日々を繰り返す少女12(ユキ視点)
今回はユキ視点です
「な、何が起こった」
山賊たちが何か言っていたけどよくわからない。だって、今見ているものが信じられないから。山賊の人がアカリに向かって刀で首を刎ねようとした……確かに振り抜いている。でも、首に当たる直前でその刀は折れてしまった。そしてアカリは何事もなかったかのように立ち上がる。
「ふぅ」
「ア、アカリ……? 」
「全く、しょうがないわね」
「え? 」
言葉遣いが先ほどと全く違う。まるで人格が変わったみたいに。私は慎重に話しかけるも無視されてしまった。アカリは私よりも他のことに興味があるみたいだった。
「邪魔」
「うわああああああ」
アカリが呟くと同時にアカリを掴んでいた男たちが吹き飛ばされる。すごい。あんな力、初めて見た。山賊たちの慌てようがよくわかる。だってあれは間違いなくアカリの能力。それ以外考えられないから。
「な、なんだこいつ」
「こんな能力を持っていたのか」
「さて、と。ユキを返してもらうわ」
「こいつ口調も変わっていないか」
「うーん、やっぱりアカリの口調を真似るの難しいわね。ま、じゃあ忘れてもらうことにするわ」
「は?」
何を言っているの? アカリの発言が全く理解できない。今の言葉の意味って記憶を消すってこと? でも、それじゃあアカリの能力って何? 吹き飛ばしたのはいったいどうやって? それに、刀を折ったのも。私は知っている、能力は一人につき一つだと。それなのに今のアカリは複数の能力を持っているように見える。
「何を言っているんだ !」
「気持ち悪い……おいお前ら、やっちまえ」
「おおおおお」
雄叫びをあげて突っ込んでいく山賊たち。雄叫びをあげないと体が動かないのだろう。それほどまでに今のアカリは、不気味だ。武器を持って突っ込んでいく人たちもいれば後ろで火や水を生み出してぶつけようとしている人たちもいる。私は思わず叫ぶ。
「アカリ! 」
「その程度の力で……何ができるのよ」
しかしアカリは意に返さない。ちょっとだけ視線を向けるけどすぐにつまらなそうに言葉を吐く。アカリがつぶやくと、アカリの周囲に半透明の膜が発生した。そしてその膜は全ての山賊たちの攻撃を防いでいる。
「すごい……」
「な、なんだその力は」
「さて、遠距離から攻撃してきた人たち」
「ひっ」
「返すわ」
その言葉と同時に膜で防いでいた火などが全て跳ね返されて……放った本人にぶつかる。全員が自分の能力で生み出した物質を受けて倒れた。どうなっているの。私はただ、呆然とするしかない。いや、私はまだ呆然だけで済んでいるけど山賊たちはそれよりも、恐怖を感じている。
「は、跳ね返しただと」
「ひいい、化け物だ」
「こ、こんなんに勝てるわけがない」
「何を言っているのかしら? 」
「あっ」
未知なるアカリを恐れたのか山賊たちはここから逃げ出そうとした。次から次へと情けない叫び声をあげている。さっきまでの威勢はどこに行ったのだろう。でも、急に立ち止まった。いや、立ち止まったというよりは固まってしまったという方が正しいのかもしれない。山賊たちは驚きの声を出しているから。
「う、うごけねぇ」
「なんでだよ」
「そりゃ、私が縛っているに決まってるじゃない」
「な、なんで」
やっぱりアカリが何かしたんだ。だからこそ、彼に恐怖を抱き始める。だって、相手に干渉する能力まで持っているなんて。そしてアカリは山賊たちにこれ以上ないほど冷たい視線を向けている。アカリのあんな視線、初めて見た。
「なんで? 逆に聞くわ。なんであなたたちは逃げようとしたの? 」
「え? 」
「アカリは勝ち目のない戦いでもユキのために最後まで戦おうとした……それをバカにしたあなたたちがどうして逃げるの? 」
今のアカリの言葉で私は二つのことを理解した。一つ目はアカリの中にはきっと得体のしれない存在がいて、その存在が果てしない存在であるということ。きっとヒヨリの能力の影響を受けていないことも関係があるのだろう。そしてもう一つは、私のために本当に命を賭けてくれるということ。疑っていたわけじゃないけどここまでしてくれるなんてね。……なんだか嬉しいな。
そう思ったときに胸の内が少し暖かくなった気がした。でも私はそれに気がつく前に別のことに意識が向いた。またしてもあがる、山賊たちの悲鳴。
「ば、化け物め」
「おい、一つ聞くがよ。なぜお前最初からその力を使わないんだ」
「それじゃあ意味ないでしょ? それに私は元々出てくるつもりなんてなかったし」
「じゃあなぜ出てきた? 」
「決まってるわ。あなたたちの物言いがあまりに酷かったからね。アカリの覚悟を嗤うような振る舞いは許せないわ」
「へええ? それで……どうするって? 」
「愚問ね」
恐怖を感じている山賊たちを前にアカリは胸の前に手を持って行き、そのまま人差し指だけ立ててそっと空間をなぞる。すると三日月状の風の刃が出てきて山賊たちを切っていった。え? こ、殺してしまったのだろうか。
「ぎゃあああああ」
「ひいいいいい」
「安心して? 殺しはしないわというか殺せないのよね」
「ははっ、殺せないか。いいことを聞いたぜぇ」
「危ない! 」
山賊のリーダーっぽい人がアカリに向かって持っていた剣を振り下ろす。アカリが殺さないとわかった瞬間に向かっていくなんて……。それにしても、アカリは大丈夫かな。筋肉がかなり着いた腕で振り下ろされる剣はきっとかなりの威力を持っている。さすがに厳しいかもしれない。
「ふうん、ただの『肉体強化』なのね。それもかなりレベルの低い」
「なっ」
「え? 」
「でも、残念。それで私の結界を破るのなんて無理よ」
「くそっ」
吐き捨てるように呟くとアカリから距離を取る。アカリは余裕そうに見える。でも、それよりも、アカリの今の言葉……、
「なんで俺の能力がわかったんだ」
「さあ? でも今言ったところで関係ないわ。だって、忘れるもの」
アカリは指を鳴らす。すると、頭上に大量の剣が生み出された。これって……具現化能力の最上位じゃないの? さっき山賊たちが火や水を生み出していたけどそれらを合わせてもかなり高度な能力であるということはわかる。そして、アカリは冷酷に告げる。
「さあ、終わりよ」
「ま、待て」
相手の言葉を待たずに剣が放たれる。一斉に剣が山賊たちに突き刺さっていく。一人一本、先ほどまでで倒れた人たちの分も過不足なく正確に貫いていく。そして、私をずっと抑えていた、後ろの男にも。
「がっ」
「うぐっ」
そして当たった人たちはみんな倒れた。突き刺さっただけなのに? もしかして毒でも塗られていたのかな。それなら納得かな。そして私は解放された。急に押さえつけられたいた力が消えて体がふらついてしまうも、それでもなんとか立ち上がる。そんな私を見て、アカリ? は優しく微笑む。
「違うわよ。これは毒じゃなくて、人の精神を直接攻撃したの」
「え? 」
「ふふっ、これなら一度に倒せて記憶も消せる。一石二鳥でしょう? 」
「……」
え? 何この人? 言っている意味がわからない。私には……いや、私の知っている世界とは常識がかけ離れすぎている。精神を攻撃する……おまけに作り出した剣で? 私は目の前の現象が理解できない。
「あ、あなたは……」
「私? うーん、知りたかったらアカリに聞いて? 」
「アカリに? 」
「ええ」
今のアカリ? の正体を知りたかったけどはぐらかされてしまう。そしてアカリは私の元に近づいてくる。あ、もしかして……私の記憶を消そうって言うのだろうか。それは嫌だ。どこまで消されるのかわからないけど、アカリとの記憶は消したくない。
「ふうん、まだ無自覚ってところかしら」
「え? 」
ついに目の前にこられて……消される、そう思ったけど頭に優しく掌を乗っけられる。そしてゆっくりとなでられる。それを自覚すると、少しだけ頬に熱が集まった。
「関係な……くもないけどこっちの話ね」
「そ、そう」
私は目の前の存在が言っている言葉の意味がわからない。でも、きっと、理解することなんて絶対にできないのだろう、私は半ば諦める。そんな私にアカリ? はなおも聞いてくる。
「あなたこれからどうするの? 」
「これから、ですか? 」
「ええ、もし明日が来たのなら、あなたはどうする?考えたことなかったでしょ? 」
言われたので考えてみる。明日、か。私に明日なんて来ないと思っていたから何も考えていなかったけど……どうしようかしら。うん、そうね。
「旅に出てみたいわ……世界をみてみたい」
「……」
「どうかしたの? 」
「いいえ」
どうして驚きの表情をしたのかわからないし意味深な笑いをしてきたけど……無視しましょ! そうね。やっぱり世界をみて回りたいけど一人はなんか嫌だな。ヒヨリは言ったらついてきてくれそうだから大丈夫よね? あ、でも…アカリとも一緒に旅したいな。もう少し、一緒にいたい。
どうしてこんなことを思ったのだろう。急に出会った異性だから緊張しているのかな。私のために命をかけてたんだよね。それに、さっき走っていた時に握られた手、暖かかった。
アカリの方を見ようとしたけど何故だか見ることができなかった。どうしてだろう。急に……彼を見ることができない。
「ま、これぐらいで充分かしら? 」
「え? 」
「それじゃあ元に戻すわね」
「え? あのっ」
充分ってなに? 私がその言葉の意味を聞き出そうとした瞬間に元に戻るみたいだ……いや、戻るって何? でも私が次の言葉を発する前にアカリは動きを止めた。そして……、
「あれ? 」
先ほどまでの雰囲気は消えていた。何が起きたのか全く分かっていないような状態のアカリ。間違いない。戻ったんだ。
「アカリ! 」
本当に戻ったことがわかった瞬間、気がついたら私は駆け出していて……そしてアカリに抱きついた。なぜだかわからないけど……ただ、この時間がとても心地よかった。
その瞬間に私の体は輝きだして……そしてその光はすぐに消えた。でも、私はそのことに後日、アカリが教えてくれるまで気がつかなかった。




