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日々を繰り返す少女11

 

「ぐはっ」

「こいつ、弱くね? 」

「え……? 」


 僕は今、地面に倒れている。山賊の一人に向かっていったと思ったら横からの攻撃を受けてそのまま倒れてしまった。不覚を取ってしまったか。周囲からの呆れたような視線が僕に向かって飛んでくる。落胆や呆れの視線だ。山賊たちまで驚きで固まってしまっているよ。


『いや、普通にあんたが弱いから』

「なんだよ。あんなことを言っておいてお前弱すぎ」

「というか能力使えよ」

「……」


 常に使っているんです! そう言い返したいけど痛みで思うように言い返すことができない。山賊たちは僕を見下ろして笑っている。うん、ユキさんの顔を見れない。かなり呆れられている気しかしないし。そして、おずおず、と言ったように僕に話しかけてくる。


「あの。もしかして戦闘系の能力じゃない……」

「ははは、大丈夫だから」

「本当に? 」


 嘘です。でも、ここは虚勢でも張らないといけない時なんだよね。ただ、絵面的にかなり情けないことになっていることは否定できない。そして、そんな状態の僕を山賊たちはここぞとばかりに笑う。


「彼女にまで心配されてやんの」

「いいかお前……能力っていうのはな」


 笑っている中で、山賊の一人がこちらに手を向けてきた。まあ、考えられるのは僕に自分の能力を見せつけるのだろうな。実際、こちらに向いているその掌に炎が発生した。


『ふうん、なんの変哲もないただの発火能力じゃない』

「こうやって使うんだよ!」


 そしてそのまま手を振り払うとその炎が玉となって僕の方に向ってくる。ユラムみたいに冷静に考えないと。そこまで速度はないから避けることは簡単だ。でも、ここで避けるのはまずいな。僕は自分からその火の玉にぶつかっていく。


「うぐっ」

「ちょっと……なんで避けないのよ」

「ここで避けたらユキさんに当たるでしょ」

「あ……」


 ユキさんは驚いたような顔をする。そう、僕とユキさんが一直線に並んでいるところを狙われてしまった。だから避けるわけにはいかなかったんだよ。それに、受けてみたけどそこまで強い攻撃じゃなかったし。すぐに立ち上がることができた。もしかしたらユラムの影響で対魔力が付いているのかもしれない。


『そんなものないわよ。そこの男の威力が弱いだけ……可哀想に』


 お前容赦ないなぁ。それでも攻撃力が0の僕に比べたらマシじゃないのかな。まあ、お陰様でこうして僕はまた立ち上がることができたわけだし良かったと思うことにしよう。


『攻撃力が0ねぇ……』

「へぇ、お前攻撃は耐えれるんだな」

「単にお前の攻撃がショボいからじゃねねか? 」

「違いない」

「は? うるせえよ」

「「「「「ぎゃはははは」」」」」


 こいつら……ここが人通りが少ない、というか人が全くいないということと僕たちがほぼ無力なのをいいことにもう勝負が付いた気でいやがる。こういう余裕綽々な奴らを出し抜くのが楽しいんだけどな。てか攻撃がショボいって言われた奴も笑っているのなんなんだよ。怒りの感情とか出てこないのか。


 そんなことを思うけれどやっぱり現実が厳しいことはかわりない。まずは武器を手に入れないと話にならないんだよね。だから、どうすれば武器を奪い取れるか考えよう。使いやすいというかイメージしやすいのはやっぱり剣だよね。


「でもお前よぉ。今からでも遅くないから逃げたらどうだ? 」

「女の前で格好つけなくてもいいんじゃねえのー? 」

「じゃあそうさせてもらおうかな」

「えっ! 」


 あ、これ使えるかも。山賊たちの提案に僕は乗ることにする。でも、作戦とはいえちょっときついな。ユキさんが呆れを通り越してもはや呆然としている。本当は伝えてあげたいけど……まあ、いっか。


「おっ、お前物分かりいいなぁ」

「アカリ……まあ、これで逃げてくれたら」

「ははは、女にここまで言わせるとかほんとクズだな。お前」


 勝手に言ってろ。僕の作戦に気がついていないみたいだ。その証拠に、歩いて出ようとする僕に、近くにいた男が持っていた槍で僕を突ついた。自分たちの圧倒的優位性から出る傲慢な振る舞いだと思う。僕は肩をつかれたので少し血が出てしまう。さらに体がよろけてしまった。それを見て、山賊たちはまた笑う。……今がチャンスかな。


「こいつっ」

「てめぇ」


 よろけたけれども、すぐさま両手で棒を……金属の部分でない手でつかめるところを掴む。油断しきっていたのだろう。槍はその山賊の手をするりと抜ける。慌てたように取り返そうとするので槍を振り回した。当たりたくないのか山賊はひるむ。そしてすぐさまユキさんのところに戻る。油断しきっていたので僕はユキさんのところに戻ることができた。


「え? アカリ? 」

「てめぇ不意打ちとは卑怯な」

「お前それ格好悪いぞ」


 うるさいな。山賊たちは僕に向かって非難の声を向けてくるけど僕は素知らぬふりをする。格好が悪かろうが卑怯な振る舞いをしようが死んでしまったら元も子もないんだよ。そしてユキさんもかなり動揺している。うん、言ってなかったからね。


「これでユキさんが守れるのなら僕のプライドなんていらないんだよ」

『まあ人に頼ればいいもんね』


 僕一人でなんでも解決しようだなんて考えはもう持っていない。自分一人でできないのなら誰かに頼ればいい。どんな手を使っても僕は自分のやりたいことをやり遂げる。自分の評判とかを気にして結果的に守れなかったらそっちの方が辛いからね。


 僕の行動を見て最初は呆然としていた山賊たちも我に返ったのか次々に怒りの感情を露わにする。怒りの感情を抱いてくれたら攻撃が散漫になるだろうし、いいかも。しかし……、


「お前らおちつけ」


 頭らしい男が静かに山賊たち言葉を告げる。すると鶴の一声で山賊たちは一気に大人しくなった。やっぱりリーダーってすごいんだな。そんな頭に山賊たちは反論する。


「しかし」

「いいじゃねえか。こいつを殺せばこの女は大人しくなるんじゃねえの? さっさと殺せよ」

「おお!! 」

「それに向こうが卑怯な手を使ってきたんだ。こっちだって大勢で叩いたって文句を言われる筋合いなんてないよなぁ? 」


 それとこれとは話が違う。てか僕を殺したところでユキさんが大人しくなるかって言われたらそれもまた違う話だと思うんだけど。そう言いたいけど山賊たちが一斉に襲ってきたので無理だ。とりあえず武器の扱いなんてよくわからないから闇雲に振り回してみるが素人なので当たらない。


「こいつ素人か? 」

「ヤケクソじゃねぇか……こういう時は」


 山賊の一人が僕の頭上に手を向けると僕の上から水が降ってきた。思わずのことで怯んでしまったら、その瞬間に他の山賊が僕の背中を切り裂いた。


「あっ……」


 痛みで手からこぼれ落ちてしまう。そのまま地面に倒れこむ。


「アカリ! 」


 ユキさんの声が聞こえる。かなり声が近くで聞こえたのできっと側に駆け寄ってくれたのだろう。そして僕の様子を見て、慌てているのがわかる。本音を言えば僕なんかに構わないで逃げて欲しい。


「血が……」

「それよりも……逃げて」

「え? 」

「おい、その女を捕まえろ! 」

「あ、きゃああああああ」


 山賊たちがユキさんを掴んで引っ張っていく。そんな気配がする。ユキさんの悲鳴が聞こえて来る。くそっ、僕はこのまま放置かよ。……ここで終わっていわけないんだよ。だから僕は地面に倒れながら山賊たちに言葉をぶつける。


「待てっ」

「たっく、こいつもバカだよな。『力』がないくせに俺たちに刃向かうなんて」

「うぐっ」


 再度僕は山賊たちに蹴られる。踏まれる。地面にほぼ近いから蹴りやすいのだろう。でも、そんなことはどうでもいい。早く、たつんだ。立ち上がらないと……また、守れたかもしれない命を見捨てることになる。


「お? こいつまだ動けるのか」


 痛みで気を失いそうになる。でも、失ってはいけない。手を前の方に伸ばせばさっきの槍に触れる。そして、それを支えにして立ち上がる。


「おい、そいつまだ生きてるぞ」

「あんだけの大口叩いて弱いとか惨めすぎる」

「『力』のないお前は引っ込んでろよ」


 嘲笑が聴こえてくる。でも、もうそんなことはどうでもいい。早く、ユキさんを取り戻さないと。ユキさんに近づこうと足を動かす。しかし近づこうとしたら服を掴まれて突き飛ばされる。そして同時に足に激痛が走った。


「いい加減にしろよな」

「アカリ! 」

「お前は黙ってろ」

「うっ」


 ユキさんも攻撃されたらしい。苦しそうな悲鳴が一つ聞こえたから。でもまだ意識を失ったわけではなさそうだ。息遣いが聞こえてくるし。山賊たちの苛立ちの声が聞こえて来る。


「さて、せっかく拾った命さえも無駄にしようとする奴にはお仕置きが必要だな……おい、刀を持ってこい」

「へい」


 誰かが僕の方に近づいてくる。そして首筋に冷たい感触が当てられる。ああ、これから僕は首を刎ねられるのだろうか。……誰が斬ろうとしているのか見ようと思ったけど体が動かない。ユキさんの叫びが聞こえて来る。それから、山賊たちの嘲笑も。


「アカリ! 逃げて」

「滑稽だよなぁ守ろうとした女の前で殺されるなんて」

「まったくだ。てか公爵の娘の護衛がこんな奴なのかよ」

「その程度でなれるのなら俺たちだってもっといい職を得られたのにな」

「どうせ親のコネとかだろうよ」


 どんどん聞こえてくるのは僕に対しての否定的な言葉。ああ、でもしょうがないのかな? 力がないものは否定される。弱肉強食は世の常だ。……でも、


「それでも……足掻きたい」

「あ? 」


 これで、終わるわけにはいかない。ここで挫けたらいけない。


「『力』が無くたって……自分のできることをしたい。諦めたくない」

「はいはい、でもこれが現実なんだよ」

「お頭、さっさと殺しちまいましょうぜ」

「ああ、そうだな」


 僕の言葉がことごとく否定されている。そしてついに山賊たちはしびれを切らしたのだろう。そして刀が僕の首から離れて……それと同時に僕は無理やり頭を上へ持ち上げられる。真正面から刀を振り上げている男を見る。そいつは僕に対して軽蔑の視線を向けてくる。僕の首を刎ねようと刀が迫ってくる。


 ああ、ここで僕は死ぬのかな。ユラム、ごめん。ヒヨリにダメだったと伝えてくれ……なんとかして言葉を届けて欲しい。僕はここで……終わりだから。


 そう心の中で思ったと同時に刀が近づいて……そして僕はまたしても意識を失った。最後にユラムの声を聞いた気がした。


『はぁ、しょうがないわね。あなたの体借りる(憑依する)わよ』







「あれ?」


 気がついたら、僕はさっきいた場所に立っていた。そして周りを見てみれば……先ほどの山賊たちが倒れている。


「アカリ! 」


 そしてユキさんが抱きついてくるけど…えっと、何がどうなったの?

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