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戦いを終えて


「がはっ」

「橘……」

「うるせえよ……結局、俺が負けた。それだけだ」


 倒れている橘ところに近寄っていく。最後に向かってくる時に放った雷が命中し、当たったところが少しだけ焼け焦げている。間違いなく、致命傷だ。


「ごめん」

「謝んじゃねえ。俺が無様になる……いや、もう充分、惨めだ」

「……」


 自嘲気味に言う橘に対して僕はなんとも言えない。口から血を流しながら、こいつは最後まで戦い抜いた。その姿勢だけは、立派だと思う。


「まあこの世界だと簡単に死ぬことはわかっているんだ。覚悟は決まっている」

「なあ、どうしてそこまでドライな考え方ができるようになったんだ」

「……お前に言う必要はない。ただ、頼みならある」

「なんだ」


 死ぬ間際の頼みならそれを断る義理はない。それに、たとえ敵だとしても断らないというのにそれが知り合い(級友)ならばなおのことだ。どんなことを頼んでくるのかわからないけど、僕は橘の言葉を待つ。


「俺をナイフで殺してくれ……宝玉とかいう力ではなく」

「どうしてだ?」

「強いていうならお前にクラスメートを殺したってことを突きつけようと思ってな。まあ、別に俺が勝手に死んでいくのを待つっていうのでも構わないけど」

「わかったよ」


 僕はポケットからナイフを取り出す。ヒヨリから渡されていたこのナイフがこんな形で使われるようになるなんて思わなかったな。もっとこう、護身用とかに使うものかと思っていたよ。


「これで、いいんだな」

「ああ……にしてもよく殺してくれって言われて躊躇なく殺せるんだな」

「……これでお前が救われるのなら、僕はそうするよ」


 別に人を殺すことはこれが初めてじゃないし。それにここに来るまでにもうたくさんの人を殺している。今更人の生き死ににどうこう思うことはない。


「結局はエゴの塊かよ……最後に苦しめようと思った俺が馬鹿みたいじゃねえか」

「これが、僕だからね」

「はっ、そうかよ。なら桜花たちもそれなりに救ってくれよ。みんな戻れない(・・・・)からよ」

「……」


 その言葉には、答えることができなかった。橘たちがみんな、人を殺すことに慣れてしまっていて、躊躇いを覚えないということはわかっている。でも、まさか、もう自分から戻ることができないところにまで来ているだなんて思ってもみなかった。なら、これもまた、一種の救いなのかもしれない。考えたくないけど、そう思うしか、僕は動く事ができない。


「さよなら、橘」


 そして僕は、黙って橘心臓めがけてナイフを振り下ろした。皮膚を貫き、その奥にある心臓を貫く。気持ち悪い感触が僕の手に伝わって来る。そして振り下ろしたらもう、橘は一切動くことがなかった。ただただ、満足そうな顔を浮かべているだけだった。


「なんで、そんなに満足そうなんだよ」

『おそらくだけど、止まることができなかったけど、誰かに止めて欲しかったのかもね』


 日本人としての、最後の理性ってやつか。こいつがこの世界にとって悪者であることは間違いない。間違いないけど、こいつなりに戦っていたんだな。


『そうね……最後に殺してくれっていうのも、「悪人として」殺してくれって意味なのでしょうね。下手に同情なんてされたくなかっただろうし』

「そっか」

『さて、感傷に浸りたい気持ちはわかるけど、宝玉を』

「ああ」


 橘のポケットに手を突っ込む。そして二つの宝玉を取り出して、神杖にセットする。これで僕が持っている宝玉は全部で6つ。残すところはあと一つだ。


『さて、と。お疲れ様。ゆっくり眠りなさい……王宮の方も終わったわ』

「え?……あっ」


 ユラムの優しい声が響いてきたと同時に僕はその場に倒れこんだ。今までユラムのおかげでなんとか耐えていたけど、それも限界になってしまったみたいだ。


『それにしても……気になるわね』


 思わず呟いたようなユラムの言葉は、残念ながら、僕に届くことはなかった。








「ご主人様、大丈夫ですか?」

「え?」

「アカリ! 目を覚ましたのね」


 そして次に目を覚ました時に、見えたのはユキとルナの姿。彼女たちがここにいるということは……全部終わったのかな?


「ここは」

「王都にある宿屋よ……正直王宮にはいたくないから連れてきちゃった」

「何があったんだ?」


 起きたのはいいけど、ユキの顔がかなり悪い。それになんか不穏な言葉が聞こえてきた。


「カナデが聞いた話だからまだ確定じゃないのだけど」

「ユキさん、ルナさん……ってアカリさん!」

「お兄ちゃん、目が覚めたの!」


 ユキが何か言いかけた時に、部屋の扉が開いて、カナデとサラちゃんが入ってきた。かなり焦っている様子が感じられる。


「カナデ……その様子だと」

「はい、確定です」

「何の話だ?」


 僕が目を覚ましたことをよろこぶよりも先に、気になることってどんな内容なのかかなり気になるんだけど。その焦っている内容で間違いないよね。


『……』

「その、非常に言いづらいのですが」

「王宮に晒し首があるみたいなの」

「晒し首……まさか」


 この時期に晒されるような事件といえば、橘たちがしようとしていた、王様暗殺のことで間違いない。つまり、僕が殺した橘の死体から首を切断してそれを人々に晒したということなのだろう。でも、自体はそれよりもさらに深刻だった。


「ええ、今回王宮を襲った犯罪者、邪神教の人間である、橘、桜花、朝日の三名の首を晒しているわ」

「……え?」


 ユキの話によれば、王宮の方では朝日とそれから桜花の二人が向かっていたみたいだ。桜花はおそらく『純潔』での通信のためにいて、朝日はまあ、今回の主力なんだろうな。そして神崎たちは一応戦ってはいたみたいだが、あいつらは戦う覚悟が一切出来ていなかったらしく、途中までは桜花たちの圧勝だったらしい。ルナとサラちゃんがきてから……というか結局ルナが一人で全部終わらせたらしい。二人を無力化して押さえ込んだ。


「そこまでは良かったんだけど、ルナが二人を抑えた瞬間に」

「横から現れた兵士に、二人は討ち取られました……ずっと狙っていたんでしょう」

「ごめんなさい、アカリさん。私たち、その場にいたのに、なにもできなかった」

「いいよ……お前らが無事で良かった」


 でも、少しだけ一人にしてほしい。そう言ったらみんな不安そうな顔をしながらも、部屋から出て行ってくれた。


「……うう」


 そして、一人になってから目から涙が流れ始める。これは、いろいろなものが混ざった涙だ。クラスメートが死んでしまったことの悲しみ、救うことができなかった自分自身への怒り、そして、橘との約束でさえ守ることができなかった自分の未熟さ、それらの感情が入り混じって僕は、涙を流した。


「ううっ……うっ……うぐっ」

『今回結果として、あなたは自分のやりたい事をやりきる事ができなかった、そういう意味では初めて負けたのよね。でも、いいわ。今はしっかり泣きなさい』

「僕は……僕はっ」


 これでは、何も変わっていない。守りたいものを守るために、力を求めたのに。そして、力を手に入れたのに。これでいいと思っていたのに、ダメだった。


「……」


 もしかしたら、他のクラスメートたちも守りきる事ができないのでは? ただただ僕は、自分の胸のうちから広がってくるその絶望的な思いを考えないようにするだけで精一杯だった。

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