決戦
「走れないの辛い……」
「お兄ちゃん怪我をしてるからねー」
あんな風に格好良く言い切ったまでは良かったのだけど、いざ王宮に向かおうとしたら、走れなかった。正確には走ろうとしたら痛みで物理的に走れなかったという方が正しい。さすがに痛みで顔をしかめたのを見逃してもらえなかった。
「あれは……吸血鬼?」
「しかもあいつは俺たちを見殺しにしたやつじゃないか?」
「……」
宿を出てからしばらくはなかったけれど、王宮に近づいていくにつれて僕たちのことを知っている人が増えてきたのか道行く人からの視線が刺さってきている。なかには直接僕に向けて暴言を言ってくる人もいたけどそれはルナがさりげなく風を操って衣服を切っていた。
「お兄ちゃんがいなかったら王都はもっと荒れてたのにねー」
「ご主人様に責任を押し付けた方が楽ですからね」
「二人ともありがとう……でも、目的を見失わないでね」
この人たちの気持ちもわからなくもないからね。嫌なことがあった時にそれを誰かに押し付けることができたら相当楽だもんね。でも、正直あんまり絡んできてほしくないな。早く王宮に行きたいのだけどね。
「また誰かを見殺しにするのか?」
「全部無視するよ」
二人にそう言って全部無視しながら進んで行く。そして、そんな風に周りの人からの暴言に耐えながら、王宮に着いた。近くに行くにつれて、僕の耳にでも騒ぎが聞こえてきた。そして、王宮から煙が発生している。これは、早く行った方がいいだろうな。
「門番がいない……」
門のところに来ても、いつもいる門番の姿が見当たらない。まあ、お陰様で誰にも咎められることなく入ることができるからこれでいいのだけどね。それにしても、ここに来るのってなんだか不思議な気分だな。ここに召喚されて、自分の弱さを自覚して逃げて、そして今、自分のやりたいことをするためにここに戻ってきた。
「いこう」
そして玄関のなかに入る。入ったら、倒れている騎士団の姿が見える。ここで戦闘があったのかかなりの血の跡が見える。もう……死んでしまったのかな?
「どうですかね……いえ、まだ辛うじて息があります。今なら助けることができますが、どうしますか?」
「この人たちは悪いけど、先を急ごう」
「……ごめんね」
見ないふりをして、僕は進んで行く。この惨状を見る限り、神崎たちが心配だ。もしかしたら……いや、嫌な想像を振り切るように僕は進んで行く。
「みんな……」
そして進んで行った先、僕が召喚された大広間にたどり着いた。そこには、橘が王座に座っていて、七草と神崎が戦いをしていた。そして、他のクラスメートたちが、遠巻きに見物していた。
「む? 生きていたのか」
「アルム……橘を返せ」
到着早々、すぐに邪神に気付かれた。まあ、そりゃあ堂々とここに乗り込んだわけだからバレるのは仕方がないよね。
「み、湊?」
「湊くん!?」
「サラちゃん、怪我人の手当てをお願い」
「わかったー」
何人かが怪我をしているのが見えた。栞が治療して回っているようだけどそれでも間に合っていないみたいだ。サラちゃんもそっちに回したからこれでなんとかなるはずだ。
「アカリ!」
「ユキ、これは、どうなっているんだ?」
「私たちがここに警告にきた直後にあいつが来たのよ」
そして瞬く間に王宮の騎士団とそれから王様を殺してしまったとか。もう少し頑張って欲しいと思うけど、相手が神様だから仕方がないのかな。先日の王都襲撃の件であちこちに兵士を派遣していたので人数が足りていないみたいだ。邪神の魔の手はクラスメートたちに向かったが、神崎が1対1の戦いを申し出て今に至る、らしい。ちなみに七草が戦っているのは邪神のきまぐれだそうだ。まあ、邪神が戦っていたら間違いなく神崎たちも死んでいただろうな。
「クラスメートの数が少ないみたいなんだけど」
「地下遺跡にいる人もいれば、すでに避難した人もいるわ……神崎が引き受けているおかげね」
「神崎……てか、七草杖返せ」
神崎は剣で戦っていて、そして一方の七草はあの神杖を持って戦っている。あの野郎、あの武器は僕が必死に集めた武器なんだから返して欲しいのだけどね!
「杖を返せというが、貴様こそ宝玉を返してもらおうか。貴様が持っているのだろう?」
「ああ、そうだよ」
「まあ、それは七草に任せるとしよう……ちょうど勝負がついたみたいだしな」
「神崎!」
七草が杖を振り回し、神崎が持っていた剣を弾き飛ばす。まあ、さっきから見ていて神崎が勝つ可能性は限りなく低かったもんな。やっぱりだけど殺す気で戦っていた七草と殺す気のなかった神崎では勝負にならない。そして、決着がついたとして、七草は神杖を振り上げた。
「ルナ!」
「心得ております」
「うわっ」
神崎が吹き飛ばされる。いきなりのことで受け身が取れずに壁とかに激突したけれど、まあこれくらいで済んで良かったというべきだろうな。
「邪魔しないでくれよ、湊」
「クラスメートが殺されそうになっているのを止めようとしただけだろう」
「自分も同じことをしてるくせにそういうことをいうのか?」
「まあ……な」
杖を振り下ろした状態で七草は僕の方を見ながら、言ってくる。でも、悪いけどこれが本音だからね。どうしようもないよね。そんな七草に対して、邪神が言葉を放つ。
「おい、七草、そこの神の使いと戦え」
「神の使いって湊のこと? ああ、そういえばこの宝玉の力を自由に使えるんだっけ」
「ま、今はもう使えないだろうがな」
「それでも、関係ないけどね」
邪神に言われるまでもない。僕は七草の前に立つ。
「七草、あいつから残りの宝玉を奪い取れ、そうすれば貴様の願いを叶えてやる」
「ああ、わかってる」
「おい、こいつも日暮さんと同じようにするつもりか?」
「いや、こいつは帰還を望んでおらぬからな。あんなことはせぬ」
「そうかよ」
「湊、さっさとやろう? 今度はもう、負けない」
邪神と会話をしようとしたかれど、すぐに打ち切られる。七草の望みってなんだ? いや、どんなものにせよ、負けるわけにはいかない。
「ルナ、みんなを護衛しながら逃がしてくれ」
「嫌です……ヒヨリ様、お願いします」
「え? 私? いやよ……私も残る」
「市ヶ谷さん、神崎さん、お願い」
「え?」
「お、おい」
もはや押し出すようにユキたちが栞たちを押す。そして、市ヶ谷さんを先頭にして、みんながここから逃げていく。残ったのは、カナデたち僕の仲間だけ。邪神があいつらに興味を示してしまったらどうしようもないけど、どうやらそこまで興味がないみたいだった。
「あいつらに執着しないのか?」
「誰も殺せぬやつなど恐るるに足らず。それに、今は貴様の持っている宝玉が優先だ」
「そうかよ」
「七草、神の使いを殺せ」
「ああ、わかってるよ『雷』」
「ちっ」
七草が杖を振り上げたのみて、身構えたら雷が降ってきた。でも、それは僕の後ろから現れた電撃によって相殺される。
「ルナ!」
「邪魔をするな、吸血鬼」
「私はアカリ様を死なせないために、ここにいる」
「ちっ」
「ルナ、大丈夫……七草、僕にそれで戦うなんていい度胸しているな」
「は?」
七草の本来の能力では、血を渡さない限り発動されることはない。そして、今、七草が使った能力は『分別』……まあ、それはともかく、あの宝玉の能力を一番理解しているのは僕だ。だから、
「僕が圧倒的に有利なんだよ」
たとえ無力だろうとも、今までの経験、知識は失われることはない。




