表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/120

日々を繰り返す少女7

 

「どうして森に進んでいるんですか? 」

「山賊たちは森にいたんですよね? なら攫った後にその場所に行く可能性が高いと思ったからです」

「そうですね……あ、あの猫が案内してくれるみたいですよ」


 森に向かっているとカナデさんに質問されたのでその理由を説明する。そして言われて気がついたのだが、いつの間にやら猫が一匹いて、僕たちを案内してくれるようだった。本当にこういう時に便利だよな、カナデさんの能力って。生き物の気持ちをすぐに教えてくれるのだから。猫の案内で僕たちは進んで行く。途中獣道を通らないといけない羽目になったけどおかげで昨日と同じところに見張りと会わずしてたどり着くことができた。


「どうやらここみたいですね」

「そうですね」


 僕が生き物に襲われることもなく、二人で木の後ろから覗く。どうやら山賊たちが帰ってきてからまだそこまで時間が経っていないようで武器を持っている人も数人いた。


「ユキさんはどこだろう……」

「あ、あそこにいますね」


 カナデさんが指指す先にユキさんがいた。誘拐されたことによるショックなのかまだ意識を失っているようだ。うーん、意識が戻るまで待った方がいいかな。


「ギルドの人たちはすぐに来ますかね」

「うーん、さっきの騒ぎがこのユキさん絡みなら来ると思うけどどうだろうね」


 カナデさんに説明しながら僕は一つだけ疑問に思っていたことがある。ギルドの人はそれなりの情報網を持っているはずだ。なのにどうして前回の時に僕がここにたどり着いた時にギルドの人がいなかったのか。もしかしてギルドでは森の中に逃げたという発想がないのだろうか。そんなことを思っていたら山賊達の方に動きがあった。


「おい、起きろ」

「う…うん」


 山賊の一人がユキさんの頬を叩いて起こさせる。お前もう少し優しく扱うことぐらいできないのかよ。そして目が覚めたユキさんは辺りを見渡して呆然としている。


「ここは……」

「へへへ」

「きゃあああああああ」

「おっと、騒がないでくれよ、さすがに俺たちも大切な人質を殺したくないからな」

「お頭、もうさっさと麻薬を入れますかい? 」

「入れてもいいが……そうなれば反応は鈍くなるぞ」

「それならやめておきます」

「ぎゃははははは」


 相変わらず気持ち悪い笑い声だ。ユキさんのことを単なるモノとしてしか考えていないのがよくわかる。こういう奴がいるから善良な男性が痴漢の冤罪に巻き込まれるんだよ。


「あの、反応とか何の話ですか? 」

「……あ、後で話します」


 まさかとは思っていたけどカナデさん言葉の意味を理解していない箱入り娘だった!? おいユラム、この世界の性教育はどうなっているんだ。このままだと僕が死にたくなる目に遭うんだけど。


『まあ、諦めなさい』

「……はぁ」

「どうかしましたか? 」

「その純真無垢な視線をやめてください」

「……?」


 よくわかってなさそうなカナデさんはこの際置いておく。これ以上この話題を続けるのは絶対に危険だ。下手な火傷を受けたくない。そしてその雑念を払うように山賊たちの方をまた見れば見張りとして数人が消えていった。そろそろ僕が来た時間になりそうだな。てことは早い所出ないとカナデさんの教育に悪い言葉を聞かされることになる。


「ど、どうしましょう。このままじゃユキ様が」

「……生き物たちに協力してもらうことは? 」

「うーん、どちらかといえば私を守ってくれる感じですね」

「あー……」

『カナデを囮にしてみる? 』


 それは絶対にダメ。確かにそうすれば生き物たちは協力してくれるだろうけど、そんなやり方で終わらせたとしても僕はまったく嬉しくない。というか忘れがちだけどカナデさんの能力はあくまで生き物の声が聞けるだけで生き物を自由に操れたりするわけじゃないんだよな。生き物が協力するかなんてそれこそ生き物の自由だし。あんまり頼りすぎるのもやめておこう。


『そうねぇ……今回も失敗っぽいし』

「え? 」

「見つけた! 」


 僕と反対側が急に明るくなったかと思ったらギルドの人たちが駆けつけてきた。あれ、今回は間に合ってるな……さっきのユラムの不穏な呟きは聞かなかったことにしよう。山賊達は急なギルドの人たちの登場に慌てふためいている。


「な、なぜここに」

「森に山賊がいるという情報があってね」

「ワタルの言葉を信じてよかったわ」

「ユキ様、大丈夫ですか? 」

「ちっ……お前ら、人質がどうなってもいいのか! 」

「きゃああああ」


 山賊の頭らしき人物がユキさんを抱えてナイフを突きつけている。あーこれ典型的な犯罪者の行動っぽいな。でも、見た感じ今回ので助けることができたみたいだな。どうして失敗とか言ったんだ? それからワタルさん、僕たちがギルドに伝えたことが正しいって助言してくれたんだ。


『見たらわかるわよ』

「え? 」

「お前ら……この森に火を放て! 」

「イェッサー」

「止めろ!」


 頭の掛け声を合図にして山賊達は次々と火を手に取り、辺りの木々を燃やし始めた。ギルドの人が止めようとしたが間に合わず、そのまま森に火が放たれてしまった。ちょ、どうして!?


「ぎゃはははは、俺たちもろともみんな焼け死んでしまいな!」

「なんてことを……」

「どうせ俺たちはこのまま捕まってしまったら死刑なんだ、なら死に方ぐらいは自由に選ばないとな!」


 なんだろう、山賊じゃなかったらそれなりに格好いいセリフだったんだけど。山賊がいっているという一点だけで台無しになっている気がする。てか捕まったら死刑ってことがわかっているのならこんなことすんなよ。


「みんな! 早く逃げて」

「あ? おい、あそこに誰かいるぞ! 」

「しまっ」


 かなり近くに接近していたからいつか気がつかれると思っていたけど、ついに見つかってしまったか。山賊の一人がこちらを指差して、そして別の一人がカナデさんに向かって剣を投げつける。危ない! 僕は慌ててカナデさんの前に立ちふさがった。そして投げられた剣が肩に当たる。


「アカリさん!? 」

「大丈夫だから……」

「きゃああああああああ」


 カナデさんに心配されたけど僕は大丈夫だと伝える。剣の傷はそれほどでもなかったからだ。だから、つい、ホッとしてしまた。でも、それが間違いだった。あっという間に燃え広がった火によって木の幹が燃えて、その木が崩れ落ちてきた。僕はそれの下敷きになってしまった。カナデさんを突き飛ばすことで精一杯だった。


「アカリさん! 」

「カナデさんだけでも……逃げてください」


 カナデさんに逃げるように言いながら僕はユラムに話しかける。ユラム……お前こうなることわかっていたのか?


『ええ、そうね。山賊たちは途中で追いつかれたらこの森を燃やそうとしていたわ』


 まじかよ……地面にかなり近いのでよく見えないけど、ユキさんも同様に燃えているんだろうな。ギルドの人たちもかなり予想外だったみたいだし助けることなんてほぼ無理だろう。


「アカリさん! 」


 もう一度カナデさんの声が聞こえたと思ったら、もう一本別の木が倒れてきて……そして僕は意識を失ってしまった。最後に感じたのは燃えるような暑さと、息を吸うたびに入ってくる煙の香りと灰。そして上の方からかかってくる重さ。









「おはようございます、アカリさん」

「え? 」


 そして目が覚めたら目の前にカナデさんがいた。あーこれは、また今日が繰り返されてしまったのかな。窓の方を見てみれば確かに開きっぱなしになっていた。まあユキさんを救うことができなかったわけだし、これも当然かな。


「ふふっ、アカリさん、窓を開けっ放しにしていましたよね?小鳥さんに頼んで鍵を取ってきてもらいました」

「そうだったね」

「ん? 」


 思わず口走ってしまった僕にカナデさんは驚いた顔をしてしまったけどすぐににっこり笑って、


「それでですよ。聞いてください! 朝ごはんはなんだと思いますか? 」

「ケーキ、ですよね」

「あれ? どうしてしっているんですか? 」

「あー……昨日ここの人に聞いたんですよ」


 またしても口走ってしまう。かなり動揺しているみたいだ。でも苦し紛れではあったけれどなんとか誤魔化すことができたみたいだ。それから部屋から出て、ワタルさんと出会って、それから朝食の席になる。


「はぁ」

「アカリさん、どうしたんですか?ため息多いですけど」

「え? いや……大丈夫です」

『あんたねぇ、一度失敗したくらいでなに落ち込んでいるのよ』


 一回じゃなくて二回でしょ。でもなんか憂鬱な気分になる。あそこまで情報を知っていたのになにもできないどころかむしろ悪化させてしまっている。これで憂鬱にならない方がおかしいよ。


「それで、どうしますか? 」

「ああ、ユキさんのところに出かけようと思うんだ。情報を集めに」

「そうですか……では私も」

「あー、カナデさんは森に行って生き物たちから情報を集めてもらってもいいですか? 」

「え? まあ……構わないですけど」

「ワタルさんはギルドの方で資料を集めてきてもらってもいいですか? 」

「ん? まあ……構わないよ」


 二人になにかしらの理由をつけて一人で行くようにする。かなり強引になってしまったせいなのかカナデさんから謎の視線を感じているんだけど、大丈夫だよね? まあ、実際どこか自分でも焦りのようなものを感じている。


『カナデが考えたのはそこじゃないわよ』

「え? 」

「アカリさん? 」

「あ、ははは、大丈夫大丈夫」


 ついうっかり言葉が出てしまった。はぁ、やっぱりちょっとナイーブになっているのかな。しっかりしないと。そんなことを思いながら僕は一人で公爵のところに向かう。向かう理由としてはやっぱりヒヨリに出会うためだ。三度目の正直になるように、今度こそ、頑張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ