日々を繰り返す少女6
ブクマありがとうございます
「それで? あんたはどうやってユキを助けるの? あんたそんなにすごい能力でも持ってるの? 」
「持っているといえば持っているんだけど……」
ヒヨリに問われたけど口ごもってしまう。実際ののところ、僕の戦闘能力は皆無に等しいんだよね。ヒヨリは僕の煮え切らない言葉に呆れたのかため息を吐いてくる。
「ないのね」
「すみません……」
「別にいいわ。私一人で終わらせるつもりだったし」
「一人で、か」
「ええ、前もそうしていたし」
「でも、協力してくれるんだよな」
「まあ、あんたが頼りなさそうだから協力してやるわよ」
上から目線で言われる……けど、向こうが能力を使っているわけだしここは下手に出ないといけないだろうな。それよりもユキさんを救う方法を考えないと。それを伝えるとまたヒヨリはため息を吐く。今度は半ば諦めが混じったため息だ。
「そうね。ユキは……信じてくれなかった」
「まあ、当たり前、なことだろうな」
いきなり君は今日で死にますよって言われてそれを信じることができるの未来を視ることができる人間か僕達みたいにループしていることを自覚している人間だけだろうし。そんな僕を尻目にヒヨリはさらに言葉を紡いでいく。
「でも、未来予知だから信じてくれるかと思ったのに」
「どうして? 」
「え? あんた、ユキの能力知らないの? 」
「……聞いていないね」
だってあの侯爵僕がユキさんに関わることを本当に嫌っていたからね。確かに必要な時用法だけど教えてくれても良かったのに。……そういえば山賊たちも期待していたっけ。それほどすごい能力なんだろうな。さらに未来予知だから信じてくれるってことは……どういうことだ? 未来を視ることができるってことなのか? あ、ヒヨリからかなり呆れた視線が向かってくる。僕の様子を見て本当に知らないとわかったのか三度目のため息を吐かれる。
「はぁ、それでよくユキを救おうって言えたわね」
「別に能力を知らなくても助けることはできるだろ」
「それは……そうだけど」
「ところで、ヒヨリはいつユキさんが攫われるのか知っているのか? 」
「え? うーん、この後私は自分の家に戻ったから知らないわ」
「そっか」
あんまり能力の話題は気まずいだけなのでちょっとだけ話題を転換する。ひとまず情報を共有しておかないと話にならない。あれ? そういえば……ここで、僕は一つだけ気になっていることを聞くことにした。
「そういえばループって一回きりなのか? 」
こんなにすごい能力なのだから当然デメリットも存在するものだと思っている。例えば一回しか使えなくて一度失敗してしまうとおしまいだとか。いや、これはデメリットでもなんでもないか。
「何回でもできるわよ……それこそ、私が満足するまで」
「そっか……なら一度ここでずっと見張っておくか? 情報を集めるために」
「それもいいけど、あんまりループはしたくないわ」
「どうして? 」
「……すぐにわかるわ」
そしてヒヨリは踵を返して木に登っていく。どうやらここから出て行くみたいだ。そしてこの話はおしまい、ということらしい。え、ちょっと待ってくれよ。
「ここで待ちたいというのなら私は止めない……でも、私は私で動くから、あんたも好きにしなよ」
「ちょ、ま」
「じゃあね。」
ヒヨリの姿が塀の向こうに消える。行っちゃった……最後に意味深な言葉を残して。どうしてループしたくないなんて言ったのだろうか。周を重ねるごとに情報が集まってより良い未来に進むことができると思うのだけどな。
『まあ、もう一回か二回経験すればわかると思うわよ? 』
そうなのかな。まあその時になってみなければわからないだろうし今気にする必要なんてないな。それよりも…僕は上を見上げる。どうにかしてユキさんと会うことできないかな……、
『今は父親がいるから無理よ、ロミオくん』
違うから。いや、違わないのか? 確かにそんなシーンがあったような気がする。かなり有名で素晴らしいシーンだったと思うけど。でもそれと比べたらかなりスケールが小さくないか? ユキさんはそりゃ名家のご令嬢だけどこっちはただの一般市民だよ?
『神に選ばれているじゃない』
「それ関係あるのかよ」
『あるわよ。私がいるからあなたは記憶を維持できているんだから』
その仕組みがわからないんだけど。神様はそりゃ神様だから記憶を失わないっていうのはわかるんだけどそれが僕にも影響する理由は?
『え? 私と繋がっているからよ』
「それだけ? 」
『ええ』
こうして話をすること自体がすごいこと、と言われれば納得するしかないな。地球にいた頃とどれだけの人が神様と話すことを夢見ていたことか。実際はなんかイメージと違ったけど。
『なんでもかんでも話すわけないじゃない。あのね、たかが人間が私を従えられると思って? 』
「思いません」
それでもこうして協力してくれるだけありがたいんだよな。さてと、ここに残ってもいいし、どこかで情報を集めてもいい。でも、ここに残っても無駄だろうな。となると移動なんだけど、行くとしたらどこに? これから行ってどうにかなるところなんてどこにもないんだけど。
『もう山賊たちを先に倒したら? 』
なるほど攫われる前にその元凶を叩いておく、理想的な動きだね。でも、それが万一叶ったとしてそもそもの僕の目標であるカナデさんを助けることは不可能だよね?
『そうね、あなたとあの子は接点もないわけだし』
「あ、そうだ」
ユラムと話していて一つ思いついたことがあった。望まれていない恋だよね? その条件に合っていて僕よりも好感度が高い人がいるじゃないか。その人に全部話して協力してもらおう。
『一応言っておくけど、責任は取りなさいよね? 』
「……」
『はぁ』
やっぱりダメ……だよな。責任とか言われたら僕はどうしようもない。
『考え方としては悪くはないけどちゃんとフォローをしないといけないわよ? 同性の子を好きにさせようとするんだから。面白半分でしてはダメ』
そうですよね。僕が考えたのは単純で僕じゃなくてヒヨリさんのことを好きになってもらおうというものだ。あの侯爵の言い方からして娘には立派な婿をって思っているに違いない。だからヒヨリさんと結ばれることは望んでいないはずだ……ただその後のことを考えるとやめておいた方がいいな。僕はそういう恋も悪くないと思うけどそれがこの世界の常識かと言われたら多分違う気がする。それにユラムの言うように面白半分の気持ちがあったのも事実だ。それは彼女たちに失礼すぎる。
『まあそもそもこの時代には同性婚という考え方自体ないわね』
やっぱりそうか。地球でも同性婚という考え方が出てきたのは最近の話だしまだ完全に理解が得られているとは言い難い。だからこそ、ニュースでよく話題になったり二次創作が盛んなんだよな。ま、それよりも、
「一旦移動しよう」
『どこに向かうの?』
「食事を買いにいく」
今日まだお昼ご飯を食べていなかったからね。お腹がなったのでそれに気がつかされた。そして一度自覚したらかなりお腹が空いていることに思い至る。うん、何か食べよう……そうだな、昨日と同じお店でいいよね。
昨日と同じ店に行って……昨日と同じように買い物を済ませる。あ、今日は僕一人だからこんなに買う必要なんてないんだ。でも買ってしまったものはしょうがないし僕はそのまま宿に戻る。するとそこには疲れ果てていたカナデさんがいた。
「あ、アカリさん、お疲れ様です」
「カナデさんもお疲れ様。どうしたの? 」
「疲れました」
「ははは……お昼ご飯食べた?」
「いえ……まだです」
昼ごはんを買いに行く気力もないぐらい疲れているのかな。なら多めに買ってきてちょうど良かったのかもしれない。というわけで僕たちは仲良く昼御飯を食べる。そしてカナデさんからユキさんについての呪いについての情報を得る。まあすでに前回で聞いた話なんだけどね。
「はぁ、アカリさんは何か進展ありましたか?」
「いや、特にな……」
「ん? 」
「実はユキさんを攫う計画を立てている一団がいるって聞いたんだけど」
最初は何もないって言いかけたけど思い直してカナデさんにそれとなく伝えてみる。山賊達のことを知っているはずだし。そしてそれは正しかった。
「あ! もしかして、森の中にいた山賊達でしょうか。その時は生き物たちが教えてくれて出会わずに済んだんですけど」
「もしかしたらそいつらかもしれないな」
これで僕が山賊のことを知っていてもカナデさんから聞いたことにできる。じゃああとは森に行って……ん? ユラム?
『そういえばあんたカナデがいないと森の中で襲われるわよ』
え? それ本当? じゃあ一回はカナデさんと森に行かないと生き物達に襲われてしまうってことなのかよ。そんなことを考えながらカナデさんと昼ごはんを食べる。食べ終えると、カナデさんは立ち上がって、宣言した。
「ギルドに行って伝えてきましょう! 今ならワタルさんもいるはずです」
「え? それもそうだね」
カナデさんに押し切られるように僕も向かうことを決めた。カナデさんの時と同じ、またギルドの人たちに頼ることになってしまうけどしょうがない。むしろなぜ最初に考えつかなかったのか疑問だ。これを知らせればユキさんの命は助かる。そしてついでにそのギルドの誰かに恋をしてくれれば万々歳だ。……そう上手くいくのかはわからないけど。
僕とカナデさんはこの都市のギルドへと向かった。二人とも位置がわからなかったけどカナデさんが生き物達から教えてもらったおかげで迷うことなくたどり着くことができた。そして到着して、ギルドの受付嬢に森の中に山賊がいるということを伝えた。これで動いてくれるかと思ったら……、
「ダメです」
断られてしまった。
「どうしてですか? ユキ様の命を狙っているとの噂があって近くに山賊たちがいるんですよ? 」
「そもそも噂なんてありませんし、山賊がいるという証明もできないのでギルドの人員を動かすことができません」
「そんな……」
そもそも事実のことだし難しいな。僕も本当に噂があるわけでもなく先のことを知っているからのでまかせだし。案の定受付の人は黙ってしまった僕たちに対して胡散臭そうな視線を向けてきている。
「もう一度言いますね。そんな確証のないことでギルドは動かせません」
「そんな……なら、ワタルさんを呼んでください! あの人の能力なら私たちが真実を述べていることがわかるはずです」
「ワタルは今、ここにはいません。ああそっか、ワタルを知っているということは君達が罪人ね。悪いけど罪人なら尚更信用できないわ」
カナデさんが食い下がってもそのまま冷たく突き返されてしまった。これ以上ここで粘っても仕方がないので僕たちは外に出た。空を見上げてみればそろそろ日が沈もうとしている。
そういえば昨日もこれくらいの時間に誘拐されたんだっけ? そしてギルド経由で僕たちに伝わった頃はもうすっかり夜になっていたけど。お互いに話すこともなくてしばらくのあいだギルドの前でどうしようかと悩んでいると慌ててギルドの中に入っていく人が見えた。それからしばらくするとまぁがかなり慌ただしくなっていった。
「どうしたんですかね? 」
「さあ? 」
カナデさんと顔を見合わせる。けど、なんとなくだけどこれは多分ユキさんが攫われたことと関係があるのかな。今の時間を確認……は無理だからあたりの風景を確認する。確か大広場の方に時計があった気がするけどそれを今確認する余裕なんてなし。それよりも、ここで僕が取るべき手段は。
「カナデさん、今からまた森に行ける? 」
「え? いいですけど」
カナデさんの手を取って僕は走り出す。攫われたというのならきっと、彼女は今、森の方にいるはずだ。だから僕は森へと向かう。ギルドに教えるべきかと思ったけどさっきのことを考えたら教えてもきっと無駄だろうな。もし、これがユキさんと何も関係なかったら……カナデさんに謝ろう。最悪森の生き物と顔合わせしたということにしよう。




