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日々を繰り返す少女13

 

「えっと……ユキさん? 」


 おい、ユラム、説明してくれ。気がついたら山賊たちが倒れていてユキさんに抱きつかれているんだけど。この状況に困惑しかない。


『え? ああ、あんたの体を借りただけ』


 借りたって……えぇ!? 憑依したってことか? お前そんな力あったんだな。あ、だから山賊たちが倒れているのか。でも、こいつらって死んでいないよな……。


『ええ、大丈夫よ。殺していないわ。それに、もう一つ朗報よ』


 朗報? なんかいいことってあったっけ? ……あ、もしかして、さっきユキさんの体が輝いたのってまさか。


『ええ、彼女の呪いが解かれたのよ』

「そっか……」

「よかった……アカリ」


 ユキさんはそう言っているけど、よかったのはユキさんもだよ。でも多分気がついていないのかな? まあ、明日になればわかるだろうね。それよりもユラム! お前、憑依してなんとかできたのならギンガの時もなんとか死なせずに済んだんじゃないか?


『嫌よ。私が何度も地上に降りるわけないじゃない。それに……あんまりしたくないし』

「え? 」

「アカリ? 」


 ユラムの言っている意味がわからないので思わず声に出してしまった。それをユキさんに聞かれてしまって……って、ちょ、ユキさん!? 僕は今のユキさんとの状況に驚いてしまう。


「い、いや。なんでもない。でも、少し離れてくれないかな」

「いや? 」

「嫌じゃないけどさ……」


 勘違いしてしまうから!こっちは思春期真っ盛りの男子高校生だから。それに今の「いや?」って言い方かなり可愛かった……やっぱり美少女は何をやらせても可愛いんだね。でも、ちょっと待てよ? 呪いが解けたということはつまり……だな、


『まあ正確にはまだ無自覚ね。無理やりもっていったけど本人はまだ自覚していないわ』


 そ、そうなのか。それでも……彼女のこれからを決めてしまった責任はある。決めたというよりは歪めたという方が正しいのかもしれないが。そんな風に思考を飛ばしているとユキさんは不思議に思ったようだ。


「そういえば体はなんともないの? 」

「え? 僕は……」


 そういえば斬られていたんだっけ。痛みはあんまり感じないけど……足の方もって今は確認できないじゃん。抱きつかれている状態で下の方みたらどうなるかなんてわかっているし僕は紳士だからここで下を向くような下心を持ち合わせていない……そりゃ、ちょっと魅力的に思ったけどさ。


『あなたって変態紳士ね』


 頭に変な文字をつけないでいただけると嬉しいんですけどね! でもまあ胸のあたりに感じる柔らかい感触に理性がゴリゴリと削られていっていると思う。ユラムと会話しているからなんとか最後の理性を保っていられているんだよね。


『あ、でもそろそろユキには離れてもらった方がいいかも』

「あの、ユキさん? そろそろ移動したいので離れてもらっても……? 」


 ユラムに言われたからではないけど、もう一度離れてもらうようにユキさんに伝える。でも、彼女はもう一度僕を見て、


「私にひっつかれてるの嫌? 」

「それは嫌じゃないんだけど……その、そうだヒヨリ! ヒヨリを助けなきゃ」

「……」


 ん? 急に機嫌が悪くなった? てかその上目遣いやめてもらえませんか? なんで瞳がちょっと潤んでいるんだよ。ほんと勘違いしてしまうから……勘違いで収まらないことがわかっているのがなおタチが悪い。そんなことを思っていたらユキさんが言葉を発する。


「ユキ」

「ん? 」

「これから私をユキって呼んだら離れてあげるわ」

「わ、わかったよユキ」


 なんだろう。こんなこと前にもあったような。神崎さんの時も同じようなことがあったような。なんでこうも女子っ呼ばれ方に拘るのだろうか。


『それを理解できないといつまでたっても童貞よ』


 ねえ、童貞って言いすぎじゃない? 別にそこまで悪いことじゃないでしょうが! そもそも僕はまだ高校生! 17歳ですよ? 


『え? だって私の調べだとあなたの』


 あーあー、聞きたくない。クラスメートの情事事情なんて聞きたくない。それよりも、今、この状況のことに気を配りましょうよ。ユキさん……ユキが離れてくれたことだし。先に進もう。さっきも言ったけどヒヨリを助けなきゃ。僕たちを逃がすために囮役になってくれたんだし。でも、それは叶わなかった。


『悪いけどそれは無理ね』

「……? がはっ」

「アカリ?? 」


 ユラムの謝罪を聞いた瞬間に、突然口から大量の血を吐き出す。そしてそのまま立っていられなかったので地面に倒れる。えっと……これってどうなっているんだよ。


「うぐっ、がっ」

「ちょ、アカリ! どうしたのよ」


 それは僕が聞きたい話なんだけど。ユラム! お前何か知っているだろ。頼む、説明してくれないか。


『単純なことよ。神である私に耐えられなかったのね』


 そういうことかよ。人間には過ぎた力ってことか。過ぎた力は身を滅ぼすってことね。


『そうね。これでもギリギリなのよ? 死ぬことは多分ないけどそれでもしばらく倒れていてもらうわ』

「そういうことか」

「え? ちょっ」

「ごふっ」


 最後にもう一度大量に血を吐き出して僕はまたしても意識を失った。


「アカリ! アカリってば! 」


失う直前に今にも泣き出しそうなユキと必死に僕の名前を呼んでいる声が聞こえた。でも、僕はその呼びかけに一切応えることができなかった。








「…」

『あ、意識戻った? 』

「ここは……」

「あ、アカリさん! 」

「アカリ! 」

「よかった……目を覚ました」


 目を開けると先ほどの時と同じように倒れていた山賊たち……ではなく、カナデさん、ヒヨリ、ユキの三人の姿が見えた。体を動かそうとしたら動かせない。でも、背中にかなり柔らかい感触を感じる。


「ここはどこなんだ? 」

「私のお屋敷よ……お父様は牢屋に繋いでおけって言っていたけど止めさせたの」

「私、なにか飲み物を持ってきますね」

「ああ、ありがとう。ヒヨリも付いて行ってもらえるかしら? 」

「わかったわ。ほら、カナデいこう」


 カナデさんとヒヨリが部屋から出て行く。飲み物をもってきてくれるのか。これでこの部屋に残っているのは僕とユキの二人だけだ。そういえば、僕倒れてからどれくらいの間眠っていたのだろう。それから倒れてからどうなったのか知りたいな。


「僕が倒れてから……どうなったんだ? 」

「うん、アカリが倒れてすぐにあのカナデって子が来たの。そしてそこからギルドの職員を呼んで来てもらって治療をすることにしたの。でも全然良くならなくて……傷は治ったのに」

「そうなのか? 」


 僕が意識を失っている間にそんなことが起きていたなんて予想もしなかった。てか僕が意識を戻さなかったのって倒れた原因によるものだよね。


『そうね。神をその身に堕ろすとか傲慢にもほどがあるわよ……その罪もあるから能力での回復はできなかったのよね』


 そっか……それでも、ユラムありがとう。お陰様で助かった。あのときお前が行動してくれなかったらきっと、僕は死んでいただろうし。そんなことを思いながら僕はユキの方に顔を向ける。


「どうかした? 」

「いや、なんでもないよ」


 ユキの呪いも解けたし、これでここでの事件は全部万事解決、だな。そう思うんだけど……、


『それにしては浮かない顔をしているけど?』


 ははは、ばれちゃったか。ユラムに隠し事なんて絶対にできないし、当然といえば当然なんだろうね。それで、思っていたことってさ……まあなんていうか、『力』が欲しいなって。


 結局さ、最後はユラムが全部なんとかしてくれたわけだろ? 自分一人では無理だから周りを頼るって言っても今回の結果はなんか違うと思うんだ。そりゃいつもユラムのことを頼っているのに何を今更って言われたらそれまでなんだけどさ。


『はぁ、そうねぇ。そうなるなら、今回の件はしてよかったってところかしらね……また私の力を当てにしてもらっても困るもの』


 いやこんなの続いたら僕間違いなく死ぬでしょ? それぐらいはわかってるって。ただ、それでも守るために、自分の覚悟を守るための力が欲しい。権力とかそういうのもあるけどさ。前回のループの時、僕にもっと権力とかそういうのがあればユキさんは助かっていた可能性があるわけだし。


『それもそうね…ならそんなあなたにぴったりの場所があるわ』


 それって、どこ? ピッタリって言われても、そう簡単に力って手に入れることができるものなのか?


『スイレンという村よ。そこに、かつて私が使っていた武器、神杖があるわ……私が使ったみたいには無理だけど、それでも一度私を入れたあなたなら、少しは使えるんじゃないかしら? 』

「……スイレン」

「え? 」

「なあ、ユキ、スイレンって村、知っているか? 」


 唐突になるけど、僕はユキに尋ねる。疑問に思われるだろうけど、仕方がない。けれど、ユキは特に気にした風もなく、答えてくれた。


「スイレン? ええ、有名だもの。『七元徳の杖』があるところでしょ? 」

「『七元徳の杖』? 」

「昔、神様が使っていたという逸話のある杖よ……でもどうして急に? 」

「ああ、傷が治ったら向かおうと思ってさ」

「……」

「ユキ? 」


 僕の言葉にユキは黙り込んで思案を巡らせていた。まあ突然そんなことを言われても戸惑うよね。でも、悩んでいたところが予想とは遥かに違った。


「そうね。助けてもらったし。お父様にはうまく誤魔化しておくから今日のうちに逃げなさい」

「……あ。いや、それはいいよ」

「え? でも私は今日死ぬのよ? 明日なんてこな……」

「ユキ! 」


 扉が急に開いて、ヒヨリとそれから公爵が中に入り込んできた。そして僕を……僕の隣に立っているユキを見て信じられないという顔をした。あれ? そういえば今の時間っていつだ? 今の時間がわからないからなんとも言いようがない。さらにユキも自分で信じられないといった顔をしている。あーこれってもしかして……。さすが侯爵というべきかこの部屋に時計が置いてあって……その日付がもう日付を越えている時間を指していた。


「ユキ! 」

「ユキ! 呪いが……解けたのね」

「え、ええ……何故だかわからないけど」

「……」


 チラリ、と僕の方をヒヨリが向いてきたけど僕はただ首を縦に一回だけ降ってそれから口で「後でちゃんと話す」という形をした。これで伝わってくれるといいんだけど。侯爵と、それからヒヨリから祝福の言葉を受けてユキは嬉しそうにしている。


「よかった……」

「もう! ヒヨリさん! どうして急に走り出したんですか……えっと、これは……? 」

「これで、僕を逃がす必要がなくなったね、ユキ」


 ユキに告げる。約束どうり……いや、ユキが生き残った以上、僕が不用意に殺されるようなことはないはず。しかし、ユキの行動は予想外だった。


「うん……アカリ! よかった! 」

「あ、ちょ、ユキ!? 」

「小僧! 貴様あああああ」

「あんたなんでユキに抱きつかれてるのよ。てかなんでユキを呼び捨てなのよ! 」


 またしてもユキに抱きつかれる。ユラム、本当に彼女は無自覚なんだよな!て か向こう二人からの視線がかなり怖いんですけど。これ、別の意味で殺されやしないかな。まさか抱きついてくるなんて本当に予想外だよ。頼む、本当に理性保って欲しい。



「み、みなさん落ち着きましたか? 」

「え、ええ」

『いやー見てて楽しかったわ』


 ユラムは楽しんでいるけど僕としてはかなり冷や冷やだったからね。ユキさんは抱きついてくるし他の三人からは絶対零度の視線が飛んでくるし。寿命が本当に縮んでしまった気分なんだけど。


「あーこほん」


 公爵が誤魔化すように咳を一つする。このどうしようもない空気を変えるためにはそれしかないね。


「あー何が起きたのかはわからないが娘の呪いは解かれた。約束通り君とカナデの二人の処刑はなくそう」

「ほ、本当ですか! 」


 カナデさんが嬉しそうに言葉を発する。いやぁもう一つの心配事もちゃんと済んでよかった


「ただし」


 ん? さらに言葉を続けるみたいだ。なんか怖いんだけど。ただし僕は処刑しますとかなったら最悪なんだけど。


「なぜユキが君に抱きついているのだ」

「そ、それは……」

「なんか抱きつきたくなっただけですよ、お父様」

「あの、ユキ? そ、そろそろ離れてもらえないかな? 」

「でもアカリ意識を失っていたばっかりなのよ? 心配だわ」

「ははは」


 なんで離れようとしないんだこの子。もしかしてアレか? 無自覚だろうと好意を抱いた人間に対してそういう対応を取るっていうことなのか。てか意識を失ってばっかりで心配ならそれこそ離れてください。


「アカリさんから離れてください。怪我人ですよ」

「そうだよユキ。ここは離れろって」


 二人からの……特にヒヨリからの視線が痛い。あーヒヨリは知っているからね。ユキの呪いの解き方を。そして実際に解かれているという事は……僕にどんな感情を抱いているかなんて明らかなわけだし。でも怪我人という考え方はユキにあんまり関係なかったみたいだ。


「ふふっ、アカリ食事とってないもんね。お父様アカリのために食事を用意してもらえるかしら? 」

「え? あ、ああすぐに食事を作らせよう」

「ええ、私を救ってくれたのはアカリなのだから。命の恩人なんですもの」

「そうなんですか? アカリさん」

「た、多分」


 そして公爵は部屋から出て行った。多分厨房に行ったのだろう。また、それと同時にユキが僕から離れた。ユキ以外の三人が同時にホッと息を吐く。カナデさんに聞かれたから正直に答えるけど……うん。そんな僕にユキさんからも質問が飛んでくる。


「そうだ。アカリ……聞いてもいい? 」

『私の事ね』

「あ……今は聞かないでくれると助かる」

「そう? ……そうね」


 聞きたそうな顔をしているけど、我慢してもらうしかない。てかユラム、お前、ユキに話したのかよ。


『ユキに、じゃないわ、ユキと、よ』


 もっとひどかった。ああそうか。憑依していた時にユキその場にいたもんな。だからそこで会話をしたって事か。最悪な事に僕にその時の記憶がないんだよね。いったいどんな事を話していたのか。でも、ヒヨリもカナデさんも僕たちの会話は全く意味がわからないので当然疑問が出てくる。


「どうしたんだ? 」

「もしかして……アカリさんの能力の事ですか」

「え、ええ」

「ん? ユキこいつの能力を知ってるの? 」

「少し見ただけよ」


 ユキの返答を聞いてヒヨリとカナデさんの二人は何か言いたげだったけどちょうどタイミングが悪く公爵が料理人と一緒に入ってきたので一旦中断した。僕はそこで遅ればせながら食事をとる事にした。ただ、またしても予想外の事が起こる。ユキが僕に向かって言う。


「アカリ、動かないでいいわ」

「え? 」

「はい」

「あ、あの」

「ゆ、ユキ? さすがに食べれるから」

『あら? いいんじゃない? 美少女から「あーん」してもらえるなんてそうないわよ』

「ん? どうかした? 」

「あーやっぱり頼む」


 最初は断ろうと思ったけどユラムの言葉を聞いて思い直した。うん、美少女が食事を運んでくれるとか人生で絶対にない事だしね。誘惑に負けた僕を待ち受けていたのはまたしても三つの絶対零度の瞳。うん、これは少し自業自得の面もあるけど……まあ、仕方がないよね。そんなことを思いながら僕は食事を食べて、そして次の日。

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