日々を繰り返す少女2
ブクマありがとうございます
「おはようございます、アカリさん」
「あ、おはようございますカナデさん」
次の日、カナデさんの声で僕は目が覚めた。え? あれ? 部屋って同じだっけ? 昨日確かワタルさんが3つ部屋を取ってくれたから全員別々の部屋に泊まったはずなんだけど。そんな風に困惑している僕を見ていたずらが成功したように笑った。
「ふふっ」
「え? 」
「アカリさん、窓を開けっ放しにしていましたよね? 」
「う、うん」
自分の部屋の窓を見る。確かに開けっ放しになっていた。でもそれがどうかしたのだろうか。いや、まさか窓から入ってきたとか言うんじゃないだろうな?
「小鳥さんに頼んで鍵を取ってきてもらいました」
「…」
そっちでしたか。カナデさんの能力って動物の言葉がわかるだよね。なんでこの子動物たちに頼み事をしているの? そしてどうしてそれが叶うのだろうか。
「私の言葉がわかる鳥さんもいてね、私の部屋の鍵を見せてこれを持ってきてねって言ったらしばらくしたら持ってきてくれたの」
「そ、そうなんだ」
『カナデの人徳ってすごいわね』
そうだよね。まさかここまでとは思ってもいなかった。てか自分の能力がわかった瞬間に急激に成長するのすごいな。……ん? ちょっと待って。カナデさんの能力に驚いてしまったけどよくよく考えたらやってること犯罪じゃない? 少なくとも僕が同じことをしていたら間違いなく捕まってるよね。冷静に考えたらこの子何しれっと犯罪に手を染めてるんだよ。
「それでですよ。聞いてください! 朝ごはんはなんだと思いますか?」
「え? 」
「大きなケーキがあったんですよ。それを食べてもいいんですって! 」
「好きなの? 」
「はい、滅多に食べることができない嗜好品ですよ! 」
なんかここまで力説されるというか、楽しみで仕方がないって顔をされると許してしまいたくなるな。まあどうせ何もする気はなかっただろうし盗られて困るような物なんてないしね。にしても、この世界では砂糖の流通が少ないのかな? カナデさんがここまでテンション上がるってことは。
『いや、それなりにあるけど、ケーキとかを作ることができる職人が少ないのよね』
ああ、そっちの方なんだ。まあでも僕もケーキ類は嫌いじゃないしこの世界でも食べられるとなればそれはとても嬉しいものだな。
「さっそく降りましょう」
ウキウキしているカナデさんにつられて僕も早く下におりたいけど……流石に着替えたいよね。
「す、すみません。外で待っておきますね」
今更ながら気がついたのか顔を真っ赤にして外に出て行く。そして僕は着替えて部屋から出る。カナデさん普通に僕の部屋に来ていたってことは、全く男として意識されていないのではと思うと悲しくなってくるな。
扉を開けるとちょうどワタルさんも同じタイミングで部屋から出たみたいで二人で僕の部屋の前で待っていた。
「えっと、さすがにプライベートなことまで鑑賞する気はないけど少しは自重してほしかったな」
「え? 」
「あの、僕今起きたばっかりなんですけど」
僕はワタルさんが何を勘違いしているのか一瞬でわかってしまった。カナデさんが僕の部屋から出るところを目撃したのだろう。でも、それが勘違いだとわかっているので訂正しようとする。
「えっと、カナデさんは今部屋に入ってきたんですけど」
「はいはい、わかっています」
「いや、わかってないです」
「……あ! ア、アカリさん。すみません軽率でした」
「いいですよ……それだけカナデさんがケーキ、楽しみだったんですよね」
「は、はい……」
そしてついに、自分が異性の部屋に侵入していたという事実に気がついたみたいだ。よく恥ずかしさのあまりリンゴみたいに赤くなるという表現があるけどまさしくその状態。つい、テンション上がってしまっての失敗ってあるよね。
「友達ができたのが久しぶりすぎて、つい昔と同じ感じで接してしまいました……」
「そ、そういうことよくありますよ」
小さい頃って男女間の隔たりみたいなのってあんまりないよね。今にして思えばどうしてあんなに気軽に女子と接することができたのだろうか。不思議でしかない。無知って怖いね。
これ以上言及しようとするととんでもないところに飛び火しそうなのでこれくらいでやめておこう。それよりも朝にケーキがでるというのならさっさと食べよう。体を動かすにも頭を動かすにも糖分が必要だししっかりと補給しておこう。
食堂に下りて三人で食卓を囲む。久しぶりにケーキとか食べたけどとても美味しかった。そして僕とカナデさんは二人で都市から離れて森の方に進んでいった。森たちの動物から何か情報を手に入れるためだ。ワタルさんは付いてこないと言っていたけどまあ多分こっそり付いてきているんだろうな。
「とりあえず情報を集めましょうか」
「そうですね……みんないるかな? 」
カナデさんが歩いていると森からどんどんと動物たちが顔を出してくれる。そういえばこんなに生き物が集結しているけどこのなかで食物連鎖が発生しないのかな?
「えっと…私の見ていないところで食べたりするみたいです。私の頼みは基本的に協力する、みたいです」
「そ、そうなんだ」
「ええ、ですから私は好きな生き物、を考えないようにしました」
「……大丈夫? 」
「はい、大丈夫ですよ……心配してくれてありがとうございます」
カナデさんはすぐに前を向いて生き物たちの話を聞いている……本当にすごいな。今、カナデさんは笑っているけどかなり覚悟を決めたんだろうな。自分のお気に入りを決めてしまうと生き物たちで無駄な争いが起きてしまう。それを危惧して誰も好きにならないと決めたのは本当にすごいよ。
『カナデに対してのこの好感度はもはや精霊の加護を受けているレベルね……一応聞くけど同時通訳とかしたほうがいいかしら?』
いや、大丈夫。カナデさんにまとめて聞くから。てか精霊の加護って……なんか凄そうな響きだな。しばらくして、生き物たちから話を聞いているカナデさんが急に顔を強張らせた。
「どうかしたのですか? 」
「この森に……山賊がいるみたいです」
「今? 」
「はい」
それは……今顔をあわせるのだけは避けたいな。身ぐるみ剥がれたとしても困ることはないけれどカナデさんに何かあったとしたらそれはとても困る。てか山賊ってどこの世界にもいるもんなんだな。
「まだ少し距離があるみたいなんですけど……どうしますか? まだここで情報を集めますか? 」
「いや、一旦帰りましょうか。よかったら帰りながら生き物たちから聞いたことを教えてもらえますか? 」
「はい」
ちょうどいい時間にもなってきたので食事の意味合いも込めて宿に戻る。そういえばユキさんは今日死ぬ呪いにかかっているって言っていたけど実際に死ぬのっていつ頃なんだ? 明日になる直前に死んでしまうのかそれとも日が暮れたら死ぬのかな。
「動物たちが教えてくれましたけど、あの呪いは能力によって呪われたものらしいですね。天性のものでもなく」
「誰かの能力……」
能力によって他人を呪うとうことか。まあ能力自体なんでもありっぽいしそういう能力があったとしても不思議ではないな。それよりも、問題はいつ、発動するのかってことだな。そこら辺の情報についてしっかりと聞く。
「死ぬとき……ですか? それは日付が変わるタイミングみたいですね」
「つまりは期限は後半日ってところか……それで、呪いの解き方はわかりましたか? 」
「いえ、そこまでは」
『アカリ』
「すみません、少し聞き込みに行ってきます。カナデさんは少し休んでいてください。ついでに昼飯でも買ってきますよ」
ユラムに呼ばれたので僕はカナデさんに断りを入れて外に出かける。一度にあんなに生き物たちから話を聞く機会なんてなかっただろう。少しだけ疲れが見える。時間つぶしを兼ねてそこら辺を適当に歩く。それで、どうしたんだ? ユラム。
『それよりも呪いについての基本的なことを話しておくわ。まず、大前提として能力でしか解くことはできないわね』
まあ、それも当然か。それから掛けた本人も、だろうな。なら呪術師…いや解呪師を探せばいいのかな?
『そんな簡単に見つかるとは思えないのだけどね』
まあ、確かにこの街で見つかるとしたらとっくに侯爵様が見つけているだろうしな。でもそんなに珍しいのか?普通にいると思うのだけど。
『まあ珍しいけどそれ以上に問題なのが無条件に呪いを解くことができるわけではないってことね』
どういうことだ? 無条件に解けないって、まさか対価が必要なのかな。
『条件があるのよ。呪いを解くために自分の命を犠牲にしないといけないこともある。あの娘の呪いはかなり強力なものよ。多分呪いをかけた人物はもう死んでいるわね』
自分が死んだことで強力な呪いをしかけるとかいうあれか。窮鼠猫を噛むということわざもあるし死に際の呪いってやばいんだな。というか本当に対価が必要だったのかよ。それも命とか。
『だって自分の命とか魂とか諸々を代価にかけるんだもの。よっぽど殺したかったのね』
この手の話は聞いたことがある。大方侯爵様の昔の婚約者とかそういう類だろうな。自分が選ばれなかった腹いせに侯爵の子供を呪うとかありえそうじゃないか。まあ、あくまで僕の勝手な偏見と推測だけど。
『ただ、解呪方法は必ずあるわよ。呪いに関しての一つのルールなの』
抜け穴はきちんと決めるということだな。それだと呪うのってかなりのリスクを伴う気がするんだけど。
『まあ普通に殺したほうが早いわね』
ドライだな……それで? 彼女の呪いの解き方ってわかっているのか? できれば教えてくれるとありがたい。
『ええ、簡単よ』
「どうすればいいんだ? 」
『まあ……一番手っ取り早いのはあなたに惚れさせることね』
「ん? 」
ちょっと待て。ついに気でも狂ったか?
『私はいつでも大真面目よ。彼女の呪いの解き方はね「父親には望まれていない男に恋をする」ってことなのよ』
なにそのちょっとだけテンプレに変化球を加えましたみたいな設定は。てかそれだと絶対に解かれない可能性もあるけどいいのか?
『別に構わないわよ。だって解ける可能性がある、のなら成立するわ』
そこは結構緩いんだな。それで、ああ確かに僕には近寄って欲しくなさそうだったからね。条件は満たしていると。
『あとは簡単ね。あの娘に近付いて自分に惚れるように仕向ける』
いや、どうやって? やったことないから知らないけどどんなギャルゲーだって1日とかそこらで好感度がカンストすることはないぞ。
『なんとかしなさいよね』
まじかよ。どのみち館にもう一度向かう必要があるよな。まあとにかく必要な情報はこれで揃った。ありがとう、ユラム。さてと、そろそろ昼ご飯を買ってカナデさんのところに戻ろうかな。ユラムと会話しながらだけど市場あたりにやってきた。とりあえず目についたそこの食事でいいよな? 軽食って感じがするし。目についたお店のおばちゃんに声を掛ける。
「すみません、それをいただけますか? 」
「はいよ。何個だい? 」
「4つぐらいお願いします」
「銅貨4枚だが、どうする? 今ならもう一個付けて同じ値段でいい」
「あー……じゃあお願いします」
なんだか知らないけど一つオマケで貰ったな。それを持って宿に戻る。そしてそれをカナデさんと……たまたま戻ってきたというワタルさんと三人で食べる。これならもう一個買ったほうが綺麗に割り切れてよかったな。
「いえ、私は一つで充分です」
「そう? でも、それじゃあ悪いから少しだけあげるよ」
少しだけちぎって渡す。疲れているみたいだしきちんと食べておかないとね、ちなみに同じ食べ物を分け合う僕たちを見てワタルさんが意味深な笑顔を浮かべていたけどそれも全て無視することにする。そしてみんなが食べ終えた頃を見計らって次の行動を決める。
「それでは、向かいましょうか」
「はい」
「ん? どこに向かうんだ? 」
「侯爵様のところです。もう一度会っておきたくて」
「あー今日は人払いしているんじゃないかな? 家族水入らずで過ごしたいと言っていましたし」
「え? 」
カナデさんと確認していたらワタルさんからとんでもない情報が与えられた。てか、そこまで徹底するのか…それはとても困るんだけど。でも、ものは試しということで向かうことにするか。
そのあと、三人で侯爵様のところに向かう。人払いはしているといっても門番は残しているようで立っていた。うん、これは都合がいいな。でも、ここは面目ないけどカナデさんじゃないと意味ないだろうしということでカナデさんに任せることにする。そして、カナデさんは手近にいる門番に話しかけた。
「すみません」
「ん? ああ、昨日の巫女か」
「私たちユキ様にお会いしてたくて来たのですが」
「ダメだね。今日は誰も通さないようにとのお達しだよ」
「ですが……呪いを解く手がかりのためです」
「むむむ……」
門番は悩んでいたがカナデさんがもう一度お願いすると折れてくれて通してくれた。そして僕たちは館の中に入っていく……ん? 向こうに人影が見えた?
『人がいたわね……でも変ね。人払いは済ませていると言っているのに』
でもまあ今はそれどころじゃない。たまたま近所の子供が入ったとかそんなところだろう。それよりも侯爵様に会いたいな。って、本人が登場したんだけど。
「君たち、どうしてここに」
「あの、ユキ様にお会いすることはできますか ?呪いを解く手がかりのためにお会いしたいのですが」
「言いたいことはわかるがそれは無理だ。正直言えば特に君の顔なんて見たくない。帰ってくれ」
「そんな……」
さすがに対応が冷たすぎるな。君の顔なんて見たくない、とかさ。それって本当に僕たちに一切期待していないってことだよね。その言葉にショックを受けたカナデさんは黙り込んでしまう。その姿を見て、僕は思わず会話に割り込んでしまった。
「あの」
「なんだね? ただの従者である君の言葉こそ意味ないと思うのだが」
「娘さんの呪いですが、心当たりがあります」
「まさか娘と婚約したいとか言うんじゃないだろうな」
「……」
うーん、まあ大体あってる? 別に婚約したいとは考えていないんだけど、僕に惚れさせる……なんてナルシスト発言。さすがに酷すぎる。思わず黙ってしまった僕を見て侯爵様は怒りをあらわにした。はぁ、もう少し言い訳とか考えてシュミレーションとかしてから発言するべきだった。
「かつて君と同じことを言っていた解呪師がいたが目論見はわかっている! さっさと失せなさい」
「あ、アカリさん、そうなんですか? 」
「いえ、違います」
『そうね、それが正解だわ』
「ん?」
ユラム? 突然ユラムが僕の行動に賛同したから驚いてしまう。どこか引っかかったところでもあるのだろうか。
『この呪いの解き方、厄介だわ』
「いいかね、例え呪いを解くためとはいえ君と婚約とか絶対にしないからな!」
「あーはい」
侯爵のものすごい剣幕と、そしてその言葉を聞いてユラムの真意を理解することができた。なるほどねぇ。これ、もし侯爵様が解呪のために恋をさせたいと「望んだら」その瞬間に解呪の条件が満たせなくなる。あくまで望まれない恋をしなければいけないのか。なかなかに厄介じゃないか。呪いをかけた人ってかなり頭がいいな。その論理の展開の仕方とかどうやったら思いつくのか知りたいんだけど。まあ、なら今ここにいる必要は全くないな。なので僕は侯爵に別れを告げる。
「もういいです……それでは、失礼します」
「ああ、せいぜい残りの人生を楽しむといい! 今日が最後の日になるのだから」
やっぱり明日死ぬのが確定ですか。てかさっきカナデさんに対して会いたくないっていっていたし最後の希望と思っていたカナデさんたちに対して怒りを覚えているんだな……。
ユラム、カナデさんを殺されたくないからさすがに手伝ってくれないか?
『…んーわかったわ』
よし、それじゃあ一旦宿に戻ろう。
『どうするの? 』
ユラムから聞き返されたけど、答えは決まっている。会うことを止められたのなら、夜にこっそりと、この館に侵入する。そして、ユキさんに会って勝負を掛ける。




