最強も無力も
「こ、これは」
「はぁ……はぁ」
「ご、ご主人様?」
アルムから力の一部を抜き取ることに成功した。でも、完全に抜き取ることができなかったみたいで、ユラムの声は一切聞こえない。そもそも意識があるのかはわからない。ただ、わかることは、抜き取れたという事実だけ。神杖の宝玉が全部輝いているから。
「貴様!」
「これが人間の力だ。『雷』」
「そのような攻撃が効くと思うか!」
先ほどと同じように電撃を放つ。そして今度は封じられることなく、橘の体に命中する。
「なぜ……これが神の力か」
「やっぱりユラムの力が戻ってきた」
本来の力を使うことができている。まあ、能力が打ち消されることがなかったのはこちらも同じように神の力を手にしたからだろうな。能力の打ち消しとかいかにも神の力っぽいからね。
「すごい」
「何が起きたの?」
後ろで声が漏れているけどそれに反応する余裕は正直ない。どれだけ持つかわからないが、今のうちに絶対にアルムを倒す。
「ルナ、補助をお願い」
「わかりました。サポートします」
「ふざけるな!」
橘の周囲に大量の武器が出現する。そして、それらが一斉に僕に向かって突っ込んでくる。もしかしたらあれに追加効果があるかもしれない。
「『慈愛』」
「!」
「そして『忠義』」
向かってくる武器を全て移動させる。この能力の仕組みが少しだけわかってきた。普段の時は、僕の手が触れている範囲だけしか移動させることができなかった。でも、本来の力なら、こうして少しだけ離れていても移動させることができる。そうして全部消し去って、アルムがひるんだ隙に体の一部を結界で封じ込める。
「この程度」
「『純潔』『雷』」
「!、我に精神攻撃が聞くと思うな」
まあ、だよね。結界もすぐに解除されちゃったし。ゲームとかでもボスには精神系は効かないっていうのが基本だしね。でも、動きを制限することはできる。二つの能力で動きを止めたところを電撃で仕留める。
「くそっ」
「ユキの能力だって役に立つでしょ」
『勤勉』の力で橘の未来の動きを視て攻撃を当てることができる。これでちまちま殴ってもいいけど、もう少しだけ有効打が欲しいな。
「その程度で」
「はいはい」
雷に当たって動きを止めた隙に僕は橘に近づいていく。そして神杖を振り上げて殴る。
「くっ」
「『節制』」
「何!?」
杖は橘の腕に阻まれてしまい、そこから思いっきり蹴られる。左の太ももに強打を受けてしまったが『節制』を一回打ち込むことに成功した。
「何が目的だ」
「まあ、賭けかな『慈愛』」
「!」
今度は自分自身を移動させて橘の後ろを取る。そこで神杖を振り抜いて雷を発生させて同時に室内ながら雨を降らせる。
「これは」
「凍れ」
ルナの能力を借りてそのまま雨を凍らせていく。しかし僕の動きを読んでいたのかすぐに距離を詰められて思いっきり殴られる。橘の能力が肉体強化で近接戦闘にかなり特化しているからね。でも、
「『勤勉』『寛容』」
『寛容』の効果はタイミングよく発動させればダメージを0に抑えることができるというもの。普通ならかなりシビアなタイミングを要求されるがユキの能力で未来を視ることができる僕にとって、この程度、造作もない。
「貴様」
「お前をここで、かならず倒す『竜巻』」
「うぐっ」
風を巻き起こさせて橘を上空へと飛ばす。そして、また自分を移動させて、空中へと躍りでる。橘が反応して殴ってくるが、それも予測済み。そして、逆に腕を掴むと、
「『節制』」
「それに何の意味がある!……!?」
「二回で効果が現れたね」
「貴様……ユラムに力を」
アルムの中にユラムがいる。それは間違いない。だから、ユラムに僕のエネルギーを渡すことで内部から崩してもらう。僕だけでアルムを倒しきれるかって言ったら当然無理だしね。
「何度でも打ち込んでやるよ『忠義』」
「ちっ、ピンポイントで我の体を阻害してくるな」
腕や足に結界を作り出すことで橘は動くことがままならない状態になっている。そしてルナが風を操ってくれているのか僕はかなり動きやすい。
「死ね」
「サラちゃん!」
「はい!」
いくらユキの能力で未来を見ることができているとはいえ、攻撃を全て避けることができるかといえばそれは無理だ。身体能力だけみれば僕は橘に遠く及ばない。今も橘の拳を思いっきり受けた。でも、サラちゃんとサラちゃんの能力をコピーした僕の能力で二重で回復をかける。これでかなり凌ぐことができるな。
「ちょこまかと」
「『節制』」
「うぐっ」
『』
「!」
もう一度『節制』を放ったときに、アルムの奥から何かが聞こえてきた。カナデの能力をもらっていたら、声が聞こえた。ちょっと不敬にはなるけれどユラムも生きているし、カナデの効果と僕の今の状況が合わさったことでユラムの声が届いたのだろう。
『』
「わかってるよ『慈愛』」
「我の攻撃を先読みして逃げるか」
「お前も予知とか使えばいいのに」
ユラムは未来のことを全部知っていたぞ。何度も橘の拳を黙って喰らう訳はないので、移動して死角を取るように動いていく。連続して何度も移動することで的を絞らせない。
「くっ」
「『雷』『忠義』『純潔』『節制』」
「貴様、なぜそこまで能力を使用できる……?」
これが、最後だからね。そろそろ体が悲鳴をあげる頃だろうか。正直言えば、痛みをだんだん感じなくなってきている。でも、まだ倒れる訳にはいかない。
「強がりもほどほどに……?」
「僕は杖以外も当然使うからね」
「私が渡したナイフ……」
橘が殴ってきたのでそのまま合わせるように持っていたナイフを突き出して拳に突き刺す。そしてすぐに引っこ抜くと、拳から血が流れ出す。
「ちっ」
「『慈愛』」
「また死角を……?」
移動を使って死角を取ると見せかけて僕は七草の近くに移る。そして一瞬アルムが混乱している隙に七草のポケットから紙を取り出して、血をそこに垂らす。
「何をしている」
「最後の詰めを用意しただけさ……ルナ、僕の指示に合わせてこれを思いっきり引きちぎってくれ」
「これはっ」
「頼むよ『雷』」
ルナにお願いをしながらアルムに向かって雷を放ち、アルムの攻撃がユキたちに向かないように僕に注意を引きつける。そのまま転移して杖を振り回す。
「貴様……!」
「ルナ!」
「はい!」
「『節制』」
そしてアルムが反応した瞬間に、ルナに指示を出し、紙が引きちぎられたタイミングで僕はアルムに『節制』を叩き込む。
「う……うぐっ、貴様、何をした」
「七草の能力で呪ったんだよ。『純潔』と同様、本来の効果が発揮されることはないが、それでもお前を少しだけ揺らすことはできる」
「そこでユラムの揺さぶりが効果を増すということか」
「そうだよ……そして、もう一度こい! ユラム」
七草の呪いに後押しされる形で僕はもう一度、ユラムを呼び寄せる。今度はしっかりと前準備をしていたので橘の体から先ほどよりもかなり大きな光が出てきて、僕の体に入っていく。
「貴様……」
「はぁ……はぁ……」
『ありがとう、アカリ』
そして今度こそ、僕は耳にする。慣れ親しんだ、ユラムの声が。
「ユラム……!」
「これで、終わらせる!」
『これ以上の悪さは遠慮してほしいわね』
僕の上に、光の剣が大量に出現して、橘の体に向かって突き刺さっていく。そして、身動きが取れなくなった橘を前にして、
「終わりだ!」
ユラムが教えてくれた。アルムを封じる方法。橘のところに向かって、そして、神杖を振り上げて、橘の心臓の部分に思いっきり突き刺した。
「うっ……うぐっ」
「永遠に眠れ、アルム」
「ユラムぅぅぅぅぅぅ」
『私の中に、戻りなさい』
橘の体から、今度は光ではなく、闇が飛び出して、それが僕の体の中に入り込んでいく。そして、その闇が全て出し切った後、橘の体はゆっくりと地面に倒れた。
「やった!」
「アカリ!」
橘が倒れたのを見て、ユキたちが僕の元に駆け寄ってくる。それを見ながら、僕は、
『お疲れ様、アカリ。本当にありがとう』
ユラムの声を聞きながら、静かに……倒れた。
次回、最終話です




