邪神サイド1
今回は湊視点ではありません。ご注意ください。
俺の名前はハヤテ……いや、それは潜伏用の名前だったな。俺の本名は橘隼人。この世界に召喚された異世界人だ。俺は今、任務を終えて邪神教の本部へと帰っていく。本部の入り口にて、一人の美しい女性の姿が見えた。そしてその女は俺に向かって話しかけてくる。
「なんであの男を殺す必要があったのかしら? 」
「彼は俺が邪神教の人間であるということを知っていた。だから殺したそれだけだ」
なぜそんなわかりきったことを聞くのだろう。まあこいつのことだから確認の意味を込めて、だろうな。ギンガのやつは俺のことについて少し知っていた。それにあいつのことだから自分の命大事さに俺のことをペラペラと話している可能性だってあった。そうなるのは少しまずい。
「そう、それならいいわ。でも不思議ね。あなたがしくじるなんて」
「それは嫌味か? 」
「いいえ、驚いただけ」
「……湊がいた」
「! 、湊くんが!? 」
本来ならきちんと報告するべきなんだろうけどこいつの言葉に少し苛立ちを覚えたからつい話してしまった。まあ後でちゃんと話すから問題ない。それに、しくじる、か。任務としてはもう少しあのギンガの野郎を傀儡にできればよかったんだがな。
「そうだ。一目見てすぐにわかったよ。向こうは俺のことに気がつかなかったみたいだがな」
「それはそうよ。私の能力を見くびらないで」
心外だという風に言われる。そうだったなこいつは自分の能力に絶対の自信を持っていたんだっけ。俺だって自分の能力がバカにされるのは嫌だ。
「それもそうだな、すまないな、日暮」
「わかればいいのよ、それから、こんなところで名前を呼ばないで」
「はいはい」
女性の名前は日暮絢香。俺のクラスメートの一人。つまりは俺と同じく、この世界に召喚された人間だ。能力は他人の姿を変えることができる。自分の能力も変えることができるのでずっと今の美女の姿で生活している。元の姿は、まあお世辞にも美しいとは言えない容姿だからな。
話を戻すが、この日暮の能力で変化していたので、湊は俺の姿を見ても俺だと認識することがなかった。こいつの能力はとても便利だ。潜入とかも簡単にできるし任務後に足がつくことがあり得ない。
俺は日暮と一緒に本部のとある部屋に向かう。そこには俺たちが召喚されて当てがわれた部屋がある。俺は任務が終わった後にそこで全部伝えるようにしている。別に義務ではないが、俺と一緒に召喚された奴らに対しての信頼からそうするようにしている。
「おかえり、橘」
「ああ、ただいま」
そこにいたのは桜花桃の助。名前のせいで地球にいた頃はいじめられていたらしい。俺は詳しくは知らないけど…まあそれを言ったら日暮もそうだし。俺もいじめられはしていなかったが、恨みというものはある。
「浮かない顔をしているけど何かあったのかい?」
「桜花」
「なに? 」
「湊がいたぞ」
「へぇ……」
湊の名前を出した瞬間、桜花の顔が醜く変化した。こいつは湊に対して強い嫉妬心を抱いている。なんでもこいつはあの神崎栞のことが好きだったらしい。そして神崎は湊に対して好意を抱いている節がある。だから嫉妬している。
「ねえ、殺していい?」
「やめておけ。あいつが王宮に召喚されたクラスメートとつながっていたら警戒されるだろう」
「もしかしてバレちゃったの? 」
「いや」
そう言いながらも俺は少し失敗してしまったかと思っている。正体がばれたとは思わないが、湊は「ハヤテ」がクラスメートの誰かであるということがわかっただろう。まあ他人の姿を変える能力を知っていればの話だが。つい、ヒントを与えてしまったことを二人に告げる。
「それは失敗ね。まさか諜報部員が自分の存在を伝えるようなことをするなんてね」
「反省している」
まあもしものことがあれば俺がなんとかすればいいだろう。見た感じあいつは戦闘系の能力を持っているように見えない。そんなことを思っている俺に桜花が話しかけてくる。
「ねえ、橘」
「なんだ? 」
「湊のやつの他に、クラスメートはいたかい? 」
「いや……多分いなかったな」
状況が状況だったからあいつ一人でも不思議じゃないが……いや待てよ。もう一人いる可能性が高い。あそこでギルドにギンガの書類が渡ったのは間違いなく湊が関係している。だがあいつはずっとあの館の中にいた。遠くに荷物を届けることができる能力ならあり得るが……そうでないのなら館からギルドに書類を届けたやつがいる。
「まて、桜花。もう一人いるかもしれない」
「へえ? 」
僕の考えを述べる。二人とも納得してくれたみたいだ。だとすれば、いったい誰が? という問題が出てくるが俺は一度も出会っていないし、まさか俺と同じように隠密が得意なのかもしれないが。
「そうね、じゃあ湊くんの能力の把握が先決かしら? それから私たちの存在が知れ渡ったとして動く必要がありそうね」
「ああ……悪いが俺は疲れた。休ませてくれ」
「ええ、まだ次の任務がないから休んでいていいわ。何かあれば桜花くんが伝えてくれるから」
「しっかり休んでおきなよ」
彼らの言葉を背中に聞きながら……俺は備え付けられているベッドに横になって静かに目を閉じた。任務で疲れたからか、すぐに寝ることができた。この世界にきて、こんな生活をずっと、俺は、俺たちはしている。
よろしければブクマ、評価よろしくお願いします




