手に入れた能力
眩しい光が収まってくると、僕は周囲の様子を確認した。かなり広い空間にいるのがわかった。天井へ伸びる柱がたくさんあって、床には赤い絨毯が敷かれている。目の前を見てみれば、階段があってその奥に大きくて立派な椅子、よくアニメとかでイメージされる王座そのものがあり、そこに一人の男性が座っていた。近くに目を向ければ僕と同じように急に眩しい光を受けて目が眩んでいるクラスメートが大勢いた。でも、多分だけど全員じゃないな。少し数が少ないようにも感じる。
「湊」
「あ、神崎」
そんな僕に話しかけにきたのは神崎夏樹。僕の友人でこのクラスの人気者だ。イケメンで男女両方からモテる。こいつには何度助けられたことか。
「えっと……これはどういうことなんだ? 」
「僕もよくわかっていないんだ」
「なあ湊」
「ん? 」
「お前も、出会ったのか……この世界の神様である、女性に」
「ああ、出会ったよ」
どうやら神様はクラスメート全員と対話したみたいだ。そこでそれぞれに望んだ能力をあげたってところかな。すると、僕たちが起きていることに気がついた奥の椅子に座っている男性が僕たちに話しかけてきた。
「起きた人間がいるみたいだな」
「あなたは誰ですか? 」
「私はこの国の王である……ようこそ、我が国へ、転移者ども」
「……どういうことか説明してもらえますか? 」
「失礼、私が説明いたします」
王様ではなくて、横にいる人が説明をするんだね。まあ、偉い人なら、当たり前なのかな。神崎もすごいよ。この状況で臆することなく王様たちに質問を投げかけてて。僕には決してできないことだ。
「つまり、我々の世界を脅かそうとしている者たちを倒して世界を救って欲しいということです」
「しかし、俺たちは素人の子供です。いきなり戦ってくれと言われても無理です」
「それは心配ご無用。皆様には一人につき一つづつ優れたる奇跡の力が与えられているはずです」
「奇跡の力? ああ、確かにもらったけど」
それってもしかして神様が言っていた能力のことだよね! 僕は少しワクワクしている。だってそうだろ? 神様が最強の能力をくれたっていうんだからこれから僕のチート生活が始まるんだ! いったいどんな能力をもらえているのかなー。
「おや、ご存知でしたか? 」
「はい、神様に望んだ能力を授ける、と。しかしそれが本当に与えられているかは知りませんが」
「なるほど、わかりました。どの道、調べる予定だったのです……持ってきなさい」
その言葉を合図にして横の扉が開かれるとそこからメイド服をきた女性が台車を持って運んできた。その上には透き通るように透明な水晶が乗っている。半径が30cm程度の球体だ。にしても……これは本物のメイドさんなのかな。メイド喫茶とか行ったことないから初めて見るよ。
「これはなんなのですか? 」
「これは『英知の結晶』と呼ばれるものでこれに手をかざせばどのような祝福を与えられているのかがわかります」
「そうなんですね」
「ではみなさん手をかざしていただきますか? 」
言葉上では丁寧だけどどこか有無を言わさない感じがする。あんまり説明もなしにやれって言われたけどまあやるしかないよね。ていうかこの世界では自分で認識することが無理なのかな。ああいった魔道具? とかを使わないとわからない仕組みなのだろうか。
「これでいいんですか? 」
考え事をしていたら、神崎が先に手をかざしていた。あいついつの間に立ち上がっていたのか。手をかざすと、水晶の表面になんらかの文字が浮かび上がっているのが見える。でもここからじゃよく見えないな。
「おお、素晴らしい能力ですな」
「あ、願った能力を本当にもらってる」
あ、本当に願った能力を与えられてるみたいだ。そっか、言われてみれば神様が約束を守る必要性なんてまったくなかったもんね。そんな考えに至らなかったのは反省しなきゃ。相手を信じすぎるのもよくないし……それはそうと僕も……、
神崎に続く感じで僕も立ち上がり、水晶のところに行って手をかざしてみる。手をかざしてしばらくすると水晶の表面に文字がでる……ことはなく、代わりに頭の中に声が聞こえてきた。
『ちゃんと繋がったわね……ああ、騒がれると面倒だから時を止めるわ』
その瞬間周りの時間が止まった。いや正確に言うのならば僕自身も固まってしまっている。え? これどういうこと? この声ってさっき話していた神様の声だよね? どうしてここで聞こえて来るんだ?
『あなたの能力は「私と会話できる」能力よ』
………………え?
『喜びなさい? この私が直々にあなたみたいな人間と話をしてあげるのだから』
ちょ、ちょっと待って。これ……どこが最強の能力なんだよ。誰もが羨むような能力なんだよ!
『古くから人間の望みである神との会話ができるのよ? 普通なら泣いて喜ぶと思うのだけど』
え? あ、言われてみればそうなのかな。確かに神様と会話できるんだよって言われたらそりゃ羨ましいってなるな。
『そうよ。だからそれでいいでしょ? 充分じゃない。ま、でもこの能力のことは誰にも内緒ね? 』
どうして? まあ人に言ったところで信じてもらえるかといえば信じてもらえないような気もするけど、
『まあ、普通はね。でもこの水晶とかは嘘偽りなくこの能力のことを伝える……そうなればちょっと面倒なのよね。簡単に言えば政治利用される感じ? 』
それはなんとなくわかるな。……ってそれはかなりやばいな。例えばだけど僕が「神様が言っていますこの人を王様にするべきです」って言えばそれはそのまま神様の言葉として伝わってしまうっていうことだよね。そうなれば僕を拉致監禁して都合のいいような発言をするように仕向ける可能性がある。特に僕はまだこの世界にきたばっかりだ。都合のいいように洗脳することは容易いだろう。
『そういうこと。まあ逆に言えばあなたが力をつけたらこの世界を思うがままにできるってことなんだけどね』
……確かにこれは最強の能力だ。水晶っていう嘘偽りなく伝えるものがあるからこそ成り立つ技だけど……ん? それだと今この瞬間まずくないか? 僕今手を触れちゃっているんだけど。
『だから隠蔽させてもらうわねー。あなたの能力は水晶に表示されないし他人の能力を把握する能力でも把握できないし盗られることもない』
それってことはさっきっていたことと矛盾しないか?僕の言葉を信じてくれる人がいないと成立しないんだけど。
『何を言っているの? あなたのことを信じてくれる人たちを見つければいいじゃない』
でも……それってこの能力なしにってことだよな。簡単に見つかるとは思えないんだけど。
『……やってみなきゃわからないでしょ? これ以上の説明いる? 』
ちなみにあなたと会話することで何か教えてくれたりするんですか?
『気まぐれで教えたり教えなかったり……ああ、一つだけ約束してあげる。嘘だけはつかないでいてあげるわ』
なるほど……ってそれだとなんか強いようで弱い気がするんだけど。『はあ? あんた人間なのに態度が尊大すぎないかしら? 今すぐ殺されたいの? 』
あっ……僕はここで思い出した。相手が神様だということを。気まぐれで他人に能力を与えてそれをこの世界に落とし込むことができるような存在であるということを。それに今さりげなくやっているけどこの世界の時間を止めているんだよな。
『ま、あなたがこの能力で世界を牛耳ろうとしたら速攻殺すから』
つまり僕の命はこの神様に握られているということになる。これじゃあ好き勝手できないのだろうか。いや別に世界征服をしたいとかそんなことは考えていないけどさ。
『そろそろいいわね? じゃあ時を戻すわよ。これからは心の中で呟きなさい』
次の瞬間、世界は時間を取り戻した。水晶をみれば何も表示されていない。どうやら本当に何も表示されていないみたいだ。
「これは? いったいどういうことですかな? 」
「え? なんのことですか? 」
「なぜ、あなたは祝福を受けていない……これは話が違う」
「それを僕に言われても知りませんよ」
「まさか……隠しているんじゃないですよね? 」
ぎくっ、思わず顔が固まってしまう。
「おや? 顔色が変わりましたけど」
くっ、容赦なくこっちの弱いところを突いてきたな。でもどうしよう。早速ピンチに陥っているんだけど。神様、助けて。
『え〜そりゃ確かに時をもどすことできるけど自分で頑張りなさい』
「はい……」
「どうしました? もしかして私に言えないような能力なのですかな? 」
「いや……その」
えっと、どうしよう。困ったな。真実をいうか? いやそれはできることならば避けたい。それに僕の能力が表示されなかった理由もきちんと説明しないといけないし……ていうか神様と会話できる能力があるならなんでもありだよね。きっと。
「なあ、それって他人にバレない能力なのか? 」
「え? 」
パニックになりかけている僕を救ってくれたのは神崎だった。さらに続けてこの世界の人たちに質問していた。
「単純に自分の能力を隠すことができる能力、とかは存在しないのですか? 」
「与えられた祝福の副作用として気づかれない、ということはあります。ですのでそこの少年の祝福も同じようなものでしょう」
「わかりました。しかし……俺は仕方がないけれど、公表するかしないかは俺たちの自由ではないでしょうか? 」
「そんな理屈が通ると思いますか? 我々はあなたたちの生活の保障のために衣食住を用意している。どんな能力か伝えるのは当たり前だと思いますが」
逆にそっちの方が理屈が通らないと思うんだけどどうなんだろう? でも、それだと本当に困ったな。僕は話したくないけど向こうは話して欲しい。明らかに平行線を辿るのだろうな。
「この世界では他人に能力を明かすのは自然なことなのですか? 」
「それは……確かにあんまり話すことではありませんが」
「なら、隠していても構わないでしょう? 」
「……わかりました。ですが、大まかにどんな能力なのかだけは教えていただきたいと思います。こちらとしても訓練の用意がございますので」
おお、神崎がこの世界の人たちを言い負かしている。結果的に僕の、いや僕たちの能力について隠すことができるようになった。そして、僕たちの異世界生活が始まった。




