転機
「ユキ! どうしてここに? サラちゃんやカナデは?」
「向こうにいるわ。空間の揺らぎが見えたからこっちにきたの」
「そ、そっか」
さすがは未来を見ることができる能力だ。ここを見つけることができるわけだし。まさか冥界から戻ってきてからすぐにユキと合流することができるなんて思ってもみなかったよ。
「それで、最後の宝玉は手に入ったの?」
「え? うん。ほら」
ユキに杖を見せる、いや、見せようとした時だった。突然、ルナが叫ぶ。
「ご主人様!」
そして同時に木の上から坂上と麻木の二人が降りてきた。そしてヒヨリとルナに向かってつっこんでいく。それにしても、なんで彼らがここに!? もしかして、気づかれていた?
「湊! 久しぶりだな!」
「これで終わらせます」
「させません!」
ルナが坂上にヒヨリが麻木に立ちふさがる。僕も二人の援護をしないと。
「ユキ! ここから離れて……え?」
ユキにここから離れるように言った瞬間だった。急にユキが神杖を掴むとそのまま奪い取った。いきなりのことで強く握ることができず、そのまま奪われてしまう。
「えっと」
「『傲慢』」
「うわっ」
ユキを中心にして結界が発動し、それによって僕はユキから強制的に離されてしまう。何が起きたのかわからないうちに、ユキは僕から離れていく。
「ご主人様」
「ちょっ、待てって」
でも、ずっと惚けてばからいはいられない。ルナからの叱咤を受けて、ユキを追いかけていく。森で足場が悪いおかげなのか、ユキを見失うことなく追いかけることができた。
「ユキ! どうして」
『あの子は……ユキじゃないわ』
「ユキじゃない!?」
えっと、どういうことだ? 突然そんなことを言われてもって……お前、今まで何してたんだよ。冥界にいた時にほとんど話しかけてこなかったくせに。
『しょうがないでしょ。冥界はエリスの世界なんだから』
「それはそうなのだろうけどさ」
そしてこの世界に戻ってきたからまた僕に話しかけるようになったと。でも、あれがユキじゃないってどういうことだ? どっからどう見てもユキだと思うのだけど。
「ユキ!」
「……」
声をかけるも一切を無視されてしまう。そしてしばらく走っていると、森の中に教会が建っているのが見えた。
「ここは……」
『さすがにまずいわね……ルナたちを待った方がいいんじゃないかしら』
ユラム、ここがどこかわかるのか? ここで見失ったから間違いなくここにユキが入って行ったのは間違いないだろう。確かにルナを待つべきか……いや、さすがにユキを放っておくことができない。辺りに注意しながら僕は教会の中に入っていく。
『気をつけなさい……ここは、邪神の祭壇上よ』
「は?」
「ようこそいらっしゃいました。創造神の御遣いよ」
「!」
中に入ったらそこは僕がイメージする通りの教会だった。来た人が座るための椅子や神父? が聖書? を読むための台的なのもある。でも、それよりも気になったのは真ん中に描かれている巨大な魔法陣だ。ん? あれって魔法陣であってるよな? そして、その奥にユキと黒い服をきた人物がいた。
「誰だ」
「邪神教の人間、それで十分だと思うが」
「ユキ……じゃないよな?」
「ええ、そうよ。久しぶりね。湊くん」
「!」
その言葉とともに、ユキの姿が揺らめいて、その揺らぎが収まった時には、
「日暮さん?」
僕のクラスメートの一人、日暮絢香の姿があった。でも、すぐにまた空気が揺らめいて、かつて、昌栄の街で出会ったツクヨミの姿をした。
「お前は……」
「ふふっ、この姿で一度会ってるわよね。私の能力は変装。橘くんを見たでしょう? 彼を変身させていたのも私」
「お前だったのか」
そして、今ユキに変装して僕から杖を奪ったということか。一度しか使えないけれど、その代わりに効果はかなり絶大だ。くそっ、エルフの里で変装している状態の橘を見かけているのに、それについて意識が回っていなかった。いや、忘れていたという方が正しいかもしれない。
「とりあえず言っておくわ。宝玉集め、ご苦労様」
「ちっ」
「さて、君を拘束させてもらおうか」
「は?」
日暮さんの隣にいた男がそんなことを言った瞬間、後ろから同じように黒い服を着た集団が襲いかかってきた。
「調べはついている。あの少年は能力がこの杖に依存している。つまり無能力者だ」
「くそっ」
確かに僕の能力はそういう感じだけどさ。でも、本質はわかっていないみたいだな。ユラムと会話することができるだなんて思ってもいないみたいだ。それはいいとして、向かって来る奴らをなんとかしないとね。近づいて来る相手に対して懐からナイフを取り出して、それを腕に突き刺す。
「!!!」
「武器を何も持っていないと思っていたのか?」
そしてすぐに抜いて胸の前に構えながら集団から距離を取る。さりげなく日暮さんの方を見るが、少し距離が開いているので強行突破は難しいだろうな。ナイフを持って戦っている僕を見て、男は日暮さんに対して命令する。
「日暮、あいつに幻術を」
「桜花くんが言っていたけど湊くんに効かないわよ? 力づくで捉えた方が手っ取り早いわ」
「なるほど……なら、これでいいか」
「!」
急に後ろ頭に強い衝撃を受ける。そのせいでクラクラする。それと同時に集団の男たちが襲ってきて、それを迎え撃つためにナイフを振り抜こうとしたが、頭を強く打ったために思うように体を動かすことができない。そのままなすすべなく、地面に組み伏せられてしまった。
「なにをする……」
「これからの儀式に君が必要なのだよ……正確には君とつながっている創造神が、だがな」
「どういう意味だ?」
「おい、あれを運んでこい」
地面に組み伏せられているせいか、よく見えない。それでも、何かが運ばれてくるのが音でわかった。そしてその何かが魔法陣の上に置かれる。
「橘……?」
それは、橘の死体だった。こいつらが、晒されていた橘の死体を盗んだのか。でも、一体何のために?
「そうだ。我らが神の恩寵を受けしもの橘隼人。首を刎ねられているとはいえ、この死体が必要なのだ」
「何のために……神の恩寵?」
『彼が、そうなのね』
神の恩寵……恩寵ってまさか。僕の頭に時計塔での彼の様子が思い浮かぶ。そうか、だからあいつは宝玉の本来の能力を使用することができたのか。そして、男の人はそんな僕に気にすることなく話を続ける。
「そしてさらに完成された神の杖と、最後に創造神の使いがいる。これでついに我らの悲願が叶う」
「どういうことだよ」
「教えてやろう、少年よ。我らが神は創造神によって封じ込められた。それがどこに封じ込めたのかわかるか?」
「? もしかして、この魔法陣か?」
「いや、違う、創造神自身だ」
「ん?」
『ええ、つまり私がいるということは同時に邪神もいるということになるのよ』
ちょっと待って。それって不味くない? あ、いや、でもだから僕をこうして捕らえたのか? 僕にくっついているユラムからその邪神を引きずり出すために。そんなことを思っていたら、突然背中をなにかで刺された。胸まで貫かれたのか、血がかなり出てしまっている。
「うぐっ」
「これで準備が整った。神の器、神の武器、そして我らが神そのもの。それらが集った。これで、我らが神が蘇る」
『きゃああああああああああああ』
その言葉と共に、僕の血で魔法陣が赤く輝いて、そして同時に僕の体も輝いた。僕の体から何か光るものが飛び出して、それが橘の体の中に吸い込まれていく。ユラムがものすごい悲鳴を上げているが僕にはどうしようもできない。そして、その悲鳴が収まると……、
「ふむ、これはなかなか良き器だな」
「嘘……橘、くん?」
「違うぞ、我の名は、邪神アルム。この世界の……神だ」
首と胴体がつながった状態の橘が立ち上がっていた。




