神の武器3
「それで……どうするつもりなんだ? 」
夜になってこの教会には僕しかいなかった。だから遠慮することなく口に出すことができる。まあ黙っていてもユラムには僕の思考は筒抜だしたいして困ることはないんだけどね。
『え? 神杖を奪い取るんじゃないの? 』
「それしたらすぐに犯人がバレるだろが! てかそもそも宿の問題を解決するために僕はここにいるんだよ? 」
ここに泊まることをユキたちに言ったら最初は反対されたけどヒヨリが察してくれたのでなんとか丸め込むことができた。ああいう風に察してくれる友人がいると本当に助かるな。でも、ユラムはそんなことお構いなしに僕に話しかけてくる。
『なんでそんなに躊躇しているのよ』
「だって村人が」
『もしこれから村が襲われたとしても? 』
「え? 」
襲われる? この村が? どういうこと? そもそも結界で守られているんじゃないの?
『ここにこの杖があることがバレちゃったしどの道あの子達が何か騒ぎを起こすことは明らかね。ああ、それから、アカリ、少し見苦しいわよ』
嘘だろ? それってようは…あいつらがこの村人達を殺すかもしれないってことか?いや、さすがにそれはないだろ? てか見苦しいって……まあ、理由にここの村人を出すのはなんか違うと思うけどさ。でも、あいつらが事を起こす事はありえないって断言できる。だって、あいつらも僕と同じ日本人だよ? そりゃ確かに僕も勢いで人を殺したこともあるけどさ、基本的に日本人は殺人を嫌うからさ。
『うーん、そんな些細なこと気にしないと思うけどねー』
「そんなこと……」
『覚悟を決めないといけないってことよ』
覚悟、ね。でも覚悟ってなんのことだ? 人を殺す覚悟かな? でもそれは人を殺さない覚悟を決めることで結論が出たと思うんだけど。
『まあ、もう寝ましょう? 疲れているじゃない』
「誰のせいだと思っているんだ」
ベッドで寝られるかと思ったらまさかのこんな硬い床で寝るようになったのは一体誰のせいだと思っているんだ。まああの宿屋で寝たら寝たらで別の問題が発生して結局疲れたことに変わりはないけどさ。明日確実に筋肉痛になることは必至だな。
『そうねぇ。回復魔法が使えたら便利だけど今この杖使えないのよね』
使えないって……それってこの杖の本来の力なら使えるってことなのか? まあ確かにユラムが使っていたというのに使えるのが結界だけっていうのもなんだかおかしな話だけどさ。でも、ユラムの言う通りだ。今日まで旅をしてずっと歩いていたから疲れが溜まっている。寝ないと大変だよな。
そう思い、僕は寝ることにした。自覚するぐらい疲れが溜まっていたからなのか、すぐにぐっすり寝ることができた。
そして、しばらくして、いや、実際にどれだけの時間が経ったのかわからないが、急に、頭の中にユラムの声が響く。
『アカリ! 起きなさい』
「え? えぇ!? 」
どんなところでも野宿で慣れていたからだろうけどぐっすり眠っていたら突然大きな音がしたので慌てて飛び起きた。起きたのはいいんだけど勢い余って杖にぶつかってしまった。
「いってぇ」
『あんた何してるのよ』
「何事だよ……」
ユラムからは呆れられたけどそれでも今の痛みで大分意識がはっきりした。うん、所謂怪我の功名というやつだ。そして立ち上がってあたりを伺ってみると少し明かりはあるようだけどまだ暗い。どうやらまだ夜のようだ。夜に何事だ?
それでも、何もないのにユラムが声をかけるなんておかしいと思ったのであたりを見渡す。すると、チブラの方がおかしいことに気がついた。その扉にヒビが入っている。寝る前までは付いていなかったから僕が寝ている間に付けられたってことだよな。
「な、なんだ……? 」
未だ事態を把握してないけどそれでも何かが聞こえた気がしたので耳を澄ませてみる。聞こえてきたのはもう一度扉に何かがぶつかってくる音だけ……いや、違う。悲鳴だ! 悲鳴が聞こえて来る。ん? 悲鳴の方もやばくないか? どうして悲鳴が聞こえて来るんだ?
「うおらあああああああああ」
疑問を考える間も無く、また別の叫び声が聞こえたと思ったら扉が吹き飛んだ。誰だ? いや、わかっているけどさ……まだ信じたくないんだよ。こんなことをしそうなのは……あいつらしかいないけどさ。
「ん? どうやら先を越されてしまったみたいだね、世良」
「ああ、みたいだな小沼山」
そとがかなり明るいみたいでその光でシルエットが二つあることがわかった。そして二人の声を聞いて……はっきりした。信じたくなかったけど、現実がそれを証明している。今、ここで扉を壊したのは、小沼山と世良、僕のクラスメートたちだ。
「お前ら……何してるんだ」
「それは君も同じだよね? 湊。神杖に手をかけちゃってさ」
それでも、最後の希望とばかりに二人に聞いたけど逆に小沼山に言い返されてしまう。ま、まあ確かに僕の手は今、杖を掴んでいる。でも別に盗もうと思って掴んでいるわけではないんだよ。それを説明してもどこ吹く風だ。
「何を言っているんだ? まあいいや。盗む気がないのなら……それを俺たちに渡してくれないか? そうしてくれると助かるんだが」
「嫌だね」
「なぜだ? 」
「村人のものだろ」
そう提案されるけど僕は反対する。これは村人のものだ。だから、これを盗ることはできないし、小沼山たちに渡すこともしない。しかし、その答えを聞いた小沼山はフッと鼻で笑い、衝撃的な事実を僕に伝えた。
「違うよ……だって誰も取りに来ないだろ? 」
「取りに来ない? 」
「ああ、もしかしてお前、気が付いていないのか? 」
「? 」
どういうことだ? 悲鳴が聞こえて来るから外で何かが起きているのということはわかるんだけど……? それにしては、今の時間って夜だよな? やけに明るいけど……え? まさか。
それに思い至った僕の顔はかなり青ざめていただろう。小沼山達の持っている光源、火のついた木の枝だけではその変化を見ることはできなかっただろうが、それでも僕が息を呑んだことは伝わったようだ。
「そうだよ。俺たちがこの村に火を放った。はっ、ひどい話だよな。普段はあんなに大切そうにしていたのにイザとなれば誰一人としてこの杖を取りにこない。なら別に俺たちがいただいてもいいだろう? 」
「それは……」
村に火を放つ。それがどういう意味を持つのかこいつらはわかってやっているのか。それに、取りに来ないなら自分達が取ってもいいだろうってそれさすがに暴論というか盗人猛々しいという感じだよね。それを僕は追及する。
「ど、どうして……」
「どうして? か、さあな。詳しいことは知らないけど勇者に持たせたくないらしいぜ」
「勇者? 」
勇者ってなんだよ。そりゃ異世界転生の話としてはおなじみの内容だけど今までそんなこと聞いたことないんだよね。でも、小沼山たちは特に説明をする気はないらしい。
「その感じだとやっぱり知らないらしいな。ああ、王宮から一人逃げた奴がいたって聞いたけどそれがお前だったんだな」
「逃げたって」
そんな風に伝わっているのか。まあそういう感じで神崎たちに誤魔化しておいてくれと頼んだわけだしいいのだけどさ。それよりも気になるのは、
「お前らは誰に言われてきているんだ? 」
「……お前には関係ない話だ」
「あるに決まってるだろ」
すげなく冷たくあしらわれてしまう。でも、関係あるだろ。自分のクラスメートが関係しているだぞ。この世界風に言うならば同郷の人間が関係しているってことなんだから。それより……勇者ってのは少し気になる。すると、ユラムが伝えてくれる。
『まあどうせ王宮が用意した勇者でしょうね。それとあいつらのバックにいるのはおそらく邪神アルムよ』
「邪神アルム……」
「? 誰だ? そいつ」
「違う、だと……」
じゃあ、こいつらは一体誰に召喚されたっていうんだ? 他に召喚するようなやつって……あ、そういえば、魔王がいたか。でも、それを言及しようとするより先に、小沼山は話を切り上げる。
「もういいだろ? ま、それにしたってお前が王宮の人間なのは確定だから殺してもいいな。世良、頼む」
「ああ……」
「どういうことだよ! 」
詰め寄ろうとしたけど世良が前に出てきて小沼山に近づくことができない。。くそっ、これ以上話すようなことなんて何もないってことかよ。つーかユキたちは? ユキ達は無事なのだろうか。
『あの子達よりも自分の心配をしなさい……それよりも、気をつけて。あの世良って奴、戦闘系よ』
「まじかよっ」
世良が僕に向かって走ってくる。こないだの山賊たちのことが思い出される。丸腰で戦ったとしても勝ち目がない。いや、そもそも戦おうだなんて考えがおかしいのかもしれない。戦闘系の能力ってことだけど……あいつも素手で向かってきているな。
「ウグッ」
戸惑っていたのが仇となったのだろう。結局僕は逃げることも応戦することも選択することができずに世良の拳を受ける。拳を当てられた瞬間にユラムが何かつぶやいたような気がするけど気にしてられない。そのまま後ろの壁に激突する。
「はぁ……はぁ……」
「!? 」
「へえ、世良の攻撃を受けて意識を失わないなんて意外と意志が強いんだな」
「なんの……話だ」
「でも、悪いけど容赦しないから、世良、お願い」
「くそっ」
話をしようにも、一切こちらと会話しようとする気配がない。なんでだよ……お前ら……僕たちは元々がクラスメートじゃなかったのかよ。同じ世界からきた同郷の人間じゃなかったのかよ!!! どうして、そこまで殺そうとするんだ。




