神の武器4
ブクマありがとうございます
「早く死ぬか渡してくれよ」
「断る……」
僕は世良の攻撃を避け続けている。と、言えれば格好いいのだけど、残念ながら何発も受けてしまった。それでも、気合いで神杖だけは離さなかった。小沼山の最速の声も聞こえてくるが反射的に断る。
「ちょこまか逃げやがって。おまけに世良の能力も効いていないみたいだし」
「どんな能力なんだ? 」
「お前に教えるわけねえだろ」
聞きたいのに。ただ、気になることはある。戦闘系といいながら、僕に作用する感じの能力を持っているみたいだし……後、気になるといえばどうして世良はほとんど話さないのだろう。ここにきてからほとんど小沼山しか喋っていない。
『ねえ、どうして杖の力を使わないのよ』
使わないじゃなくて、使えないんだよ。これどうやって使うんだよ。世良の拳に合わせて杖を振り回す。これ、最初に攻撃を受けた時につい、引っこ抜いてしまったんだよね。杖はごく普通の見た目をしていた。ただ、片方の先の形が丸くなっていて、そこに7つの穴があるみたいで、そしてそのうち一つだけ黄色い玉が埋め込まれている。でも、それでも……。
「頼む……! 」
どうすればいいのかわからないけど、僕は杖を前に突き出してみる。これで、どんな風になるのかわからないけど……。
「! 」
「ちっ」
次の瞬間杖が光り輝いて、そして僕の周りに薄い膜が生まれて世良を弾き飛ばした。これって、確かこの教会とかを囲っていた結界と同じものっぽいな。
「まさか湊が杖を使いこなすことができるなんてな。世良……本気で殺す気でいこう。俺も協力するから」
小沼山が何か呟いてそして僕の方を向いて睨んできた。そんなに睨まれてもこの杖をお前たちに渡すわけにはいかないんだって。
「……ぐっ」
すると、僕が張っていた結界に異変が生じた。急に膜が揺らぎ始めて、そして……、崩れた。嘘だろ。
「世良! 」
「くそっ」
再度世良がこちらに向かって突っ込んでくる。さすがは戦闘系の能力を持っているだけあって、動きがかなり素早いな。そのまま世良は僕に向けて殴りかかる。慌てて杖で防ごうとしたが……少しだけ遅かった。
「がはっ」
腹に直撃した。こいつさっきから言いたいけど本当に容赦ないよな。そのまま吹きとばされて教会の机の一つに激突する。
「よくやったよ、世良。多分湊は戦闘系の能力を持ってない。だから今ので死んだ……」
小沼山の声が途切れる。途切れた理由は簡単だ。僕が自分の周りに結界をもう一度発動させてあたりの机を全て吹き飛ばしたからだ。
「おまっ、まだ生きているのかよ」
「ここで、死ねるかよ」
そのまま杖を支えにして立ち上がる。机に激突した時の衝撃で肩を切ってしまったみたいだ。血が少しだけ垂れている。頭も打ったのか首元に何か液体が……まあ血なんだろうけどそれが垂れている感覚がある。結構大きな衝撃だったもんな。意識を失っていないのがかなり不思議でしかない。
「へえ、タフなのかな? 世良の攻撃を受けて平気とか信じられない」
「だからその理由を教えて欲しいんだけど」
「嫌だね。それこそ、力づくで俺たちを捕まえたらいいだろう」
「そんなこと、できるか」
お前らを捕まえるって……そんな残酷なことできるかよ。今こうして抵抗するのが精一杯なんだよ。これ以上僕は動けない。
「ちっ、だから俺はお前が嫌いなんだよ。そのバカみたいな善意の押し付けが」
「……」
クラスメートからの言葉を聞く。始めて聞いた、僕のことを嫌っているって。でも、それでも、今、こうして殺そうとしていることと関係がないはずだ。
「うるせえよ。俺たちがどんなふうにこの世界で生きてきたかなんて知らないくせに……王宮でのうのうと、いや、逃げたお前に言われたくないんだよ。世良! こいつをさっさと殺せ! 」
「ああ、わかってる」
「世良! 」
声をかけるけど、僕の声が届いていないのか、こちらに近づいてくる。それにしても……こいつらにどんな過去があったんだ? どうしたら、クラスメートを殺すという考えに至るのだろうか。
「ああああああああ」
「止めてくれ! 」
向かってくるが、まだ機能している結界で防ぎきる。でも、また小沼山の能力で消されるかもしれない。そうなってしまったら次の攻撃は多分受けきることができないだろう。それにしても、結界以外の攻撃を使えないのか?
『無理ね。だって玉がないでしょ? 今使えるのは「忠義」だけだもの』
この杖の先にある玉ってそういう意味だったのかよ。てか「忠義」って……どんな能力の名前なんだ。そして効果が結界、ね。ん? ということはまだ攻撃系の能力を持っていないということになるのか。
「ああああああ」
「世良……なんでお前そんなに辛そうなんだよ」
世良がずっと結界を殴り続けている。さっきもそうだけど、殴る時の叫び声が本当に辛そうなんだよ。なんで殴りながらそんなに辛そうにしているんだよ。まさか殴るたびに自分に痛みが走る仕様なのか? でも、そこまでしても、僕の結界は壊せない……。
「はっ、世良を救いたかったらその結界を解けばいいのに、それを解かない時点でお前は甘いんだよ」
「……」
言い返せない。頭ではわかっているのだけど、解除してしまった瞬間に自分が死ぬことがわかっているから行動に移すことができない。やっぱり、甘いのか?
「死ねよ! それでおしまいだからさ! 」
「ここで死ぬのは……僕がやりたいことじゃない」
辛うじて……辛うじて言い返す。
『そうね。ここで一旦救ったとしても、どうせあいつはまた繰り返すのでしょうしね』
ああ、そうだな。ユラムが思ったことにうすうすながら気がついていたのだろう。アニメとかでよくある展開だしね。だから……、僕がするべきことは決まっている。ここで一時的に救うのではなくて、
「僕がやりたいのは、お前たちを本当に救うってことだよ」
「その思考は甘いんだよ! 」
また、小沼山が睨んでくる。でも、僕は怯まないで睨み返す。一度決めたから……絶対に最後までやり遂げてみせる。ここで怯むわけにはいかない。
「結界が消えないだと……。まさか本当に強い意志を持っているのか」
「決めたから……やり通すだけだ」
ここを曲げてしまったら、僕は絶対に神崎たちに追いつくことができなくなる。それだけは、絶対に起きてはいけないことだ。
「ちっ、それなら世良との相性が悪すぎる。おまけに世良も消耗しすぎたな」
「あああ……」
小沼山との会話の時もずっと世良は僕が作り出した結界を殴り続けている……ん? なんだか少しヒビが入ってきてないか? このままだと、まずい。
でも、僕の結界が壊れるより先に、小沼山が告げる。
「今回はお前の勝ちでいい。世良、もういい。帰ろう」
「……小沼山? 」
「大丈夫だ。俺たちがついている」
「ああ、ありがとう」
二人の間で交わされている言葉の意味がよくわからない。きっと、意味があることなのだろう。でも、僕がそれを問う前に、二人は扉から出て行ってしまった。世良がもたれかかるようにして小沼山に支えられていた。僕は、自分が死ぬことの恐れから結界の中から出て行くことをしなかった。
『まあ、正解、ね。あなたが結界の外に出たらあの人たちはあなたを殺そうと狙っていた』
そう、か……。その事実が僕をさらに辛くさせる。今の事実をひしひしと実感しているから。今、僕は……クラスメートに殺されようとしていた。それは、この世界に来て、何よりも悲しい出来事だった。
「……あ! ユキたちは! 」
ここで、思い出した。そうだ。外にはユキたちがいる。彼女たちの安否が心配だ。それを確かめるために……一歩踏み出そうとして、僕は、よろけてしまった。




