日々を繰り返す少女4
「アカリさん……アカリさん」
「ん、んん……」
声が聞こえる。確か僕って死んだはずだよな……つまりここは死後の世界というわけか。そういえば人は死んだら冥界に行くとか地獄に行くとか言われていたっけ。天国の可能性もあるけど……人を殺した僕が天国になんていけるはずがない。そんなことを思いながら、目を開ける。
「おはようございます、アカリさん」
「え? 」
目を開けた僕に飛び込んできた光景、それはカナデさんだった。カナデさんが僕を覗き込むように見ている。え? いや、ちょっと待って。どうしてここにカナデさんがいるんだ? まさかカナデさんも死んでしまったのか? それともこれは僕の単なる妄想?
あまりのことに混乱して血の気が引いた顔をしている僕を前に、カナデさんはいたずらが決まったかのように笑う。
「ふふっ」
「ん? 」
「アカリさん、窓を開けっ放しにしていましたよね? 」
「……え? 」
なにこれデジャビュ? カナデさんの言葉に今度こそ本当に固まってしまう。えっと…これどういうこと? この会話一度したことある気がするんだけど。え? これなにが起きているんだ? あ、もしかしてこれって所謂走馬灯ってやつなのか? なら選ばれた場面がここでいいのか? もっと他にあるだろ…………………やばい、思いつかない。
黙ってしまった僕を前に、カナデさんは言葉を続ける。僕がなにも言わないと思ったのかな。
「小鳥さんに頼んで鍵を取ってきてもらいました」
「は、はい」
はいはい、これは本当に走馬灯っぽいね。つまり次にカナデさんは言う言葉はきっと、
「それでですよ。聞いてください! 朝ごはんはなんだと思いますか? 」
そう、僕に朝ごはんが何かを訪ねて来るんだ。で、確か出てくるものは、てか食べたものは、
「ケーキ? 」
「はい!滅多に食べることができない嗜好品ですよ! ってアカリさん気がついていたんですね」
「う、うん」
「じゃあさっそく降りましょう」
そして同じように僕の着替えのためにカナデさんは一旦部屋の外に出る。そして着替えをして外に出たらワタルさんがいてからかうような視線を向けられる。そして朝食になり体験したのと同じケーキを食べる。そういえばユラムはいないのかな? 自分の胸のうちに話しかけてみる。
『あら? やっと私のことを思い出してくれた? 』
いたのか。お前まで完全に再現されているのかな。いや、神様だし……どうなんだろう?
『なんで私があんたの走馬灯にまで出なければならないのよ』
……え? これって僕の走馬灯じゃないの? じゃあなんで僕生きているんだよ。
『ふうん、どうやらあなたは記憶があるみたいね』
記憶? それってどういうこと? それじゃあまるで世界をやり直しているみたいな感じじゃないか。
『そうよ。とある能力によって……あ、私の力じゃないんだけど、それによって今日、この日はループすることになったのよ』
え? そ、そういうことなのか。でも本当にそんなことが起きているのかな? ちょっとにわかには信じられないことなんだけど。
『この能力自体が信じられないことでしょうに』
それはそうなんだけどさ、まあわかったよ。ユラムが言っているんだ。信じるよ。つまり今日は昨日と全く同じだってことでいいんだよな?
『昨日もなにもそんな時間はなくなったわよ』
そこの認識がイマイチわからないんだけど……これがループの際に記憶がある人が共通して体感する出来事なんだろうな、それよりも、いったい誰が、どんな目的でこんなことを引き起こしたんだろう。
『私の口から説明してもいいけど自分で探したほうがいいんじゃないかしら? 』
まあ一理ある、かな。あらかじめ知っていたら変に不信感を与えてしまうかもしれないし。ん? そういえば僕って死んだの? 最後の方意識がなかったんだけど。
『まあ、そうね。あなたは死んだわ』
嘘だろ……ふと、僕があの時のことが蘇る。あの時、僕は山賊の一人を…殺してしまった。今もなお、その感触が手にの凝っている気がする。その人の返り血が僕の服を濡らしている気がする。それに、最後のあの感覚。自分の肉体が切り裂かれる痛みのあの感覚が……
「うぅっ」
「アカリさん!? 大丈夫ですか? 」
一度思い出してしまったら止まらなくなってしまう。カナデさんとワタルさんの前で僕は食べているケーキを吐き出しかけてしまった。それをみてカナデさんに心配されてしまう。でも、何事もなかったかのように振舞わなければいけない。だって、彼女たちはなにが起きたのか知らないのだから。
「だ、大丈夫です。朝からケーキが重かったみたいです、あの、少しだけ休ませてもらえますか? 」
「だ、大丈夫ですよ。それで……その後はどうしますか? 」
「侯爵様のところに向かいませんか? 」
「え? はい」
僕の唐突な提案に少し驚いたようだけど僕としては前回? と同じように森に行ったとしても得られるものは一切変わりないだろうしあんまり意味ないんだよね。
カナデさんをなんとか納得させてから僕は自分の部屋に戻り、ベッドに横になった。気分が悪いのは事実だし侯爵のところに向かうまで少しでも休もう。休んでいると、ユラムが話しかけてきた。
『前回と違う行動を起こしたのはいい判断ね』
ありがとう。でも、本音を言ったらできることなら山賊たちに近づきたくないっていうのが実情なんだよ。あの時のことを思い出すと……ほら、今でも手が震えてる。
『そうね。でもこの世界を生きるということは、自分のできることを探すということは……あえてこの言い回しを使うけど、必然的に誰かの命を奪うことになるのよ? 』
わかっている……つもりだ。すでに、あのギンガってやつの命を間接的に奪ったのは僕だ。カナデさんを救うためとはいえ、僕が行動しなければ彼はきっと殺されることはなかっただろう。それに、もう、見捨ててしまった命もある。それを防ぐために僕はこうして旅をすることを決めたんじゃないか。もう二度と後悔しないために。
『あ、あと一応言っておくわね。あなたが死んだ後のことだけど』
「うん」
『ユキは殺されたわ。山賊たちに殺されたわ』
「……」
そっか。結局殺されてしまったのか。その言葉を聞いて僕に謎の無力感がおとずれる。それじゃあなんのために僕が戦ったのかわからないな。
『話を最後まで聞きなさい』
「……? 」
『山賊はあの子を襲わなかったの。あなたがいたことで追っ手が来ていると思い、すぐに去ったのよ。ユキの死体を置いて』
「え? 」
『あなたのおかげであの子はまだ救われたのよ……あの時、あなたがいなければあの子は性的に辱められていたし最悪こうしてやり直すチャンスが与えられなかったのよ』
それは……。僕を慰めようとしてくれているのだろうけど、でも、
『自分のために、誰かを守るために、人の命を奪う、それは昔から人間がしてきたことよ』
「頭ではわかっているんだけど」
『人の命を奪うことが怖いの?』
「怖い」
まだ地球にいた頃のことを引きずっているというか甘えているのかと言われてしまえばそれまでだけど、だってそうなのだから仕方がない。ユラムの質問に堂々と答える。命を奪うのが嫌なのは誰だってそうだろうに。
『なら、殺さなければいいじゃない』
「は? 」
『せっかくやり直しのチャンスが手に入ったのだから誰も殺さない道を探してみなさいよ。人を生かすことも立派な「力」よ』
ユラムの言葉、それはまさしく青天の霹靂だった。人を殺すことだけが、誰かを倒すことだけが「力」の象徴でない。全員を守りたいと願ったのならー敵味方関係なくーそれをやり遂げることができるのも立派な「力」だと。甘いと言われようが結局僕が日本人であるという事実は変えられないし、そこで過ごした甘っちょろい考え方も変えることはできない。
『見せてみなさい。あなたの「力」を』
ああ、頑張るよって言いたいんだけど、そもそも僕の能力で繰り返しが起きているわけじゃないからちょっと厳しくない? ねえなんでそこで黙るんですか? ……でも、ありがとうユラム。お前のおかげで僕もまた覚悟ができたよ。
「アカリさん? そろそろ大丈夫ですか? 」
「あ、はい」
カナデさんがドアを叩いてきた。一旦話を中断して僕たちは侯爵様のところへと向かう。これで前回とは違った流れになるんだよね?
『まあ大筋というかあなたと……それから能力者本人が関わらないところは基本的に同じと考えるべきね。だからあの娘が攫われるのも確定よ』
ユキさん攫われてしまうのか……でも今回はそれを事前に知っている人物が少なくとも一人はいる。ところでやっおありわからないのがその能力者はどうしてやり直しを行った理由だ。その理由がわかれば格段にやりやすくなるんだけど。例えば僕も協力するからお前も協力してくれって言うとかさ。一人よりも二人の方が成功する可能性が高いだろうし。
僕たちが門のところに向かうと前回と同じように門番がいた。昨日と同じように押し問答が行われたがカナデさんのおかげでまた僕たちは館に入ることができた。そして侯爵様本人と出会う。
「君たち…どうしてここに」
「あの、ユキ様にお会いすることはできますか?呪いを解く手がかりのためにお会いしたいのですが」
「言いたいことはわかるがそれは無理だ。正直言えば特に君の顔なんて見たくない。帰ってくれ」
前回と同じようにカナデさんが対対応する。そういえば前回は向こうに人影が見えたっけ……って、ん? また向こうに人影が見えた? これも同じなのか? でも前回は午後に来て今回は午前中に来ているんだけど。
うーん、気になるな。別に午前中と午後に来ている人が同じであるとは思えないんだけどさすがに偶然で片付けてはいけないような気がする。ちょっとみてみるか。
『でも今いけばあのギルドの職員が付いてくるからやめておきましょう』
それなら仕方がない。うーん、帰るときにこっそり別れるのが一番いいのかな。というかやっぱりワタルさんが監視しているのか。
そのあと僕たちは結局ユキさんと会うことはできずに宿に帰ることにした。そして宿に帰りながらこのあとの予定を互いに話し合う。
「カナデさんはどうするつもりですか? 」
「森に向かおうと思います。アカリさんは? 」
「僕はこの街で聞き込みをしようと思います」
「そうなんですね……ワタルさんは? 」
「私はこの都市のギルドに顔を出そうかと思っています」
ということで僕たちは一旦別々に行動をすることになった。うん、これで一人で行動することができるな。そして僕は街に行く振りをして昨日の謎の人物の正体を探るために侯爵の館に引き返した。あ、門番をどうやって誤魔化そうかな。




