神の声を聞く少女9
『さてと、この街にこれ以上いても意味ないしこれからどうする? 』
ギンガの館での攻防…言い換えればギンガの死から一夜明けて、ここの使用人の能力のおかげで大分回復した。もう傷口も塞がっているし立ち上がっても特に問題ない。さらにカナデさんが回復ポーションを用意してくれたのでそれを服用することで回復が早まったようにも感じる。
「また別の村やら街へと進むしかない、かな。この街で僕ができることなんてもうなさそうだし」
『そうね、あなた、ギルドにはいくの? 』
うーん、正直行きたくない。それにそこまで強制力を持っているとは思えないのでさっさと逃げるに限る。うん、この街から早く去る必要がある理由が一つ増えたな。あれ? そういえば……、
「あ、宿屋に荷物忘れてた」
「こんにちは、アカリさん、体調はどうですか?」
「大丈夫ですよ」
使用人の人が扉を開けて入って来る。カナデさんはあれから一回もここにやってこなかった。やっぱり僕と旅をすることを断ったことが気になって顔を合わせづらいのかな? 僕としてはそこまで気にしなくてもと思うけど。
「良かったです……それで」
「はい」
「カナデ様は昨日からずっと悩まれているのですが心当たりはありますでしょうか?」
「え? 」
何かあったんでしょう。という顔で僕に質問してくる。これは正直に答えるまで見逃してくれそうにないな。
「実は一緒に旅しないかと誘ったのですが断られまして」
「振られたんですね」
「なんでそんな解釈になるんですか」
思わずげっそりする。いくらなんでも僕とカナデさんが出会ったのってほんの一昨日だからね。1日2日で恋愛感情が生まれるとかそんなこと滅多にないからね。使用人の人は少しだけ残念そうな顔をした後、僕に向かって衣服を差し出してきた。これって、僕は宿屋においていた着替えじゃないか。
「そうなのですね、あ、こちら着替えとなります。勝手に調べさせていただきました」
「あ、ありがとうございます」
では、と一礼して使用人は部屋から出て行った。僕も寝かされているベットから起きて服を着替える。今着ていた服はこの館にあったものらしい。さてと、これでこの街を去る準備ができたわけだ。てかここの人たち僕に敵意向けてなかったっけ?
『まあカナデの態度を見ればあなたが敵じゃないってわかったんでしょうね』
「そういうものなのね」
『それで、もう出るの? 』
さっきも思っていたけど、この街にいてもしょうがない気がする。そもそもここに寄ったのだって神様の声を聞くことができる巫女がいるって話だから寄っただけだしこれからまたのんびりと当てもなく旅を続けることにするよ。
『それもそうね。じゃあ誰かに一言だけ告げて』
「アカリさん」
「か、カナデさん? 」
出かけようとしたら部屋の扉が勢いよく開いて、カナデさんが入ってきた。急いで来たのか息が少し上がっている。
「えっと、あれ? どこかにお出かけですか? 」
「いえ、もう出発しようと思いまして、カナデさんはどうしたんですか? 」
「アカリさんにお願いがあってきました」
「僕に? 」
「はい」
そう告げるカナデさんの目はまっすぐで覚悟を決めたのだとわかった。でも、どんなことをお願いされるのだろうか。
「私と一緒に、公爵様の元に行ってくれませんか? 」
「え? 」
公爵様のところに向かう? あの、全く話が読めないので詳しい説明が欲しいですけど。
「実は今回のギンガ様の件で巫女であった者として説明のために公爵様のもとに向かわなければならなくなったそうなのです。それでお付きの者としてアカリさんを、と思いまして。昨日は断ってしまい虫のいい話だとは思いますが」
「あ、ああ……僕は別に、構いませんよ」
そういうことならば僕としても特に問題がない。どうせ行く当てなんて特にないわけだし別にもう少しだけカナデさんのお手伝いをしたところでまったく問題がない。
「てっきり断られるかと」
「大丈夫ですよ。僕が最初に聞いた質問……相談か、を、覚えていますか」
「そういえばこれから向かう先、を聞いていましたね」
「はい、ですので大丈夫です。それでいつ出発なのですか?」
「ギルドの方がアカリさんに会いたがっていましたのでその後にでもって考えていたのですが」
「できればやめてほしいです」
「はい。もし」
「ん? 」
「もし、私が正式にアカリさんと一緒に旅をすることになったらちゃんと話してくれますか? 」
「……」
呟かれるように言われた言葉。それだけで彼女がかなり悩んでいることがわかる。だからこうして申し出をしたのだろうか。僕ともう少しだけ一緒にいて、旅をするか否か決める。それなら、僕もきちんと応えないといけないな。
『ちょっと違う感じもするけど、まあいいか』
「はい、話しますよ」
「わかりました! じゃあ私、使用人達に伝えてきますね。もう出発すると」
「お願いします」
カナデさんは笑顔で部屋から出て行く。僕も出るとするか。玄関とかで待っておいた方がいいのかな。そう思ってベッドから立ち上がり、玄関から外に出ると……そこには昨日のギルド職員の男性の方がいた。
「えっと…」
「ああ、元気になったのですね。では、申し訳ありませんが話を少し聞きたいのですが」
「すみません、これから僕は」
ギルドの職員がいたので少し焦ってしまっていたら、玄関の扉が開いて、そこからカナデさんが出てきた。
「あ、準備ができたのですね」
「おや、カナデさん……ああ、なるほど、彼はあなたの付き添い、と」
「そうなります」
「……わかりました。では私も一緒に向かいましょう」
「え? 」
「聞いていないのですか? 私も同行します。カナデさん。あなたは罪人扱いを受けていますので。一応ギルドの監視下に入っていただきます」
そうか、その言葉を聞いてやっと理解した。カナデさんがあえて言わなかった言葉も。今までこの街が発展してこれたのはギンガのおかげというのもあるけどそれよりもカナデさんの影響が大きい。それが嘘……厳密には少し違うけどまあ嘘の能力だとわかった今、公爵様へ向かうのも、そこら辺の罪について話すためなんだな。カナデさんは僕に心配をかけないようにと一切を告げなかったのか。
『やっとわかったのね。そう、彼女は今は罪人扱い…まあ事情を鑑みて監視程度で済ませているのでしょう』
「なるほどね」
「それで……君のことだけど」
「はい」
「どのみち君とは少し話がしたかったんだ。旅の間だけでもいいだろう?」
「…わかりました」
こうなってしまっては仕方がない。一緒に旅をする以上しょうがないことだろう。でも、それならできることなら色々なことを聞いておきたいな。この機会を逃さないでたくさん情報を手に入れることができたらいいな。
「わかりました。それでは三人で…公爵様のところを目指しましょう」
「ええ、目的地とかの詳しい案内は、私がするのでお二方は安心してください。ああ、それから私の名前はワタル。よろしくお願いします」
「「わかりました。よろしくお願いします」」
話はまとまったので、僕たちはその公爵様がいる街……いやどちらかといえば都市かな? を目指して進むことになった。うっかりユラムのことを話さないように気をつけないといけないな。ただ、ワタルさんはなんとなくだけど信用できると思う。




