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日々を繰り返す少女3

少し表現がキツイところがあります。

ご注意ください

 

「アカリさん! 大変です! 」

「え? 」


 部屋でゆっくりと今後の計画を練っていたら突然ワタルさんが血相を変えて入り込んできた。えっと……何があったんだ?


『あら?これは…面倒だけどチャンスね』

「どうしたのですか? 」

「ユキ様が、攫われました」

「は? 」


 本当に焦っていたらしく息も絶え絶えの様子のワタルさんから聞いたところによると、どうやら侯爵様の館に賊が侵入したらしく、そのままユキさんが何者かに攫われてしまったらしい。今日は娘のこともあって警備が手薄で不十分だったとかでそのために攫われてしまったとか。娘との時間を作るために結果的に娘との時間が失われてしまうとなるとは本末転倒とはこのことだろうな。ちなみにその情報は侯爵からこの都市のギルドへと伝わりそこからワタルさんに伝わったみたいだ。


「それで、どうして僕にそのことを」

「侯爵様より…娘を探すようにと命を受けていますので」

「いや、探さなかったら僕たち確実に死にますよね!? 」


 つまり死にたくなかったら協力しろと。こんな終わり方なんて絶対に嫌なんだけど。あ、そっか。ユラムの言っていたチャンスってこういうことね。ここで華麗にユキさんを救って好感度を上げるってことか。漫画みたいに綺麗に決まるかわからないけど潜入とかいう犯罪を犯すことなく好感度を上げるチャンスが巡ってきたのならそれはそれでありがたいな。


「とりあえず手分けして探しましょう。カナデさんにも伝えてください」

「あ、ちょっと」


 後ろからワタルさんが静止する声が聞こえてきたけどそれを全て無視して僕は走り始める。カナデさんを起こしているから少しだけ時間ができるはずだ。その隙にできる限り離れて監視の目をかいくぐろう……ユラム、


『どうしたの?』

「ユキさんの居場所を教えて欲しい」

『まあ自力で探そうとすれば終わってしまうし教えてあげるわ。あの子は森の方にいるわよ』

「ありがとう! 」


 森、か。そういえば午前中に山賊がいたし、もしかしたらあの山賊達がユキさんをさらったのだろうか。もしかして、あの時カナデさんと接近していればこんなことになっていないのかな? いや、戦闘能力のない二人がどうこうできる問題じゃない。それに、結果的にどちらが良かったのかわからないけどそれでも今を頑張るしかない。


 ユラムの指示に従って森の中を進んでいく。森の中には生き物がたくさんいたけど大丈夫だろうか? 毒がある生き物とか襲われたりしないかな?


『カナデの側にいたから多分平気、だと思う』

「その言葉を信じるよ」

『ついたわよ』


 しばらく歩いていると森の暗闇の中で不自然に明かりが見えた。まあさすがに嫌でもわかるよ。あそこが山賊達がいるところだろうな。他に人間がいるとは思えないし。さて、ここからは慎重にいかないといけないな。見た感じ……それなりの人数がいるみたいだ。それに対してこちらは一人。さて、一旦カナデさんたちと合流して再度出るっていう選択肢もあるわけだけど、どうしようかな。


 ところで、もう少し近寄ったら話し声とか聞こえたりするのだろうか。その好奇心に逆らうことができずに、僕は進むことに決めた。音を立てないように気をつけながら慎重に進んで行く。森の中にいるから落ち葉とか枝とかを踏んでしまわないように気をつけないと。


『そのまま真っ直ぐ進んでいけば音を立てなくて済むわ』


 その情報は非常にありがたい。だからうまいこと接近することができた。しかもちょうど大きな木が生えていて向こうから死角になっている。山賊たちの様子を確認してみると、どうやら薪を囲っているみたいだ。ん? 耳をすませたら声が聞こえてきたな。


「はははは、楽な仕事だったぜ」

「まさか警備がここまで薄くなっているとはな」

「俺たちにもツキが回ってきたんですかね」

「ああ、ここの侯爵の娘は能力も、姿もどちらも優秀だからな」


 山賊たちの声が聞こえてくるけどでもユキさんの姿は見えないな。どこかに縛られているのか? それよりもあいつらはユキさんが今日で死んでしまうことを知らないのだろうか。それにしても、下卑た笑い声だな。言っている内容も酷いものだし。もう少し聞くことを続けよう。情報が少なすぎる。


「それで、今すぐにいただくんですかい? 」

「いや、さすがに止めておこう。追っ手が来るかもしれないしそれに大声で啼かれたらバレてしまうだろ」

「それもそうだ」

「ぎゃははははは」


 ああ、今すぐにでも殴りに行きたい。こいつらどんだけ最低な人間なのだろうか。こいつらみたいには絶対になりたくないな。でも怒りに任せて殴ったところですぐに山賊たちに囲まれてしまってボコボコに殴られてしまうだろう。みたところ山賊の数は優に10は超えている。ここは冷静に動かなければいけない。


「さて、お前らしっかりと休んだか? 追っ手のことを考えてそろそろ出るぞ。見張りの奴らを呼んでこい」

「イェッサー」


 いつの時代の掛け声だよ。その言葉を合図にして二人が暗闇の中に消えていった。そういえば僕見張りと会わなかったけど偶々なのか?


『そうね、森は広いもの。最短経路で向かったから獣道も通っていたし』


 なるほど、それなら納得だ。まあ運が良かったと思うことにしよう。さすが僕には神様がついているだけのことがある。


「さて、運ぶ準備はできたか」

「おらっ、さっさと歩け」


 やっと……見えた。縄でぐるぐるに巻かれているユキさんの姿が。乱暴されたのかもしれないが暗闇のせいでよく見ることができない。ただ、苦しそうなのは伝わってきた。


「おい、俺たちがどういう道を進めば逃げ切れるか教えろ。嘘は言っても無駄だぜ? そうなればお前を殺してやるからな」

「……」

「さっさとなんか言えよ? それとも、体に教え込んだ方がいいのか? 」


 聞きながら僕は一つ疑問に思った。なんで自分の逃げる道をユキさんに聞こうとするんだよ。自分が助かろうとするに決まっているじゃないか。こいつらはそんなことも回らないくらい馬鹿なのか?


『まあ、あの子の能力的に便利なのよね。それにあいつらは麻薬を所持している。無理矢理いうことを従わせることなんて可能だわ』


 それならまあ、別に何もおかしくはないかな? それからユキさんの能力? が何かわからないけど山賊達はそれに期待しているみたいだ。ユキさんの方を見てみれば、山賊達の方をじっと見ている。


「どうやら本当に殺すのね」

「あぁ? だから言っているだろうが」

「それでも無駄よ。私はあなたたちに協力しない」

「死ぬのが怖くないのかよ」


 男たちはユキさんに凄む。いや、死の恐怖はきちんと感じているのだろう。でも、その脅しが意味をなさないことを僕は知っている。そして僕が想像したのと同じ言葉をユキさんは山賊達にぶつける。


「死ぬのは怖いわ。でも私、今日で死ぬことが決まっているの」

「はぁ!? 」


 ユキさんの言葉に山賊達はざわめき出す。やっぱり知らなかったのか。


「嘘だろ……これでは俺たちの目的が」

「嘘じゃないわ、今日警備が薄かったのはね、私とゆっくりとした時間を過ごしたいっていうお父様の願いからなのよ」


 でも、まだ半信半疑といった感じだ。すると、


「ただいま戻りやした」


 見張りに出ていた山賊たちが帰ってきたみたいだ。少しのんびりしすぎたかな? これだと全員を相手にしないといけないことになった。戻ってきた山賊は今のこの雰囲気を見て、どうしたのかと周囲の仲間に聞いた。


「どうかしやしたか? 」

「こいつが今日で死ぬとか抜かしやがった」

「ああ……そういえば街の奴らがそんな噂をしていやしたね。てっきり根も葉もない噂かと思っていやしたが、どうやら本当のことみたいでさぁ」

「ちっ、とんだ無駄骨だったぜ」

「わかったらいいでしょ? 私を開放して」

「待てよ……死ぬというのならそれでいい。お前を俺たちの仲間にしてやろうかと思っていたが気が変わった。こいつを、今、ここで好き勝手させてもらおう」

「…! いや! 止めて!」


 ちょ、話が急展開すぎる。さすがに目の前で女の子が襲われそうになっているのに何もしないとかできないんだけど。ユラム、お前またここの動物たちに協力を求めることってできるか?


『無理ね。カナデがいないと協力してくれないわ』


 嘘だろ! 現金すぎない!? いや、そもそも僕を襲わないでいてくれているんだ。それが妥協点なのだろう。つまりここは僕一人で戦う必要があるわけだ。武器なしで。あいつら武器を置いていたりしないのかな?


「ガハハ、さて、誰から頂く? 俺は最後でいいからお前ら適当に話し合え」

「うおおおお」

「俺だ」

「いや、俺からだ!」


 リーダー的な人がそう指示をすると山賊たちは我先にと主張し始める。うぬぬ、あのリーダー権力を振りかざすことをしないとか、できるやつじゃないか。大抵一番最初をもぎ取ってる印象があるから。


『いや、冷静に観察している場合じゃないでしょ? 』


 わかってるよ。こっちだって18禁なんて見たくないし。この絶体絶命な状態から現実逃避してもいいでしょ? さて、まずは武器を探す必要がある。幸いほとんどの奴らの目線はユキさんに向いているしこそっと後ろから狙うのは容易いだろう。だから早いところ見つけないと。


『そうねぇ、あ、あそこの木の下にあるの剣じゃないかしら? 』


 ん? どこだ? ああ、確かにあるな。ユラムに言われたところに剣などが無造作に置かれている。じゃあそこに進むとするか。山賊達に見つからないように集まっている周りをゆっくりと歩いていく。そして木の裏側に回り込んで全員の視線がユキさんに向かっていることを確認すると、こそっと剣を手に取る。よし、ここまではバレずに済んだ。


「でもお頭、移動したほうがいいのでは? 」

「この娘に時間に限りがあるから移動は厳しい……おい、そこの二人悪いが見張りに出てくれ。なにすぐに交代するからな」

「かしこまりやした」


 時間に限りがあるってそれつまり時間がゆする限り襲うってことでしょ? なにその残酷なこと。そんなことさせるかっての。あ、でもちょっとヤバいかも。頭らしき人の指示に従って山賊のうち二人が武器の置いてあるところ、つまりは僕が今いる木のところまで歩いてくる。あ、これ普通にバレるのでは?


「ん? 誰だお前」

「うわあああああああ」


 木の影になっていたとはいえ、普通に気がつかれてしまった。見つかってしまったのなら仕方がない。こうなってしまえばヤケクソだ。僕を見つけた男の声を聞いて山賊たちが一斉にこちらに視線を向けてくる。だからその前に持っている剣をめちゃくちゃに振り回す。幸か不幸か山賊たちは鎧をつけていなかった……だから僕が適当に振り回した剣が僕を見つけた山賊を思いっきり切り裂いた。


「あっ…」


 肉を切り裂いた感触に思わずびっくりしてしまう。山賊はそのまま後ろに倒れこむ。僕は今、この人を斬って……殺したのか。人に向けて剣を向けたことはある。人を斬ったこともある。でもそれは全て訓練だ。当然鎧なんかも着ていたし安全がある程度保証されていた状態で戦ったにすぎない。


「うぐっ」


 だから、初めて人の肉を切り裂いた感触に、僕はここが敵地であるということも忘れて呆然としてしまった。そんなことをすればどうなるのかわかりきっていたのに。


「この野郎」


 僕に近づいていたもう一人が、僕に襲いかかり……そして振り下ろされる剣が見えた瞬間に、僕の記憶が途切れた。痛みを微かに感じたけど……でもそれは、ほんの一瞬のことだった。

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