お茶会
子供達の夏休みの宿題(終わらなかった)を手伝っていて忙しかったので遅くなりました!
今、私の頭を撫でているのが長女のリベリーで私の爪のお手入れをしてくれているのが次女ラフラであるのだが、少々困惑している。
長女の、頭撫で撫ではそろそろ禿げそうだから止めて欲しい。
「アルティナは最近王立図書館に通っているのでしょ?誰かに酷いことを言われたりしていない?」
「アルティナ!そうよ!何かあれば私とラフラに直ぐに相談しなさい」
私は苦笑いを浮かべて見せた。
「私の宝物が下心を持った狼の群れの中に居るだなんてたえられないわ」
「まあ~!ラフラ一人のじゃないわ!私達兄妹全員の宝物よ。だからこそお兄様がちゃんと守って下さるわ」
宝物とは何のことを言っているのか?
ラフラ姉様は爪のお手入れが終わると私の手をマッサージしながら言った。
「王子様ならアルティナに釣り合うと思っていたのに、声が出なくなったからって婚約の話を無かった事にするだなんて見る目が無いにもほどがあるわ!そう思うでしょ姉様!」
「そうね、こんなに可愛いアルティナを見たら後悔するに決まってるわ!もう、お嫁に欲しいと言ってもあげないんだから!」
姉達はクスクスと笑った。
この二人は本当に仲良しだ。
「さあ、アルティナ!これでアルティナの白魚のような手がピカピカになったわ!本ばかり読んでいたら手の油を全て本に吸いとられてしまうわ!気を付けてね」
私はコクコクと頷いた。
姉達はニコニコしながら次はドレスを選びだした。
それと言うのも、今日は貴族令嬢や貴族夫人が集まるお茶会があるのだ。
滅多にお茶会に出ない私も気分転換のために是非にと、姉達に進められ、実際かなり心配をかけているから断る気にはなれなかったのだ。
綺麗な空色のドレスにサファイアのアクセサリーをつけられた。
着飾るのはあまり好きじゃないが、姉達が喜ぶからまあ、よしとしよう。
お茶会の主催者はアンゲード公爵家。
長女のセリアーレ公爵家の次に力のある公爵家だ。
綺麗な色とりどりのバラが咲き乱れる庭園に有力貴族の女性が集まっている。
「リベリー様ラフラ様来てくださったのですね!嬉しいわ!そちらの方は?」
「アンゲード夫人こちら私達の妹のアルティナですの。よろしくお願いしますね」
声をかけてきたのはこのお茶会の主催者であるアンゲード夫人。
リベリー姉様の親友だと聞いたことがある。
「はじめましてアルティナ様。ずっとお会いしたかったのよ」
私はスカートの裾をつまみ上げ頭を下げた。
「ごめんなさいね。いま、アルティナ声が出ないの……」
「まあ!大変じゃない!」
「お医者様はストレスからくる症状だって言うのよ!だから、アルティナが楽しくなるように連れてきちゃったわ!」
リベリー姉様は可愛らしく笑って見せた。
「そうなの。アルティナ様、楽しんでいってくださいね」
私はコクりと頷いた。
周りは蝶々がヒラヒラと舞うように令嬢達のドレスがきらびやかだ。
見ていてあきない。
「アルティナ!こっちにおいでなさい」
ラフラ姉様に呼ばれて行ったテーブルで私はお茶を淹れようとしているメイドさんの手がプルプルと震えているのが気になった。
カチャカチャとカップとソーサーが音をたてている。
姉達は苦笑いを浮かべ、アンゲード夫人がため息をついたのが解った。
私は手に持っていたメモ帳に『私にお茶を入れさせて下さいませんか?』と書いて姉達とアンゲード夫人に見せた後、メイドさんにも見せた。
元々一人で本を読むことが好きな私は、好きなときに好きなだけ勝手にお茶を淹れてのみたい人だ。
だからこそ、お茶の淹れ方にこだわり文献を読み漁り習得した技術があると自負している。
ゆっくり、優雅に見えるようにお茶を全員分淹れてメイドさんに配ってもらった。
姉達は私が一時期お茶を淹れることにはまっていたのを知っているせいか躊躇わずにカップを口に運んだ。
「……アルティナ、また腕を上げたんじゃないかしら?ラフラそう思わない?」
「アルティナ。うちのメイドにもこのお茶の淹れ方を教えてちょうだい!このままじゃアルティナの淹れてくれるお茶しか飲めなくなってしまうわ!」
こだわって身に付けた技術を褒められるの嬉しいものだ。
私はメイドさんに私なりのお茶の淹れ方をメモしてプレゼントしてみた。
「あ、ありがとうございます。精進いたします」
メイドさんは跳び跳ねそうな勢いでお礼を言われて嬉しかった。
「まあ!メイドの真似事なんて恥ずかしくないのかしら」
「確かあの方、第二王子様の婚約者候補から外されたと聞きましたわよ」
「まあまあ!私なら恥ずかしくて外も歩けないわ!」
遠くの方で何処かのご令嬢達が私の噂話をしている。
こう言うのが嫌でお茶会を避けていたが…………
「今、私の大事な妹を侮辱したのは何処のどなたかしら?」
怒気をはらんだ声を上げたのはラフラ姉様だった。
「私の大事な宝物を侮辱したのは誰か?と聞いたのよ!」
ラフラ姉様はある一ヶ所を見つめてそう言い放った。
あれは、絶対誰が言ったか把握している。
ラフラ姉様が席を立ち、優雅にドレスを翻して奥のテーブルに向かって行く。
慌ててリベリー姉様に助けを求めようとすれば、満面の笑顔でラフラ姉様に手を振っていた。
リベリー姉様は駄目だ。
私は少し遅れてラフラ姉様を追いかけた。
「私の大事な宝物を侮辱したのは何処のどなたかしら?」
ラフラ姉様は、あるテーブルにたどり着くとさっきと同じ言葉を繰り返した。
そのテーブルに座る令嬢は三人。
よく聞き分けられたと感心してしまう。
三人のうち二人は真っ青な顔をしてうつむいているが、残りの一人は好戦的にラフラ姉様を睨み付けた。
「あら、全部本当の事ですわよね。メイドの真似事も第二王子様の婚約者候補から外れたのも!ちなみに私は候補に残ってますのよ!」
ラフラ姉様の眉間にシワがよりました。
私は慌ててラフラ姉様と好戦的な令嬢の間に入りラフラ姉様を止めた。
はっきり言って、羨ましくもなんともない事でやりあわないでほしい。
「アルティナ!止めないで!」
私は首を横にふった。
これは本当の無駄な争いだ。
私は急いでメモ帳に『ラフラ姉様、私は大丈夫です。むしろ宝物といっていただけただけで嬉しいのです。嬉しいの気持ちのままでいさせてください』と殴り書きした。
「アルティナ……貴女、天使なの?もう、お嫁になんて行かなくて良いわ!レジトリート侯爵家で一生養ってあげるからよろしくて!」
ラフラ姉様に思いっきり抱き締められた。
この後、騒ぎを起こしてしまった私達は早々にお茶会を退出することになったのだった。
頑張ります❗