イチャイチャはお二人でどうぞ
いつもありがとうございます。
あれから私の部屋は安全地帯になっていて、私は出来るだけ部屋から出ずに過ごしていた。
うちの中で私の味方じゃないのは父と客人二人だけだし、安全地帯に入ってしまえば、なんの心配もなくなったと言える。
その安全が脅かされる恐れがあるのが、図書館だ。
シジャル様に会える幸せの場所だったはずが、待ち伏せされ中にすら入れないことが度々おこるようになった。
「アルティナさんも大変だな」
今日も図書館の前には客人の二人がいて、仕方なく第一王子の執務室にやって来ていた。
今日は私を心配した第一王子の婚約者であるクリスタ様も来ている。
「大丈夫かアルティナ嬢。私に出来ることがあれば、すぐに言ってくれ」
「ありがとうございます。クリスタ様」
「ああ、本当に羨ましいぐらい何から何までアルティナ嬢は可愛いな! 私が男だったら絶対に嫁にもらうのに」
クリスタ様は私を抱きしめて頭を撫でてくれた。
「クリスタ様、私になんて構わず王子様とイチャイチャしてくださいませ」
私が遠い目をしながら呟けば、クリスタ様は顔を赤くして私を抱きしめる手に力を込めた。
苦しいので離れていただきたい。
「アルティナさん、私まで恥ずかしくて居た堪れない気持ちになるから止めてくれないかい?」
私はニッコリと笑って言った。
「そうですよね! イチャイチャするなら二人きりのときが宜しいですよね? 私や兄がいなくなれば、心置きなくキャッキャウフフするんですよね! 知ってました」
「アルティナさん、君は本当に司書長以外には意地悪だよね! ちょっとユーエン、君の妹どうにかして」
兄は書類整理をしながら視線も上げずに言った。
「僕の妹は不甲斐ないディランダル様の心の声を代弁しているだけでしょう? クリスタ様とイチャイチャしたいと煩悩が漏れ出しているのがいけないのでは? 少し話しかけるのを止めていただけませんか? そしたら、書類整理を高速で終わらせて妹を連れて帰るので心置きなくイチャイチャイチャイチャしてください」
王子は顔を真っ赤に染めて叫んだ。
「散々イチャイチャ言われた後に、そんなことできるわけがないだろ?」
私と兄は、同時にため息をついた。
「ディランダル様、それではアルティナが何も言わなければイチャイチャするつもりだったと言っているようなものですよ」
「お兄様、早くお暇しましょうカップルの邪魔ですから」
王子とクリスタ様を虐めてストレス発散をしていたら、王子が泣きそうな顔で言った。
「クリスタ、頼む司書長をここに呼んできてくれないだろうか? このままではアルティナ嬢達のオモチャにされてしまう」
「解った」
クリスタ様は素早い動きで部屋を出て行った。
しばらくするとノックの音が響き、クリスタ様とシジャル様が入ってきた。
「お呼びいただきありがとうございます殿下」
シジャル様は一礼して見せた。
「司書長、助けてくれ! アルティナさんが、虐めるんだ」
クリスタ様も大きく頷いている。
「アルティナ様がですか?」
「クリスタと私に、イチャイチャしてろとか言い出して」
シジャル様はクリスタ様を見て優しく笑った。
「ああ、自分の妹分のクリスタは自分と同じで、そう言ったことには疎いので殿下がリードして下さると良いと思いますよ」
いや、シジャル様、そう言ったアドバイスをしろとか言ってるわけではないと思う。
「アルティナ様、お久しぶりです。その後は大丈夫でしたか?」
「はい。シジャル様のお陰で部屋に籠もれば何の心配もありませんでした」
「それは良かった」
シジャル様に会えるだけでこんなにも幸せな気持ちになれるのが不思議だ。
そして、シジャル様は私の頭を優しく撫でてくれた。
「そのせいで、図書館の前で待ち伏せされるようになってしまって、シジャル様に会いにいけなかったのです」
シジャル様は顔を赤くし、笑顔になった。
「自分もお会いしたいと思っていました。アルティナ様の好きそうな本が結構沢山入荷しているのと、借りている本の返却期限もありますからね」
「それは申し訳ございません。兄に頼んで直ぐに返却いたします」
私がそう言えばシジャル様は首を横に振った。
「今夜、お邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」
シジャル様が家に?
私は嬉しくて、何度も頷いて見せた。
「良かった。では、今夜本を取りにお伺いします」
シジャル様はそういうと、仕事があるのでと言って帰って行った。
「お兄様、私、うちの食堂に行きたいので、帰ってもよろしいでしょうか?」
「食堂?」
「シジャル様が来てくださることが決まりましたので、お土産にクッキーを焼いて持って行ってもらえるようにしたいのです」
その場にいた全員が驚いた顔をしていた。
「アルティナ、料理なんて出来るのか?」
「はい、勿論」
「何故出来るんだ?」
俄かには信じがたいと言った顔つきで兄が複雑そうな顔を向ける。
「私の声が出なくなっていた時、うちの料理長にお願いして教えてもらったのです。気晴らしになるならと快く教えてくれましたよ」
兄は呆れたようにため息をついた。
「いつのまに、そんなことをしていたんだ?」
勿論、早朝ですけど?
朝は簡単な料理しか作らないのでキッチンの端で手の空いた人が見てくれるのだ。
「そんなことより、帰ってもよろしいでしょうか?」
兄は手元の書類を見つめて言った。
「僕も帰ってよろしいでしょうか?」
それに慌てたのはディランダル様だった。
「ユーエンが居てくれないと私も困るんだ」
「どうせ、仕事を早く片付けてクリスタ様とイチャイチャする時間を作りたいだけでしょう。今日ぐらい我慢したらどうですか?」
「それをクリスタの前で言わないでくれないかな!」
兄を帰らせたくない理由をバラされ憤った感じのディランダル様の後ろでクリスタ様が指まで真っ赤だ。
「お兄様、大丈夫です。帰るだけならシャルロに送っていただきますもの」
私は首元のシャルロを撫でた。
シャルロはそれに答えるようにキュイーと自信満々に鳴いてみせた。
「……ではシャルロ、城の裏口から出て屋敷の裏口にアルティナを運んでくれるか?」
シャルロはコクコクと可愛く頷いて見せた。
「では帰ったらフルーツをあげよう。頼んだぞ」
シャルロは兄の肩に乗ると兄の頬に頭を擦り付けてから私の元に戻ってきた。
「本当に司書長の連れている生き物は可愛いな」
兄は珍しく柔らかな笑顔をシャルロに向けていた。
本当に兄はシャルロが可愛くて仕方ないのであろう。
ディランダル様とクリスタ様が目がこぼれ落ちそうなほど驚いていた。
お待たせしてすみません。