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神の声を聞く少女4

 

「もう少し待てば時期がくる、とお告げがきました」

「わかりました」


 時期がくるって多分動物たちが集まって来たときなんだろうな。天井のところで鳥たちが飛び去ったり止まったりしているのを見ながら思う。


『よかったじゃない、動物たちが協力してくれるみたいよ』


 やっぱりか。でも味方が増えるのはそれはそれでありがたいな。なにをさせるつもりなんだろう……いやカナデさんを救うって言われても具体的にどう動くのかわからない。


「他になにか聞きたいことはありますか? 」

「えっと……」

「申し訳ありませんが今日の面会は中止とさせていただきます」

「え? 」


 突然、僕の言葉が遮られる。残念だ。用心棒がいるとはいえもう少し聞きたかったけど後ろから別の人の声が聞こえてきた。威厳がある声だ。


「ギンガ様」

「えっと……」

「おや、観光客かな? 私はギンガ。この街の領主を務めております」

「こんにちは、アカリです」


 相手の姿を確認してみる。恰幅の良さそうな老人だ。この人がカナデさんを騙している悪徳領主……そんな風には全く見えないな。


「巫女殿、申し訳ないがこれからあって欲しいお方がいるのだが」

「はい、わかりました」

「えっと……アカリくん、悪いけど」

「いえ、もう済みましたので」


 さすがに領主の言葉に反対するほどの勇気はない。そして銀貨を一枚賽銭箱的なところに入れてその場を去る。でも……このまま帰るわけにはいかないよな。


『わかってるわよ。これからあの子達が向かうのは領主の館よ』


 おっけー。ならなんか上手いこと潜入できないかな……ん?


「この猫、どうかしたのか? 」


 教会から出ると、猫が僕の目の前に現れた。うん、可愛いなぁ。撫でようかと手を伸ばすとスッと避けられた。悲しい。そして避けるとこちらを一瞥して、それから走り出した。


「ちょ、待てよ」


 追いかける。一度でいいから撫でさせてくれよ。猫は所々こちらを振り返りながらどこかへと向かっていく。まるで、僕を連れて行きたいようだ。


「はぁ…はぁ…きっつ」


 結構走っているんだけどなかなか追いつかない。猫は身軽だな。でも、どこに向かっているのかはなんとなくわかった。目指す先にかなり立派な建物が見えてきたから。あれはおそらくギンガの館だろうな。


「もしかしてあいつ…僕を案内してくれていたのか? 」


 場所を知らなかったからこれは非常にありがたい。それに、もしかして動物たちだけが知っている裏の抜け道とかあるんじゃないかな。でも動物専用とかなら小さいとかそういうオチはないよな……、


「ないと信じていたんだけどさ」

『あら、上を見ればいいじゃない』


 正面ではなく側面の方の塀のところ。そこに小さな穴が空いていて猫はそこからスルッとはいっていった。いや、それだと僕入ることができないんですけど、え? もしかしてこの塀をよじ登って侵入しろってことですか?


「ニャア」

「そこから顔を出してもな、無理なんだけど」


 可愛く鳴いたとしてもダメだからな。そんな危険なことできるか。そもそもまともに登ることができるのかかなり怪しいんだけど。


『しょうがないわねぇ……さすがに頼りなさすぎるし、1分間待って正面から侵入しなさい』

「え? ちょ」


 正面からって言われてもあそこには門場が二人いたよ? あれをどうにかしてくれるのか? 言われた通り1分間ほど数えてから正面の方を覗いてみると……、


「こらっ、なんだこの猫は」

「烏もきてる……なんなんだ」


 門番の片方には猫が引っかいていて、もう片方には烏が突ついていた。えっと、これどういう状況?


『ほら、さっさと行きなさい! 』


 な、なるほど、これで気を引いてくれているのか。ここまでお膳立てしてくれたのなら行かないわけにはいかない。動物たちが気を引いている間に僕は館の中に侵入した。侵入したはいいけどまだ敷地内。次は玄関から室内に入らないといけないな。うーん、次に誰かが出てきたときにまた同じように動物に気を引いてもらって入るしかないな。


『またお願いするの? もう嫌なんだけど』


 やっぱりさっきのはユラムがお願いしたのか。うーん、なら少しは自分で努力しないといけないな。とりあえずは、館の人を出してもらって玄関の扉を開けてもらわないとな。


 こういうときは古典的な方法を試してもいいだろう。そこら辺に落ちている石を拾って適当な窓にでも投げてぶつける。大きな音が鳴って窓ガラスがひび割れた。


『うわー野蛮』


 そして死角になるところに隠れる。門番たちは…まだ猫たちに夢中だ。そして玄関からはギンガとそれからもう一人、用心棒の男の人が出てきた。いや館に人いないのかよ。そして用心棒は辺りを警戒しながら呟く。


「何者だ」

「どうした? ハヤテ」

「何者かが窓を割ったみたいです」

「ほお? この私の館を傷つけるとはいい度胸だな」

「そのようですね……む! 」


 何かを見つけたみたいに男……ハヤテが走って行った。しかし、すぐに何事もなかったのかのように元の位置に戻った。


「どうかしたのか? 」

「いえ……ただの野良猫のようです。それから烏も。どうやらこの動物たちの争いで窓が傷ついたのかもしれません。実際割れた窓は一階ですし」

「そうか。では、さっさと戻るとしよう」

「はい」

『あいつらは一階に移動するみたいよ。だから早く上に登りなさい』


 よかった。無事に行ったみたいだ。僕は上からその様子を見ていた。ハヤテが走って行って、それにギンガが注目していた時にこっそりと館の中に入ったのだ。そして玄関の近くに階段があったので、これ幸いと素早く上の階にあがった。結局またしても猫に助けてもらった形になったな。いや本当に動物たちって頼りになるなぁ。


『仲介した私の身にもなってよ』

「いや、本当にすみません。」


 空いている部屋に隠れながらユラムと会話する。ユラムにも感謝しかない。おまけに誰もいないところも教えてくれたし。それで、今下ではカナデさんは誰と会っているんだろう?


『自分で見に行きなさい』


 はい、そうですね。周囲を警戒しながら慎重に進んでいく。ん? このねずみは……ついていけばいいんだな。


 ねずみについていくとまた空き部屋があった。そして壁の方にいくと、下の方に小さな穴が空いている。これは向こうにいる声が聞こえるっていうことだな。地面に体を伏せて耳をそばたてる。……ねずみ用だからか知らないけどこれ聴きづらいな


「それでは、私の運勢は上々ということだな? 巫女様」

「はい、間違いありません」

「わかりました。わざわざすまないな。時間を取らせた。私はすぐにここを出なければいけないが、従者にお礼を渡している受け取る通い」

「はい、ありがたく頂戴いたします」

「侯爵様」

「ああ、領主殿、どうなさった? 」

「いえ、動物たちが騒いでいたので何事かと見に行ったまでですよ」

「なるほどな」


 ギンガとハヤテの二人が入ってきた。そして入れ替わるように数人が出て行く足音が聞こえた。なるほどね。侯爵と僕とどっちが大切かって言ったら間違いなく侯爵の方だろうな。


「では、巫女殿もお部屋でおくつろぎください」

「はい」


 また1人ーこれはおそらくカナデさんだろー彼女が出て行く音が聞こえた。声の感じからして残っているのはギンガとハヤテの二人だろうな。これは、彼らの話を聞くには絶好の機会だな。


「よかったですね」

「ああ、そうだな。まさか公爵様がいらっしゃるとはな」

「ですがこれでいい繋がりができましたね」

「まったく、巫女の力様様だな。私が成り上がるためにこれからも尽力してもらわねば」

「しかし……神が我らのしようとしていることを知ってそれを伝えればおしまいなのではないですか? 」

「それはない」

「なぜ? 」

「何故ならば、あの巫女の能力は神の声を聞くのではなく動物の声を聞く、だからな」

「だから教会に天窓を? 」

「ああ」


 僕はそこまで聞いて耳を離した。これは紛れもなく黒だな。カナデさんの能力を知らないのならまだ救い用があったけどこいつは能力を知っていてその上であんな苦労を、


『聞きたくないのでしょうけど、続きを聞きなさい』


 ……わかったよ。僕はまた耳をつける。確かに、もう少し情報が欲しい。ここで下手に行動してしまえばもっと悪い状況になるかもしれない。


「しかし、鳥たちが協力してくれないと」

「それは問題ない。私は一度何もしなかった巫女を怪我させている。だからあいつらは理解しているはずだ。自分たちが教えないと巫女が殺されるとな」

「ほお、それは随分躾けたものですね」

『だから私の言葉で簡単に協力してくれてるのよ。あの子を助けたくて』


 そんな……でも、そのことをカナデに話していないのか?彼女のことならばきっと話を聞いたら、


『そしたら彼女は間違いなく自分の能力を公表しようとする。そうなればどうなるかなんて火を見るより明らかよ。そして真実を伝えたところであの子はこの街を去らないでしょう』

「どうして?」

『この街を、厳密にはこの村を愛しているからよ』


 そっか……わかったよ。自分の故郷を大切に思うからこそ、ここまで悩んでいるのか。そしてそのことに気がついて動くことができるのは僕だけ。なら、動くしかないな。これが、こういう人を救うことが、僕がしたいこと、神崎たちに追いつくことに繋がると思うから。

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