殺すことに躊躇いを持たなくなったんだよ。


 そのまま俺は能力で強化した拳で女性の心臓を貫く。断末魔の叫びを聞きながら、俺は静かに今後の方針を考える。湊の奴、まさかまた出会うことになるとはな。

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