最後の宝玉3
昨日10時に更新できなくてすみません。
今日はその分三回投稿しようと思います。
「着いたわ……ここよ」
「天の岩戸みたいだ」
「何それ?」
「こっちの話」
ヒヨリに案内されてやってきたのは三方を岩で囲まれた場所だった。そしてその中にはポツンと、井戸が置かれてある。
「この中に入ったらいいのか?」
「ええ、そうなるわね」
そして中で行われる試練をクリアすればいいと。てか、試練って何をすればいいんだ? ユラムわかる?
「あれ?」
「アカリ?」
「いや、なんでもない」
ユラムの声が聞こえない? そういえば冥界に来てから最初の時以外から声を聞いていない。もしかして冥界では声が聞こえなくなるとかそういう感じなのか?
「じゃあ、行ってくる」
「悪いけど私は戻って主人様から次の指示を仰ぐわ」
「わかった」
僕はヒヨリに背を向けて井戸の中を覗き見る。そうとう深いのか底を見ることができなかった。
「深すぎて底に激突することだけ気をつけよう」
竜巻を起こして落下する速度を減らしてなんとか耐えるようにするか。そういう作戦でいこう。僕は意を決して中に飛び込んでいった。
「寒っ」
中は予想以上に寒かった。井戸だからか少し湿った空気が下から流れ込んでくる。それを受けながら、下に、下に落ちていく。さて、と。どれくらいから能力を使用すればいいだろうか。そんなことを思っている時だった。
「お前のせいで」
「ん?」
声が、聞こえた気がした。それに驚いて一瞬だけ落ちていることを失念してしまった。思い出した瞬間に僕は水の中に突っ込んでしまった。
「痛……みがない?」
水に落ちた衝撃で痛みを覚悟したけれどそんなものが襲ってくることはなく、また、水中に入っていると思うがそれで呼吸ができなくなるとかそういうこともなく、普通に息をすることができた。
「どういうことだ? てか、何も見えない」
岩の中にあったからなのか、光がほとんど届いておらず、周りの様子を確認することができない。
「『発火』……はさすがに無理だし、『蛍の光』みたいなのでできればいいんだけど」
それとも太陽でも引っ張ってきたらいいのだろうか。でも、そんなことをしたら後々大変そうだしやめておこう。それに、しばらくすれば慣れてあたりの様子を見ることができるだろう。
実際に、しばらくしたら、ゆっくりと目が慣れてきて確認することができた。いや、正確に言うならば、向こうから光源がやってきたという方が正しいかもしれない。
「これは人魂?」
下からゆっくりと登ってきたのはそれは人の魂だった。それが一つ二つではなく、何十、何百という数の人魂が登ってきた。
「なにが……うぐっ」
人魂の一つが、僕の体にぶつかってきた。それを皮切りにして大勢の人魂が僕にぶつかってくる。そして、先ほど聞いたような声がまたしても聞こえてきた。
「あの時あいつさえいなければ」
「しねしねしねしねしね」
「殺してやるうううううう」
それは、一言で表すとすれば、それは怨嗟の声だった。特定の人物への恨みつらみ、そして自分の後悔の念。そういったものがあたりに渦巻いている。
「これはっ」
「おいっ生者がいるぞ」
「なぜこんなところに」
さっきまでの攻撃はなんだったんだってところだけど、どうやら見つかってしまったみたいだ。さっきまでの流動的な流れで僕にぶつかっているのとは話が違う。意図的に僕に向かって突っ込んでくる。
「うわあああああ」
魂がぶつかってくるたびに、僕の体に衝撃が走る。
「どうして私はあんなことをしたんだろう」
「できるのなら……戻りたい」
「死者の声なのか?」
死んだ人々の様々な声が聞こえて来る。これを受けて、僕にどうしろって言うんだろうか。とりあえず全部吹き飛ばすか……ん?
「神杖がない!?」
いつの間にか持っていた神杖が手から離れてしまっている。まあ、確かにあんなにぶつかられたらつい手が緩んでしまって離してしまうとかあり得るもんな。って、やばい。これ間違いなくやばくないか。
「どうすればっ」
「どうして私が死ななければいけないかった」
「死にたくなかったよ、お母さん」
「全てを殺したかった」
とめどなく人々の声が流れ込んでくる。そして同時に僕に突き刺さってくる言葉。これが、死んでしまった人たちの声。
「あの時、あの餓鬼が見捨てなければ、俺は、まだ生き残れた……人形に殺されることなんてなかったんだ」
「あっ」
その中で、つい最近の出来事であろうことを言っている魂がいた。あの魂が憎んでいるのは僕だ。あの人たちを見捨てたことに後悔は一切ないけれど、それでも見捨てたことで死んでしまった人たちの声を聞くと少しばかり心にくるな。
「僕は……それでも」
「叶うのならば戻りたい」
「どうして俺じゃなくてあいつなんだ」
声を聞きながら思う。たとえ、全てがわかっていたとしても僕は同じ行動をとるだろう、と。自分が行かなければ橘は死ぬことはなかった……いや、橘はあの時計塔に行った時点でほぼ死ぬことが確定していただろう。能力をあんだけ使い続けていたのだから。むしろ、僕が来たことで生き永らえた可能性すらある。
そして、僕が向かわなければ、王宮がやばかったんだろうな。だから朝日さんたちは死ぬことがなかったんだけど、代わりに別の誰かが死んでしまった可能性があるわけだし。
「うん、変わることはない」
「ふざけるな!」
「人が死んでいるんだぞ」
「知るかよ……僕は僕のするべきことをする」
少しだけ揺らいでしまったけど、すぐに持ち直してしっかりと見据える。そう考えれば、周りの声がそこまで気にならなくなってきた。
「あれ? 待てよ」
僕は周囲に逆に耳を傾けてみる。ここが死んだ者たちがいるということならば、桜花と朝日さんがいる可能性が高い。それを探してみる。
「俺が殺したんだ」
「どうして殺されなければならなかった」
「桜花くんも死んだのですね」
「あっ」
桜花の名前が聞こえた気がした。その方向に進んでみる。水の中だし魂が襲ってくるしで大変だったが、声が聞こえた方向に進んでみる。
「桜花!」
「え? 湊? おまっ、なんで」
「桜花……聞いたよ……死んだんだってね」
「あら、湊くん……てことは橘くんが勝ったのかしら?」
「いや、橘も死んだよ」
やっと見つけた。魂が2つ、固まっている。他の魂と違って僕を襲ってくることがなかった。
「やっぱりあいつも死んだのか」
「湊くんは死んでいないのですか?」
「うん、朝日さんの鏡、それを使ってここにきた」
「あ? なぜって……ああ、最後の宝玉か」
「そうだよ」
二人をみる。他の魂と比べてもそこまで変わっている様子はない。まあ、逆に変わっていたのだとしたらおかしな話でもあるのだけどね。
「行けよ。この先にある」
「親切なんだな」
「死んだ以上、私はあなたに恨みはない……まあ、そもそも元々そこまで気にしてなかったっていうのもありますけど」
「そっか……」
「なあ、こっちに来てるのって俺と朝日、橘、加賀美の4人だけか」
「は?」
ちょっと待て。僕が知らない人の名前が出てきたんだけど。いや、加賀美のことは知っている。あいつも、すでに死んでいるのか? 僕の反応を見て知らないと思ったのだろう。でも、
「ま、それだけ知っときゃいいだろ……じゃあな、湊」
「あの少女によろしく伝えておいてください……あなたのせいではないと」
そして二人の魂が一際強く輝いたかと思うと地の底に眠っていった。




