時計塔での戦い3
ブクマありがとうございます。
「先に行っておく」
「なんだ?」
にらみ合った状態でいたら、突然、橘が言い出した。なんで改まって言う必要があるんだと思ったが、黙って次の言葉を待つ。
「今回、俺は絶対に引かない……だから、どちらかが死ぬまで戦いは終わらないからな」
「……嘘だろ」
「もしかして今までみたいに適当に戦えば俺が引くとでも思っていたのか? だからお前は甘いんだよ」
『一応言ってあげるけど、気絶して縄でがんじがらめにすれば止めることができるわよ』
正直、甘く見ていたとしか言えない。殺したくない。でも、さっきの橘の言葉に怯んでしまった隙に接近してこられて、そのまま顔を殴られた。さらに、首をつかまれてしまう。
「う……うぐっ」
「さっさと死ねよ」
「『忠義』」
「ちっ」
自分を中心にして結界を貼る。そうすることで無理やり橘を弾き飛ばす。首を絞められていて呼吸がままならなかったが、意識を失う前になんとか能力を使って橘の手から逃げることができた。
「お前、今さっきみたいな電撃を打てば、俺は死んでたぞ?」
「ふざけんな……僕はお前らを止めるために来たんだ」
「仲間も連れずにか?」
「王宮にもいるんだろ? 僕以外の人間に捕まったら確実に殺されるぞ」
「それがどうした。覚悟の上だ」
「なんでそんな風に考えるんだよ」
橘と言い合いながら、僕は細々とした雷を打っていく。近寄られてまた絞められてしまったら今度こそやばい。でも、言い合いながらふと思う。こんなにも話したのは、何気に初めてだよな。
「この世界は殺し合いだ。それもわからねえのかよ」
「そんなことぐらい、わかってるよ『忠義』」
「!、俺の足を」
橘の足に向けて結界を貼る。急に足を止められたので引っかかってその場に倒れる。だが、すぐに立て直してくるけど……、
「わかった上でお前らを止めると決意したんだよ」
「がはっ」
起き上がった瞬間にさっきのお返しとばかりに橘の顔面を殴りつける。よく言われる目には目を歯には歯をってやつだ。あれ? 違ったっけ?
「な、めんな」
橘は足に思いっきり力を込めたのか、僕が貼った結界もろとも壊して蹴ってきた。ふとももあたりに直撃してしまうが、痛みをこらえる。『節制』って自分で自分を回復させることはできないの?
『普通に無理』
そもそもが自分の生命力を他人に与える、だからどうしようもないよね。またしても開いた距離。でも、橘能力のおかげで体がかなり軽くて動きやすい。おかげで距離もすぐに開けることができる。
「俺はお前を殺す。それだけの話だ」
「それ以外に、話し合うことはできないの?」
「それが、甘えだって言うんだよ。そんなことを言うのなら、おとなしく死ね」
「くっ『竜巻』」
話し合おうにも向こうは話し合う意志がほとんどないみたいだ。展望台に風を発生させて視界を奪う。それに風で動きを制限するのも狙いだ。
「死ぬのも嫌か」
「殺されるのが嫌なんだよ」
「なら、自殺しろ『色欲』」
展望台に紫色の光がきらめていて、その光を見た瞬間に頭がぼんやりとしてくる。そして、
「飛び降りろ」
そんな声が聞こえて来る。確かにここから飛び出すことができたら、気持ちいいんだろな。でも、そんなことをしたら、死んでしまう。
「なぜ、動かない?」
「僕が死んでも、お前らは救われないだろ」
「それでこの『色欲』の洗脳を弾いたというのか」
『精神系は無敵だもんね』
ため息混じりにユラムが言っているけど、無敵というか、ここで僕が死んでも誰も救われないという言葉が全てだよ。僕の今までを否定することなんてできない。
「直接叩くしかないか」
「早く、諦めてくれよ『雷』」
また電撃を飛ばしてみたが今度は少し距離があったので避けられてしまう。そして接近してきた橘は右手で殴ってくる。それをみながら体を横にしてかわし、脹脛の辺りめがけて神杖を叩きつける。足さえ奪ってしまえば止まるはずだ。
「まだだっ『憤怒』」
「うおっ」
左手で裏拳を放ってきたのでそれを避けようと意識を割いたらカウンターが飛んできて、痛みでしゃがみこんでしまう。そしてさらに追撃しようとしているのが気配でわかった。
「っっ」
だから神杖を合わせて防ごうとした時だった。たまたまかもしれない。でも、神杖の先っぽが橘の目を貫いてしまった。
「うわああああ」
「橘!」
すぐに抜いたけれど……橘目からは血がどんどん流れている。
「てめぇ……やりやがったな」
「橘、僕は」
「うるせぇ……やり返してやる『憤怒』」
「くっ『忠義』」
さすがに目が潰れるのは避けたい。だから思わず結界を貼る。それを見た、橘は痛みをこらえながら笑う。
「結局我が身可愛さで俺を殺そうとしているじゃねえか」
「橘、僕は」
「いいぜ。俺はもう、戻れない。人を殺してしまった俺は戻れないんだよ……ぐふっ!?」
突然、橘が血を吐き出した。どうしたんだ? 僕は確かに攻撃をしているけど、そこまで致命的な攻撃を与えた覚えがっ
「うぐっ」
橘同様、僕も口から血を吐き出している。この状態は……まさか、
『使いすぎ、ね。さすがに加減をしようとしてみたけどこれが限界ね』
宝玉の本来の能力を使えば効果が大きい代わりに反動もまた発生してしまう。人間が扱えるような代物ではないからだ。人の手に過ぎた力はその身を滅ぼしてしまう。橘もまた、同様に本来の力を使ったことで、反動で血を吐いているのだろう。
「これはっ聞いていないぞ」
「宝玉を使えばそうなるんだよ」
「なんだと」
お互いに血を吐いて、意識を失いかけながらも、僕は神杖を床について、橘は壁に背をつけることで、立ち上がり、相手を見据える。
「おい! どういうことだ」
「?」
突然、意味のわからないことを言ったと思ったら、橘口から吐き出される血の量が増大した。何があったんだ? 僕と橘とで使った能力にそこまで差がないと思うけど。
『まあ……あいつアカリが来るまでにずっと『純潔』を使ってたでしょ?』
最初の分があって、こうして橘は苦しんでいるのか。
「うぐっ……まだ、俺はっ」
「もうやめよう。これ以上戦えば、死ぬよ!」
「……構わない『色欲』」
「何を」
紫色の光が橘を包む。そしてその光が収まった時には、橘は血を吐き出しながらも痛みを感じていない風に立ち上がっている。
「え?」
『自分にかけて……誤魔化したのね』
「自分に……」
自己暗示みたいなものか。でも、橘の体はもう限界を迎えている。まあ、僕も同じなんだけどね。ユラム、あとどれくらいならいける?
『正直「勤勉」をずっと使い続けているからね……あと一回が限度。それ以上は命の保証はしないわ』
「わかったよ」
『それから、あいつはもう、間に合わないわ。例えここでアカリが見逃しても、すぐに命尽きるでしょうね』
「……」
橘は僕に向かって突っ込んでくる。これは、僕の我儘だ。傲慢と言われようが、僕は覚悟を決めて、橘の前に立つ。
「死ねえええええええ」
「橘、すまない。お前を救うことが、できなかったよ。『雷』」
もうほとんど動くことができないのだろう。直線的に進んできた橘は、僕が放った雷を避けることができずに、直撃して、そのまま吹き飛ばされて、壁に激突した。




