突きつけられた現実を超えて
「それにしても遅いね」
「そうですね。ヒヨリ様が久しぶりに戻られてご主人様が目を覚まされたので王都を散策しているのではないでしょうか」
「その可能性はありそうだね」
そっか、ユキとヒヨリは久しぶりの再会になるわけか。それならカナデも含めてガールズトーク的なのをしていたとしてもおかしくはない。ただ、護衛が必要かと思うけど……ヒヨリがいるから平気だろうな。僕と同じで能力を失ってしまったけど僕よりも強いのは間違いないだろうし。
「ルナは外に出なくても大丈夫なの?」
「私はご主人様の護衛です」
「私もルナお姉ちゃんと一緒!」
「あ、ありがとう」
サラちゃんのおかげで回復も大分早まっているからね。それに、あえて言わないようにしているのだろうけど、サラちゃんもルナもあんまり外に出たくないんだろうな。……さっき外に出かけることを勧めたのは良くなかったのかもしれない。ちょっと考えが足らなかったな。
「落ち着ける時はなかなかありませんし、今のうちにしっかりと休んでおいてください」
「そうだね……二人もしっかりと休んでて」
そんな風に互いに体を気遣っていた時だった。部屋の中にいても響くぐらい大きな音が外から聞こえてきた。
「え?」
「これは……」
「少しお待ちください」
ルナが素早く外に出て行く。まあ、このタイミングからして間違いなく邪神が攻めてきたところなんだろうけど……万が一ってこともあるからね。とりあえずルナからの報告を待つことにしよう。
「大丈夫だよ」
「そうかな……」
サラちゃんがかなり心配そうにしていたので頭を撫でながら心配ないようにと告げる。それでもサラちゃんの顔から心配の色は一切消えなかった。
「何が心配なの?」
「お兄ちゃんが今度は死ぬかもしれないから」
「……」
そっか。そうだよね。サラちゃんの立場からしたら僕が無茶をして、死んでしまうとつらいもんね。この子の祖父が死んでしまってからまだそこまで時間が経っていないんだよね。そして今自惚れ抜きに言えば僕はこの子の親代わりになっている。心配ないよ、僕は死なないよって言いたいけれど今の僕の現状を見たらそんなことは冗談でも言えないよね……。
「戻りました。音の元は王宮で間違いないです……しかし、何が起きているかはわかりません」
「そっか……でも、これって」
「はい、だからこそ、ご主人様がおっしゃった邪神が来たと思われます」
微妙な気持ちになっていたらルナが帰ってきて外の様子を教えてくれる。そしてルナの報告を聞いて僕の考えが間違っていなかったことを知る。そして僕の様子を見てルナも心配した顔をしてくる。
「ご主人様、まさかとは思いますが、王宮へと向かうつもりですか」
「あそこには、ユキたちがいる……放っておけない」
「でしたら、私だけが向かいます。ご主人様が向かっても意味がありません」
「そうだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが行ったら今度こそ死んじゃうよ」
僕の考えを読んだのかルナと、それからサラちゃんが釘を刺してくる。まあ、これまでの僕の行動を考えたらその考えが読めるよね。でも、止まるわけにはいかない。
「ユキたちを助けないと」
「お言葉ですが、宝玉の力を思うように使えない、何の力のないご主人様が向かったとしても意味がありません」
譲らない僕に対して業をにやしたのかあえて強めの口調で僕を止める。その言葉を受けて、僕はどこかで聞いたことを思い出した。
「助けたいからという理由だけで、動いたらいけないのかな」
「それは……」
『へえ、じゃあ……あなた力があったら助けに行っていたの?』
そうだね。かつて、僕はその答えに対して即答した。助けに行くと。でも、今なら違った答えを出すことができる。力があるから助けに行くんじゃない。助けたいと思うから、自分がそうしたいから、自分がやりたいことが助けたいということだから、僕は、助けに行くんだ。
「助けたいから、助ける。それに、僕は決めたんだ。何もしないで後悔するのは嫌だと」
『いいえ、違うわ……あなたが苦しいのは何もしていない自分自身についてよ』
ユラム、お前の言う通りだったよ。あの日、ものすごく後悔してから、僕はずっと、何かし続けた。動き続けた。それからというもの、後悔することが一切なかったと思う。一番心揺らいだ、橘を殺したことでさえ、僕は一切の後悔をしていない。結局、何もしていない自分が一番苦しかったんだな。
「だから、僕は行くよ。ユキたちを助けに、邪神を止めるために。そして……」
そして、ああ、そうだ。僕が何をしたいのかわかった。ユキたちを助けたい。それも紛れもない事実だけど、あそこに邪神がいるとわかったらじっとしていられない。だって、
「ユラムを、取り戻したい」
この世界にきて、一番最初に出会って、一番一緒にいた存在。なんだかんだで辛辣なことを言いながらもずっと見守ってくれた存在。一緒にいることが当たり前すぎて、心の中で呟いた時に何か反応が来ることを期待している自分がいる。
「あいつって?」
「もしかして、創造神様のことでしょうか」
「そう」
ルナの言葉に僕はうなづく。ユラムと入れ替わるように邪神がこの世界に現界した。だから、それを取り戻したいと思うのが自然なことだろう。
「僕が助けたいから助ける……だから、ルナたちも無理してこなくていいよ」
僕は僕の命に責任は持てる。でも、ルナやサラちゃんの命の責任まで持てるのかといえば、それは無理だ。だから、もし死にたくないというのなら、無理してくる必要なんてない。サラちゃんは来る義理なんてないし、ルナだって、望むのなら、奴隷という立場を完全になくしてもいい。今までも実質奴隷としては扱っていないけどさ。でも、彼女たちの答えはそうではなかった。
「では、私がご主人様を助けたいから一緒に行くとしても止めることはしませんよね?」
「え?」
「私も! お兄ちゃんやお姉ちゃんを守る!」
「サラちゃんまで」
そんなことを言われても……。二人の言葉に固まってしまう。そんな僕にルナは呆れながらも、
「私は奴隷という立場は置いておいて、あなたに敬意を持っています。以前お伝えしましたよね? そして、だからこそ、助けたいと思うのです」
「もう、誰かが死ぬのは嫌。だからお兄ちゃんが死にに行くのなら止める」
それは、二人の揺るぎない決意の表れだろう。彼女たちの目は本気で、僕を止めるために言っている訳では決してない。
「そうだね。僕は僕のために向かう。そしてルナもサラちゃんも自分のために、一緒に行こう」
『異性からモテたい、みんなの人気者になりたい、心の底ではそう願っていたでしょ。別に構わないわ……ただ、そんな心構えでついてくる人はいるのかしら』
確かに、そんな心構えでは、ついてこなかっただろうな。でも、そんなことはどうでもいい。大切なのは、僕に、ルナもサラちゃんも付いてきてくれるという事実だけ。ねえ、ユラム。彼女たちがついてくる僕の心構えってどんなのだろうな。自分でもよくわからないけど、ユラムなら答えてくれるのかな。
「必ずやり遂げる。だから、僕に協力してほしい」
僕は立ち上がると、二人に向かって頭を下げた。どうすればいいのかわからないけど、それでもきちんと伝えておきたいことだから。そして、二人は……。
「もちろんです」
「うん、頑張るよ!」
僕の差し出した手をしっかりと握り締めて、強く肯定してくれた。




