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神の声を聞く少女8

 

「では、我々と一緒に来ていただきますね」

「くそっ、今までうまくいっていたのに。あのガキのせいで全てが狂ってしまった」


 ギルドの人たちがギンガを連行しようと取り囲んだ。あいつの罪状が決定的になった以上、ギルドにおいて裁くことになったらしい。そして僕の方を見て、


「君は……今気がついたけど怪我をしているじゃないか! 今すぐに治療を」

「え? い、いや、大丈夫です」

「大丈夫じゃないよ!それに…君には少し聞きたいこともある」

「え? 」


 つい治療を拒否してしまったけど僕の体ってそんなにやばい状態なのかな?それに僕そんな怪しまれるようなことをした記憶がないんだけど。むしろ操作に協力した善良な市民じゃないかな。


『すぐにあのトリックを見破ったからじゃない?』


まあ、それもそうか。でも、少し気になる。あのロジックの仕方、あれってまるで……、


『そうね…私も不思議だわ。間違いなくあなたたちの知識よね。まあこの世界でももちろん研究されているけど』


 そうか。なら知っていたとしてもそこまで不自然ではない? もちろん怪しいのは怪しいのだけどそんな時、新しい声が聞こえてきた。


「これは……なんの騒ぎですか? 」

「あ、巫女様……いえ、カナデさん」


 二階からカナデさんが降りてきた。その上にハヤテの姿が見える。カナデさんは一階にいるギルドの人たちとそれから鎖に繋がれたギンガ、それから僕の方を見て……僕のところに走ってきた。


「アカリさん! 怪我しているじゃないですか」

「だ、大丈夫ですよ」

「いいえ、きちんと治療をしてください」


 強く言ったと思ったら、次の瞬間に泣き始めた。え、いや、ちょ、なんで? そしてさらに僕は驚いた。彼女が僕に抱きついてきたからだ。


「うっ……うっ……良かったです」

「あ、その、すみまいてててて」

『あんたねぇ…少しぐらい我慢しなさいよ』


 ちょうど背中に回されたカナデさんの手が僕が貫かれたところに触れてしまって痛みが走る。やせ我慢なんかしないで治療を受けた方がいいのかもしれない。カナデさんを見てホッとしたのか痛みの感覚が襲ってきた。


「君にもきてもらいたかったけど……少し後の方がいいかな」

「あ、治療を」

「ん? カナデさんにお願いするよ。この館に治療系の能力者はいますか? 」


 使用人の一人がおずおずと手を挙げる。さすがは領主ということでちゃんと治療系の能力を持った人もいるのか。その人に治療されてから僕はギルドの事情聴取を受けることになった。それを受けてこれで全部おしまい、そんな空気が場を支配した。ギンガも無事に捕まえることができて他には……、


「危ない! 」

「え? 」

「きゃああああああああ」


 まだ階段の上にいたハヤテがギンガに飛びかかって、そして一瞬のうちにギンガの頭を捻じ切った。それを見て使用人たちが叫び声を挙げる。また、首を取られたギンガの体は血しぶきをあげながらゆっくりと倒れていく。そしてハヤテは僕の方に走り出す。それはほんの一瞬のうちに起きた出来事だった。


「まさか湊に止められるなんて思いもしなかったよ」


 ……え?


 ハヤテが僕の横を通り過ぎようとした瞬間にそんな言葉が聞こえた。そして、その言葉がかけられた瞬間に首に衝撃を感じ……僕は気を失ってしまった。


『まさか……私以外にも』











「アカリさん! アカリさん! 」

「う、うん」

「あ、目を醒ましました」

「良かったです」


 目を開けると、カナデさんの顔が見えた。ずっと泣いていたのか目元がかなり腫れている。今の時間は? 首を動かそうとするとまた痛みが来る。あの野郎首に思いっきり手刀をぶつけてきたんだな。てか手刀で人間って気絶するんだな。


「体を動かさないでください……治療はしましたけどまだ安静にしておいてください」

「すみません……私の能力では完治まで持っていけないので」

「いえ、治療していただけただけありがたいです」


 声を聞く感じここにいるのはカナデさんとそれから僕を治療してくれた使用人の二人だろうな。痛みは確かに感じるけど……血が止まっているのはわかる。もしかして栞なら完全に治すことができたのかなとちょっとだけ不謹慎なことを思ってしまった。


『治療系は珍しいし、そもそもあの女の子の能力が異常なだけよ。それから、血が止まっているけどそこそこ失っているから今日はもう動けないわね』


 冷静な報告ありがとう。それに……僕としても考えたいことがたくさんある。それもきちんと整理しておきたいからちょうどいい。


「さて、目が覚めたのなら後はカナデ様に任せます。いいですね」

「え? 」

「まさかカナデ様にボーイフレンドが出来たとは」

「ち、違いますよ!? 」

「さっき抱きついていたではありませんか」

「そ、その……」


 治療を終えたらこんどは揶揄うような声色でカナデさんを揶揄えるだけからかって、そのままわけ知り顔をして僕を治療してくれた人は部屋を出て行く。その際に「ごゆっくり〜」と最後のダメ押しをすることを忘れない。いや、それ本当に余計なおせっかいですよ。部屋の中にはあまりの急展開に呆然としている僕と顔が真っ赤になっているカナデさんの二人が残された。まさかとは思うけど外で盗み聞きしているなんてことはないよな。


「えっと……え? 邪魔者は追い払った? 」

「動物たちの仕業かな」

「アカリさん……私の能力は」

「うん、ギンガの言ったことは間違っていないですよ。君の能力は動物と……それから植物の声を聞くことができる能力です」

「そうなんですね……ありがとう」


 そのお礼はきっと、僕にではなくて、今まで助けてくれた生き物たちのことに思い至り、感謝しているからこその言葉だろう。そんな言葉が素直に出てくるあたりカナデさんの心の優しさが現れているんだろうな。


「あの……聞きたいことがあるんです」

「ん? なんですか? 」

「あの、ハヤテ様が言った湊、というのは……アカリさんのことですよね? 」

「……聞いていたのですね」


 あの時カナデさんは僕の近くにいた……相当近くにいた。だから当然あの最後の言葉も聞かれていただろう。それに僕は一度彼女の前で『湊』って名乗ってしまっているしね。さて、それにしても、どこまで話すべきだろうか。


『この子と旅をするのなら話しておいた方がいいわ。でも、違うのなら貴族というふうにしておくべきね』


 やっぱりそうなるか。え? それってつまり僕ここから女の子を誘うってこと? 何最後にとんでもない爆弾を落としてくれているんだ。


「そのことなんですけどその前に、一つ質問してもいいですか? 」

「え? はい、構わないですよ」

「カナデさん、これからどうするの? 」

「え? わかりません。ギンガ様が死んで……この街はこれから大変になります。だからその助けになればと」

「そう、ですか」


 まあ、わかりきっていたことだよな。カナデさんがこの街を大切に思っていることが伝わって来る。急に聞かれて驚いたようだけどそれでも真摯に答えてくれる。


「どうしてそんなことを聞いたのですか? 」

「いや、よかったら僕と一緒に旅をして欲しいなって思ったんだけど」

「アカリさんと? 一緒に旅? 」

「うん、僕はこの世界を見て回っているんだ。そして、そこに、カナデさんもいたらなって思ったんだけど」

「ごめんなさい。私、やっぱり、この街を捨ててはおけません」

「そうですか……」


 断られてしまった。まあ、わかりきっていたことだもんね。べ、別に悔しくなんてないからね。女の子に断られたのがこれが初めてってわけじゃないし。


『はいはい』

「ごめんなさい…私、自分の部屋に戻ります。ゆっくりしていてくださいね」


 カナデさんが断ってから部屋の中に流れていたこのいたたまれない空気に耐えられなくなったのかカナデさんは部屋から出て行った。ちょっとさみしいけど、自分の秘密を話さなくてよかったと考えるしかないな。


『さて、アカリが振られちゃったことだし、色々と整理しましょうか』

「整理って……やっぱりあの言葉だよな」


 振られたの言葉は完全に無視する。それよりも気になることがあったから。僕はこの街に来て、一度も湊という名前を口にしていない。カナデさんの前で一回言ってしまったけどその時に聞かれていたとは思えない。だからその名前を知るなんてありえないんだ。それに、あの口ぶりからして間違いなく僕のことを知っている様子なんだよな。


「クラスメートにあんな奴いたっけ? 」

『それについてはなんとも言えないけど、その可能性は高いわね』

「え? 」

『この世界には、あなたのクラスメートは全員転移してきているわ』

「それって」


 この世界に最初に来た時にクラスメートの数を確認したけど数が足りていなかった。まあ別に全員が転移する必要性なんて全くないから気にしていなかったけどでも、今の言葉を聞いてはっきりした。王都に……王宮で召喚されなかった人たちがいる。それじゃあどこで召喚されたって話だけどまあ考えるまでもないよな。


「邪神教の本部的なところかな」

『そうなるわね』


 じゃあ……あれはクラスメート? でもあんなやつ知らないんだけど。さすがにクラスメートの顔ぐらいはだいたいわかる。なんで?


『姿が変わる能力の持ち主がいると考えるのが普通ね』

「じゃあ二人以上が敵? としているのかな」


 扉を蹴破ったのはハヤテの方で間違いないだろう。だとすればハヤテの能力は戦闘系に属すると考えられる。姿を変えるというのはきっと特殊系に位置するしどう考えても戦闘系じゃないからね。……この事実は僕にとってかなり厳しい現実だった。何故ならば、僕は……僕たちは、クラスメート同士で戦い合う可能性が生まれたからだ。


「それじゃあ一体誰が……」

『それもきちんと見つけないといけないわね』


 辛いけど……現実を受け止めないといけない。クラスメートと戦う時に、僕は……自分の覚悟を貫き通すことができるのだろうか。

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