決戦3 無力vs神
「やるな、神の使い」
「お前だけは……絶対に許さない」
もう一度、完成された神杖を手に持ちながら、僕は邪神を睨みつける。自分に従っていた七草に対してのこの仕打ちは例え神だとしても許されるものではない。そんなこと、ユラムやエリス様なら絶対にしない。
「ははは、我を許さないとか、人間のくせに、傲慢だな」
「傲慢って僕のことをなんて呼んでるんだよ」
ユラムの使い、だろ? それなら少しぐらいこんなことを言ったとしても問題ないよな?
「減らず口を」
「お前を倒すって、決めたから」
「お伴しますね」
いつの間にか、ルナが隣まで来てくれた。さらに後ろの方を見れば、ヒヨリもエリス様からもらった短刀を持って戦いの準備をしている。かなり心強いな。
「貴様らが何人集ろうが我には勝てぬ」
「本当に勝てないか試してみろよ……ルナ! 何かあればサポートするからあいつに攻撃を」
「かしこまりました」
ルナにお願いしたと同時に風が吹いて、邪神の方に向かっていく。こういう風に風の刃として使うことができるのがルナの強みだ。でも、
「その程度、我を前に効くと思うな」
吹いている風は邪神からある一定の距離まで近づいたときに何事もなかったかのように、消えた。まるで能力が突然消えてしまったかのように。
「お返しだ……数多の剣だがな」
そして橘後ろに大量の剣が生まれる。そして、それが僕たちに向かって降り注いでくる。
「僕が防ぐ『忠義』」
みんなに結界を貼っていく。でも、片っぱしから破られていく。本来の力が使えない以上、強度がかなり落ちているみたいだ。
「あれはっ」
「ユキ、わかるの?」
「アカリの中にいた何か、が使っていた能力だわ。剣を生み出して……そして記憶忘却の効果もあった」
「まじで!?」
ユキの話が本当ならあれに触れるのはまずいということになる。てか、ユラム、お前何してたんだよ……。
「ふん、創造神と同じか……なら、使うのをやめるか。代わりに……こちらでどうだ?」
邪神の手に空気が凝縮されていく。風が見えるぐらい圧縮されていっている。そのまま解き放つだけで僕たちを吹き飛ばすことが可能だろうな。
「風の防御壁を作ります」
ルナが言ったと同時に僕と邪神の間にも風が集まってきた。そして、
「吹き飛べ!」
「『忠義』」
邪神が持っていた風の玉をこちらに向かって飛ばしてくる。そして圧縮された空気が解放されて僕は吹き飛ばされる。ルナが風のクッションを作ってくれていなかったらきっと身が吹き飛んでいただろう。さりげなく結界を貼ってみたはいいけど、ほぼほぼ意味なかったし。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫、ルナ、ありがとう」
「いえ……どうやら、これは私たちを狙ったものではないみたいです」
「え?」
僕たちを狙ったものではない? 今、邪神と戦っているのは僕たちだけの……いや、まさか。後ろを見てみても、ヒヨリやサラちゃん、カナデにユキは無事だ。誰も巻き込まれている感じはしない。
「誰を狙ったんだ?」
普通にルナの風によって威力を相殺することに成功したのだろうか。逸れていたから、うまい具合に防御が決まったみたいな。
「ははは、存在を忘れるとは哀れだな」
「え?」
「ほれ、ここにはもう一人いるだろう」
誰のことを言っているんだ? 僕は邪神の言っていることがわからずにもう一度あたりを見渡す。ここにいるのは、僕と……
「まさ……か」
「そういえば、まだ罰を与えていなかったと思ってな」
「お前! 仲間だろうが」
狙われたのは倒れている七草だった。いや、仲間だけではない。七草はさっきの僕との戦いでもうボロボロだ。死にかけだと言ってもいい。にもかかわらず、七草を狙ったとでも言うのだろうか。
「貴様に負けるような奴など、知らぬ……それに、我なりの介錯と思ってくれてもいいぞ。あのままでは死んでいたのを、神に殺されるのだから」
「助けようっていう気はないのかよ」
「ないな」
七草に駆け寄ってみたら、七草の体は半分が吹き飛んでいる。血も一緒に吹き飛んでしまっているのか怪我の割に流れている血は少ない。
「アルム!」
「先ほどまで敵として戦っていたのに、よくそこまで怒りを持てるな」
「敵である前に、クラスメートなんだよ『雷』」
怒りのままに、僕は邪神に向かって雷を放つ。でも、先ほどのルナの風のように邪神にたどり着くことなく消えてしまった。
「無駄だということがわからないのか」
「うるせえ」
無駄かどうかだなんて、そんなことお前が勝手に決めるんじゃない。もう一度、七草の方を見る。幸い顔はそこまで傷ついておらず、僕が眠らせたことによってかなり安らかな顔をしていた。
「ご主人様」
「絶対に許さない……ユキ、みんなを連れて離れて」
「嫌よ」
七草の死を受けて頭のどこかで考えてしまう。このまま戦ってはユキたちが死んでしまうのではないかと。だから心置きなく戦えるようにユキたちを逃がそうとしたんだけど……間髪入れずに拒否されてしまった。
「お兄ちゃんが死にそうなら私が助けるもん!」
「アカリに命を救われたからね」
「何もできないですけど……できることを探します」
「私の過去を救ってくれたこともあるからね」
「美しい絆だな」
「お前がそれを言うか」
みんなが口々にこの場に残ることを宣言する。カナデやユキはできることが少ないのに、それでもここに残ってくれる。多分、信じているからだろう。僕がアルムを倒してくれるって。
「ご主人様、大丈夫です。誰も死にませんから」
「ルナ……」
そしてルナが僕の考えを読んだように言葉を伝えてくる。しかし、僕が反応するよりも先に、邪神が反応した。
「ほお? 誰も死なない、か。面白いことを言うな。お前以外ほぼほぼ無力なのに」
「無力、か」
確かに宝玉はあるけれども、本来の力を使うことができない以上、厳しい。何もできないと言っても過言ではない。でも、
「アルム」
「なんだ」
「お前に教えてやるよ……この杖の本来の力を」
「は? それは我ら神の力で」
「お前が言っているのは宝玉のことだろ? 僕が言っているのはこの杖本来のことだよ」
冥界にて、カレンさんが教えてくれた。7つの宝玉がはまっている時、つまり本来の姿を取り戻した時にのみ、使うことができる、本来の力。いや、そもそもの使い方を。
「ルナ、お前の言う通りだよ。誰も死なない……誰も、殺されることはない」
「ご主人様?」
「言ってくれるではないか」
あえて言い直した僕の言葉に不思議そうにしている。それを無視して、僕は杖をしっかりと握り締めながら邪神の方に歩いていく。強く握るたびにゆっくりと神杖が輝きだす。
「む? 何をする気だ?」
輝きを増してきた杖を見て、アルムが警戒するように身構える。先ほどの僕の言葉が引っかかっているみたいだ。僕は後ろを見渡して、僕の頼れる仲間たちの顔を見る。
みんなの覚悟は伝わってきた。だから……僕は彼女たちのその覚悟に応えたい。
『だから君に、教えるよ。この杖の本来あるべき姿を……それは、神を呼んで、自らの体に取り憑かせること』
「僕の体に取り憑け! ユラム」
両手で強く握りしめて僕は叫んだ。叫んだ瞬間に、橘の体の中から光の塊が現れて、その一部が僕の体へと移ってきた。
『神を呼んで自らの体に取り憑かせること、当然命の保証は……しないけどね』




