最後の宝玉
「さて、と大分回復したよ」
「もう動いても平気なの?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
ユキから心配されたが、正直もう体に痛みなんてほとんどない。もう動くことができる。ベッドから降りて、僕は部屋から出る。部屋から出たらルナとサラちゃんがいた。少しだけ疲れているようにも見えるけどどうしたんだろう。
「あ、ご主人様」
「お兄ちゃん、もう体は大丈夫?」
「ああ、二人ともありがとう。少し疲れているみたいだけどどうしたんだ?」
「カナデ様と一緒にいくつか依頼を受けていました」
「私も一緒に行ったんだよ!」
「そっか。ありがとう」
僕が寝ている間、手持ち無沙汰だったのだろうかルナたちは色々と依頼をこなしていたみたいだ。まあルナがいれば大抵の敵はなんとでもなるだろうし平気だろうな。
「ユキ様もいますがある程度のお金は必要ですので」
「……なんかごめん」
「いえ。奴隷とは本来こういうものです」
「う、うん」
ルナがいいのならいい……のかな? 正直釈然としない。てか、僕って側からみたら普通にヒモだよね。ルナに生活費を稼がして自分は何もしないダメ人間な気がする。
「別にそんなことしなくてもルナが好きなことをしてていいんだよ。必要な時はちゃんと呼ぶから」
「わかっています。今回はサラ様の頼みです」
「依頼とか受けてみたかったんだー」
それなら問題ない、のかな? サラちゃんも色々なものを見たいのだろし、それを手助けしていたのなら、問題ないな。ただ、二人ともその格好で普通に外に出歩いていて問題ないのか?
「カナデ様が依頼とかは全部請け負ってくださいました……それよりもご主人様の方がお気をつけください」
「え? どうしたの?」
「お兄ちゃん嫌われていたねー」
「王都の人々を見捨てる発言を聞かれていたみたいで……実際に何名か死者が出ていますし」
「そっか」
死んでしまった人の家族とか知り合いからすれば僕が戦っていればと思わずにはいられなかったんだろうな。あの時、僕は時計塔に向かい、ルナやサラちゃんを王宮へと向かわせた。今にも白い人形が襲いかかってくる時に僕みたいな対応を取られたらさすがに怒りが湧くだろうな。
「あれ? カナデは?」
「カナデお姉ちゃん? すぐ来るよ」
「ただいま戻りました……あ、アカリさんもう起きれたのですね」
「うん、大丈夫。カナデもお疲れ様」
さすがに廊下で長々と話をしているわけにもいかない。また、部屋に戻る。あ、そうだ。みんな揃っていることだし、冥界にいくメンバーについて話をしておこう。
「カナデ、お疲れ」
「はい、ただいま戻りました」
「みんな、聞いてくれ」
「ん?」
「冥界なんだけど……僕とルナだけで行こうと思う」
今まで以上に危険な可能性が高い。それにあの世界ではカナデとユキの能力が全くと言っていいほど意味をなさない。それにユラム曰く冥界つきものの怨念とかが渦巻いている可能性があるみたいだ。サラちゃんを連れて行くことはできない。
「それは、そうですけど」
「うーん、でも確かに私はちょっと嫌かも」
カナデは納得できないみたいだけどサラちゃんは冥界にいくことが嫌そうだ。正直カナデも目的が宝玉だけだったら引いてくれただろう。でも、今、冥界にはヒヨリがいる。何をしているのかはわからないけどあいつも頑張っているんだよな。
「ヒヨリがいるから私も行きたいのだけど」
「ユキの気持ちもわかるんだけど」
『でも、悪いけど危険よ……普通の人間が行けるようなところじゃない。私の加護を得てるアカリと、それから吸血鬼のルナ。アカリが定期的に血を与えていれば大丈夫なはずよ』
「ごめん、さすがに無理だ。普通の人間では耐えることができないみたい……多分僕が結界を貼り続ければいけるだろうけど」
「それこそご主人様の命を削るようなものです」
「わかったわよ」
冥界というものが危険であるということはしっかりと理解しているみたいで、ユキたちも最終的に納得してくれた。
「じゃあ、アカリたちが冥界にいった間私たちはどうしましょうか」
「休み、というか好きに過ごしてたらどうだ? 僕と旅している間ずっと忙しかったし」
「そうねぇ、市ヶ谷さんのところとかに行こうかしら」
三人でこれからのことを話し合っている。さて、僕たちも行く準備を進めないと行けないな。そういえば、ユラム、どうやって冥界に行くことができるんだ? とりあえず鏡はあるけど。
『そうねぇ、時計塔に向かえばいいわ。そこで死者が出たばかりだし、扉は開きやすいはず』
「ま、でも行くのは明日だ。さすがにルナも疲れているし」
しっかりと食事を取って回復しよう。そのために今日の夕飯を準備しないといけないな。
「少し体を動かしたいから外に出るよ。あー、ユキ一緒に夕飯を買いに行こう?」
「わかったわ。カナデたちは休んでて」
「わかりました」
そして、僕とユキは外に出る。さて、王都には色々と店があるけど何がいいだろうか。
「ユキは何がいい?」
「私? 怪我から回復したばっかりのアカリが食べたいものでいいわよ」
「そっか」
それならなにがいいかな。ユキと一緒に店を色々と見て回っていく。なんでもあるから、逆に悩むな。うーん、あれ?
「あれは」
「ああ、カレーよ」
「じゃあ、それにしよう」
カレー。日本では本当におなじみの食事だ。それが食べられるのなら、ありがたく貰おう。そう思って店の方に近づいて行った時、にわかに当たりが騒がしくなった。
「あれって王宮に召喚された……」
「勇者様? どうしてここに」
「ん?」
「あれ、湊?」
ざわめきが大きくなったと思ったら、向こうから神崎たちが走ってきているのが見えた。僕たちの姿を確認したら、止まった。そばに栞、市ヶ谷さん、久留米の姿がある。
「どうしたんだよ」
「ああ、ちょっとこっちへ」
「ん?」
何が何やらわからないうちに、神崎に路地裏まで連れて行かれた。どうやら他の人には聞かれたくない話みたいだ。
「実は」
「ちょっと待って『忠義』……これで音が漏れないはず」
「た、助かる」
『かなり目立っていたもんね』
ルナたちが言っていたみたいに、僕も大分嫌われているみたいだ。そして神崎たちもいるしね。さっき勇者とか言われていたのを見るに、相当人気なのだろう。
「それで、どうしたんだよ」
「実はな、盗まれたんだ」
「え?」
『まさか』
「橘、朝日さん、桜花の三人の死体が何者かに盗まれてしまった」
「嘘だろっ」
死体が盗まれた。でも、誰がどうして? 目的が全くわからない。そんなことをするメリットって何かあるのだろうか。
『……予想はつく。だからアカリ、なんとしても冥界に行きなさい。行って最後の宝玉を、揺るがない力を手に入れなさい』
「あ、うん」
「湊?」
「いや、なんでもない。ユキ。戻ろう……何かわかったら知らせるよ」
「ああ、すまないな……ところで、橘は」
「殺したのは僕だ。それは間違いないよ」
「!!」
多分知りたかったのはそういうことだろう。聞きずらそうに聞いてきたってことはなんとなく予想がついてたんじゃないかな。あそこには死んでいる橘と意識を失っている僕しか、いなかったんだから。
呆然としている神崎たちを尻目に僕とユキは夕飯を買って、そして宿に戻った。さっきのユラムの言葉、これから何か知っているけど言えないって感じなのかな。それでも、意味がよくわからないけど。




