転機2
本日2話目の更新です
「邪神……アルム。じゃあ橘くんは」
「あやつは死んだ。それは紛れもない事実よ」
「そう、あなたが邪神なのね……でも、どうして湊くんが必要だったの?」
ユラム! おい、ユラム! 返事をしてくれよ。僕は必死に自分の胸のうちに語りかける。ものすごい悲鳴を聞いて以降、ユラムの声が一切聞こえてこない。どうしたんだよ! ユラム。そして橘の方はといえば、日暮さんと話し合いをしている。
「なに、こいつを創造神を呼び出す触媒にしたまでよ。いわゆるこの世界と神の世界をつなぐ扉、そしてこの杖が鍵、と言えばわかるかな?」
「そう」
「おおお、我らが神よ」
「ああ、ご苦労。よく我をこの世界に蘇らせてくれた。創造神の中は窮屈でな、せいぜい簡単な指示をだすことぐらいしかできなかった」
「いえ、滅相もございません。これも長年の研究の成果故」
「ああ、だろうな。この魔法陣、古のものを用いておるな。だから創造神を引き寄せ、我と入れ替えることができたのだろう」
入れ替える。つまり、今、ユラムはあいつの中に入っているということだよな。じゃあ……今、僕の中に、ユラムはいないということなのか? それじゃあ……僕は、僕は本当に無能力者になってしまったのか。
「さて、と。我はこの世界すべてを手中に収める存在であるが、その第一歩としてこの国の王都を落とすとしよう」
「まっ……て……」
「む? まだ生きておったか」
王都を落とす。それはつまり神崎たちが狙われるということだよな。そんなことはさせない。これ以上、クラスメートを死なせてたまるものか。
「あ、忘れておった」
「うぐっ」
僕の体に突き刺さっていたものを抜かれた。おかげで動くことができるようになったので、ふらふらになりながらも立ち上がる。そこで目にしたのは血に濡れた神杖を持っている橘の姿。
「神杖を突き刺していたのか」
「鍵と扉は近い方がよいからな」
「はいはい……」
橘……いや、邪神か? と話をしながら、僕の口からは血が流れる。下を向いてみれば胸に穴が空いている。確かにこうなってしまえば血が流れ出るよね。そんな僕を邪神は面白そうに見つめている。
「まだ生きているのか。予想以上にしぶといな」
「うるせぇよ」
「そうか。だが、悪いが貴様に構っている時間はない。殺せ」
「はっ」
「くそっ」
この状態では戦うこともましてや日暮から神杖を取り返すこともできそうにない。逃げる一択だ。でも、逃げようにも体が思うように動かせない。そうこうしているうちに、邪神教の人間たちが僕に近づいてきて……
「ご主人様には手を触れさせません」
風が吹いたと思ったら僕の周りにいた男たちが吹き飛ばされた。ついでに身体中のあちこちを切り刻まれている。
「ルナ! それに、ヒヨリ……ぐふっ」
「ちょっ、重症じゃない」
胸に穴が空いている状態の僕を見て、ヒヨリがそばに駆け寄って支えてくれる。ギリギリだったようで、あと少しでも遅かったら僕は横に倒れていただろう。この状態でもう一度倒れたらやばい。
「あら、麻木くんと坂上くんはどうしたの?」
「ご主人様……申し訳ありません」
「……」
二人がここに来たということは麻木と坂上の二人をどうにかしなければいけない。そして、ここでルナが謝罪するということは、
「ごめん、二人とも、殺しちゃった」
「そっか……」
まあ、この件で二人を責めるのは筋違いだろう。彼女たちがそんなことをしたのは僕が日暮を追いかけて二人のところから離れてしまったからだ。しかも僕は杖を奪われてしまっていたので実質丸腰だ。その状態で僕が一人だったらどうなるかなんてわかりきっている。しかも、僕はルナに殺すなって命令を今回は出していなかったからね。僕のところに早く来るためにしたことは間違っていない。それに彼女たちが来てくれなかったら、死んでしまっただろう。
「仕方がない。というかむしろよく助けに来てくれたね」
「ご主人様のためですから」
「それで? 今どんな状況になってるのよ」
現れたルナやヒヨリを見て橘は何かに気がついたかのように笑っている。くそっ、気持ち悪い笑を顔に貼り付けやがって。橘だったらあんな顔絶対にしないぞ。
「邪神が復活した」
「ほお、吸血鬼か。それから……ああ、今度は冥界の使いか。能力をほぼ失っているとはいえ、よくもまあこんなに珍しい者共を集めたものだ」
「あいつを倒せばいいですか?」
「うん、橘はもう死んでる……だから遠慮しなくていいよ」
「かしこまりました。ヒヨリ様、ご主人様をお願いします」
「ええ、わかってるわ」
僕と橘の間に入るようにルナがたった。そしてヒヨリに守るようにとお願いした。まあ、今の僕って何もできないからね。ユラムがいなくなって……本当に無力になってしまったよ。
「我と戦うか。だが、悪いが我にも用事があるのでな」
「ご主人様の仇、とらさせていただきます」
「待って僕死んでない」
定番のツッコミをしたところで、ルナが動いた。風が吹いて刃となり、橘に向かっていく。でも、それは新しく出現した結界によって阻まれてしまう。
「宝玉の力をすべて使えるのか」
「左様、これが神の力だ……それにしても吸血鬼よ。貴様の存在は本当にありがたかったぞ」
「どういう意味ですか」
「貴様のおかげで橘に嫉妬心が芽生えた。だから強くなるために宝玉の力を躊躇うことなく使い続けてくれた」
「ちょっと待て」
邪神の言い方に少しだけ違和感を覚える。宝玉の力を躊躇いなく使えるって、あいつは本来の力を使えていた。その状態で数回使用したら体がボロボロになってそれ以上の使用ができなくなるはずだ。僕の場合はユラムがある程度抑えてくれていたからなんとなかってる場面も多いのに。
「ああ、気がついたのだな。そうだ。貴様と同じように我がいたから橘は本来の力を使うことができた。そしてその結果どうなるかなんてわかりきっていたはずだ」
「まさ……か」
「聞いていないぞ」
あの時、橘が直前に言った言葉。あれは僕にではなく、語りかけてきたこいつに対しての発言だったのか。そして、もし……もし、こいつが宝玉の使用のデメリットを教えていなかったとしたら。いや、最初はデメリットを抑えていながらも、突然それを解除したのだとしたら。おそらく僕の顔は相当青ざめていたのだろう。その表情に気がついた邪神はきもち悪い笑いをさらに酷くして、
「そうだ。あやつに使うだけ使わして、体がボロボロになった瞬間に解除した。感謝するがいい。我のおかげで貴様は勝利することができたのだ」
「きさまああああああ……ごふっ」
このやろう。こいつは……いや、こいつのせいで、橘はあんなに苦しむことになったのか。そもそも、あの時の戦いは仕組まれていたというのかよ。そしてあまり怒りに叫んでしまったけど、興奮してしまったのか血を吐き出してしまった。さすがにまずい。
「ねえ、どういうことなの? 湊くんが橘くんに勝ったのはあなたのおかげってやつ」
「ああ、そうか。知らなかったのだな。宝玉の本来の力を使えばすぐに反動で死んでしまう。まあ、神の力を使うわけだからな」
「じゃ、じゃあ……」
「ま、我が復活するためにこのものの死体が必要だったのだ。光栄なことだろうよ」
「うそ……」
そして詳しい話が邪神の口から語られる。本当に知らなかったのだろう。日暮さんは僕と同じように顔を青ざめさせている。
「そんな……じゃあ、橘くんをわざと殺したっていうの? 自分が蘇るために」




