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日々を繰り返す少女8

ブクマありがとうございます

 

「どうしてユキが燃えなくちゃいけないのよ! 」

「まさかあんなことになるとは……すみません」


 開口一番、出会い頭に僕はヒヨリさんに怒られている。もっと悪い未来にしてしまったからなにか言われるかと思っていたけどまさかここまで怒られるとは思ってもみなかった。やり直しができたとはいえあとから来たヒヨリさんが目にしたのは山賊達を含めたかなりの数の焼死体だったという。うん、それを見せてしまったのは本当に申し訳なく思う。ただ、それでも思うことがあるので僕は伝える。


「お前、強いな」

「……」

『その様子だと気がついたみたいね。この能力のデメリットを』


 ああ、失敗した時の憂鬱感もさることながら、悪い未来にした時のこの絶望感がすごいんだよね。自分が動かなかったらこんな未来にならなかったのにって。まあ、「ユキさんの死」という点で共通なんだけど周りの人間の死んだ数に明らかに違いがあるんだよね。その上で、もう一度って選択を取れるのはすごい。今はまだ一回だけだけどこれが積み重なっていったたきっと、心が耐えられなくなるよ。


「私は過去に経験があるからね……それに、この感覚に慣れない方がいいよ。あんたは神じゃない」

「うん」

『反応に困るわね』


 確かに僕は神じゃない……神じゃないけど神が付いているんだよね。ヒヨリさんの過去が少し気になるけどそれを今聞くのはためらわれた。なんとなく、聞いてはいけない雰囲気を感じたから。


「私は何度でも歴史を変える……そして、変えたことによって不幸にしてしまった人たちのことをけっして忘れない。例え、どんなに悪党だとしても」

「そうだよね」


 ヒヨリさんの言っていることはわかる。街を歩いていたから考える時間は十分にあった。何事もなかったらあの山賊たちは生きていたんだ。それを「死ぬ」というルートにしてしまったのは僕の責任だ。それを、蔑ろにすることなんて決してできない。


「でも、悔やんでばかりいても仕方がないわ。どうやってユキを救うのか、考えましょ」

「ああ、そうだね」


 ここで、もう一度ヒヨリさんに会ったら伝えておかないといけないことを思い出したので僕はヒヨリさんに伝える。


「なあ、ヒヨリさん」

「ん? なにかしら。それと、ヒヨリでいいわ。さん付けとか気持ち悪い」

「えぇ」


 女子からの気持ち悪いってなんでこんなにもダメージが大きいのかな。まあ、そんな些事は気にしてはいられない。それに、伝えなければいけないことの方が大切だから。


『いいカッコしいだからじゃない? 』

「そうなのかな」

「はぁ、あんたといると疲れる」

「あーこれはヒヨリに向けてじゃなくてだね……ていうかいいかな? 」

「? なにかしら」

「ユキさんの呪いを解く方法……それを伝えておきたいんだけど」

「……! 」


 これまでつまらなそうに僕と話していたヒヨリは急に僕の方に興味のある視線を向けてきた。現金だなぁと思いながらも僕は説明する


「何! どうすればユキの呪いは解けるの! てか、あんたどうして知ってるのよ」

「なぜ知っているかだけど……それは僕の能力の効果、とだけ伝えておくよ。それで、呪いの解き方なんだけど、父親の望んでいない恋をすることだって」

「は? 」


 テンションの高低差が激しいな。僕の言葉を聞いた瞬間に一気に胡散臭そうな視線に変わった。ジェットコースターに乗ったのかと思うくらい急激に冷めていくのが見える。うん、ユキさんが女性で僕が男性だったからあまり思うことはなかったけど、やっぱり同性だと思うことがあるのかな。


「あんたまさか自分とユキの恋を応援しろとか言うんじゃないでしょうね」

「……正確には誰でもいいけど一番動けるのは僕でしょ?」

「そうだけど、それはあまりにユキが可哀想」

「言うに事欠いて酷すぎないか?」


 なんか僕を全否定された気分なんだけど。わかってますよ! 僕に魅力がないことぐらい。くそっ、だから今まで彼女とかできたことないんだよ! ああ、そういうことね。僕がユキさんの彼氏として相応しくないからそんな視線を向けてきたんですね!


『魅力以前の問題よ? 』


 ユラムは黙っていてもらえない? ここは思春期男子にとってとてもナイーブな話題だから……、


『え?あんたの心なんてどうでもいいわよ』


 それもその通りなんだけど、バッサリ斬らないでください。さすがに傷つきますよ。そんな風にユラムに一方的にいじめられているとヒヨリから質問が来た。


「それで? あんたはなにがしたいの? 」

「今回は僕が登ってユキさんと話してもいいか? 」

「……」


 言いたいことを告げてみる。てか僕なんだかんだでユキさんとほとんど話すことができていないんだよね。それに彼女の能力も少し気になるし。でも、ずっと悩んでいるからちょっと不安になってきた。


「……」

「ダメ、か? 」

「いやいいわ。あんまりしたくないけどダメならもう一度繰り返せばいいし……あんたの策がハマるのならユキは呪いからも解放されるのよね」

「ああ、そうなるね」

「ま、ユキが恋をしてそれを諦めればいいわけよね? 」

「その場合は……」


 どうなるんだ? 呪いが再発するとかそんなことってあり得るのか?


『いや、一度解かれたらそれでおしまいだよ……だからあなたに恋をしてそしてそれが成就することなく終わったとしても問題ないわ』


 あ、そうなんだ。なら安心だな。いや、安心ってどんな感情なんだろう。でも、そういうことをヒヨリに伝える。


「ちゃんと消えるって」

「そう……なら、わかってるわね? 」

「はい」


 もし自惚れで……いや、惚れさせなければいけない時点で最低な男になっているのだけど、その上向こうの恋を否定しないといけないわけね。どれだけ最低な男に成り下がるんだよ僕は。まあそれで彼女たちが生きることができるのなら別にいいか。てか、ヒヨリがちゃんと振らなきゃ殺すって目で見てくるんですけど。怖い。下手なことをしてしまったら絶対に殺されてしまう奴だな。


「それじゃあ行ってきて」

「あ、ああ」


 ヒヨリの視線を受けながらも僕は木を登っていく。そして三階にたどり着いてヒヨリに言われたように窓を4回ノックする。これが彼女とユキさんの会話の合図らしい。程なくしてユキさんがカーテンを開けてくれた。そして驚いたように僕を見た。


「ちょっと待って……ヒヨリに言われて、君と話がしたくて、代わってもらったんだ」


 慌てて言い訳をするように言葉を連ねていく。焦っているせいでタメ口になってしまうのはもうしょうがない。これで不敬罪として殺されるのならそれでいいや。でもとにかくカーテンを閉じようとしていたからそれを阻止しないと話にならない。


「ヒヨリが……? 」


 ユキさんはまだ警戒心を解いていないようだけどそれでも窓を開けて僕と会話してくれようとしていた。


「それで、どうしたのですか? ヒヨリは……」

「さっきも言いましたが、譲っていただいたんです」

「そうですか……それで私にどんな用事でしょうか」

「うん、もし、今日呪いの前に死ぬって聞いたらどうする?」


 僕に細かい駆け引きは苦手なので直球でぶつける。それを聞いたユキさんは特に顔色を変えることをせずに僕の質問に答えてくる。


「別に……どうもしませんけど? 今日で私は死ぬのでしょう? 」

「いや、死なせないよ」

「……」

「僕が死なせない」

「そうですか」


 あまりにも、あまりにも、自分の死に対して無頓着だったので考えるよりも先に言葉が口から出てきてしまっていた。間違いなく後で振り返ったら黒歴史確定。おまけに僕の言葉を聞いた彼女の視線はかなり冷たい。まあいきなりそんなことを言われてときめくような女性っていないからね。……問題がそこではないのはわかっているのだけど。


「まあ、それで本題なんだけど」

「はい」

「君さえよかったら外に出かけないか? 」

「嫌です」


 即答か。公爵のことを考えると家族で過ごしたいって考えるのは自然なんだよね。でも、それはダメだ。ここにいたらきっとユキさんはさらわれてしまう。そしたら絶対に誰かが死んでしまう未来を迎えてしまう。それだけは何としても避けないといけない。でもユキさんの視点で考えたらよく知りもしない男の提案なんだよね……。


「どうしても、かな」

「はい、さすがに今日はお父様と……それからできることならヒヨリと過ごしたかった。人生最後の日だものこの世界で自分の好きな人と過ごしたいと思うでしょ?」

「……」

「……? 」

「それを言われたら僕はもう、何も言い返せないよ」


 この世界で自分の好きな人、か。僕はそういうの無理だったからね。別にユラムのことを悪く思うことはない。なんだかんだで助けてくれているし。でも最後にきちんと親と話したかったなって思っただけ。突然のことだったから。だから彼女の言葉を聞いて、僕はなんとも言えない気持ちになる。命を助けるためとはいえ……彼女の気持ちを踏みにじることになるから。


『どのみち弄んでいることに変わりはないけど……まあ、そうね、急にこの世界に呼んだことはごめんなさい』


 まだ時間がかかるけど……絶対に許すと思う。ユラムだって悪意あって僕たちを呼んだわけじゃないし。だから助けてくれている側面もあるわけでしょ? せめてもの罪滅ぼし的な感じで。


『ノーコメントで』


 はいはい。見てみれば彼女の決意は固い。そんな風に言われるなんて思ってもみなかったからさどうしよう。しばらく黙っていると彼女の方から逆に質問してきた。


「? 、あなたはどうしてそんなことを言うのですか? 」

「……大切な人と何も言えずに分かれた経験があるから、かな」

「……」

「ちゃんと言葉で伝えればよかった。そう後悔してももう遅いんだよね」

「そう。あなたが私を助けようと思っているのはわかりました」

「え? 」

「これでも人を見る目があります。だから言わせてもらいます。今日はおとなしくしておきなさい。でないと、死ぬわよ」

「……」


 もしかして、彼女って、未来のことがわかるのかな。唐突に閃いた。ヒヨリさんもそんなようなことを言っていた感じがするし。てか未来予知ってそのまんまか。あれ? でもそれだとヒヨリさんは自分のことを知らないみたいだったけど……?


「ありがとう、心配してくれて。でも、そんなわけにはいかないんだ」

「どうして? 私の言うことが信じられないの? 」

「いや、信じる」

「……?」


 僕の言葉にかなり困惑している。でも、困惑でも彼女の気持ちが少しぐらついたと思うから、ここでたたみかけよう。


「君の未来視を信じてる。でもだから、僕は逃げるわけにはいかないんだ。じゃないと、代わりに死んでしまう人がいるから」

「……私の能力を知っているの? 」

「いや、知らないよ。あくまで僕の推測。どんな能力かわからないけど、未来のことを知る能力だろうってことはさすがにわかるよ」

「……」

「だから、その未来を変えるために僕はあがく。君の呪いを解いてそしてハッピーエンドを迎えるために」


 強く言い切る。ここは強く言い切らないと嘘だと思われてしまうからね。ユキさんは僕の言葉を聞いて、迷っているようだった。そんな時、僕に頼もしい援軍が現れた。


「ユキ! 」

「ヒヨリ……?」


 ヒヨリだ。いつの間にかヒヨリも三階のところまで上がってきていた。待てなかったのだろうな。でも、これで、僕の方に傾いていたのが大分大きくなったと思う。ヒヨリは僕と同じようにユキさんを説得してくれようとしている。


「ユキ……私はこいつを信じる。ユキのために命を懸けてくれるようなやつよ」

「どうしてそんなことがわかるの? 」

「明日までにユキ、お前の呪いを解けなかった時、処刑されるからだ」

「! 」


 ここに来ていたのはヒヨリだけじゃなかった。公爵本人も来ていた。うっかりしていた。扉が開いたのに気がつかないほどユキさんに集中していたなんて。まあ、一応良かった点を挙げるとすればいい感じに僕の『命を賭ける』を誤解させることに成功したってところだな。

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