父、襲来‼︎
お待たせいたしました。
シャルロがうちに来てから四日後、父が港に着いたと連絡が来た。
姉であるリベリーとラフラも今日は実家である我が家に帰ってきている。
「アルティナは安心していいのよ〜。お兄様も私もラフラもついていますからね」
おっとりとした喋り方で安心させるように話すリベリー姉様。
「いざとなったら、殴りつけてでも司書長のことを認めさせるから安心するのよ!」
力強くそう言ってくれたのはラフラ姉様だ。
心強い二人の言葉に私も兄も小さく頷いて見せた。
執事長が父の帰宅を告げに来たのは、その日のお昼過ぎだった。
出迎えに出た兄を押しのけると、父は真っ先に私を抱きしめた。
「アルティナ‼︎ 会いたかったぞ‼︎」
兄を押しのけるのはやめてほしいし、抱きしめるのもやめてほしい。
「アルティナ、凄く大きくなって! ますますサマンサに似てきたんじゃないか?」
サマンサは私の母だ。
とくに、髪色や、瞳の色が一番母に似ている私を父は凄く気に入っている。
母を愛しているのは解る。
だが、私を巻き込むのはやめてほしい。
「アルティナももう一五歳か……安心しろ、私がお前を一番幸せにしてくれるはずの婚約者候補を二人連れてきたからな! どっちでも好きな男を選ぶといい!」
そう言って、父は私から離れて入ってきた入り口の方を指差した。
そこには神経質そうな黄緑色の瞳にモノクルをつけた緑の髪の男性と、夕日のようなオレンジ色の短い髪に同じ色の瞳、引き締まった身体が遠目から見ても解る男性の二人が私をボーッと見つめていた。
選ぶといいじゃない。
私はシジャル様しか選ばないのだから!
「君達、こちらが私の娘のアルティナだ! 美しい娘だろ? アルティナこちらは隣国のジャファニア国の宰相の血筋であるメデュージア公爵家の次男のインシオン君と同じくジャファニア国の騎士団長の血筋のパトリオタ侯爵家の三男ダレン君だ! さあ、どちらが好みだい?」
私は父の言葉に口元をヒクヒクさせることしかできなかったのだが、ラフラ姉様の怒ったような声が部屋に響いた。
「会ったばかりの方に失礼だとは思わないのですか! それに、アルティナにはもうすでに愛する婚約者がいるんですのよ!」
リベリーお姉様の言葉にお父様はキョトンとした顔の後高らかに笑い出した。
「私はアルティナの婚約の話なんて聞いてないし、許可をだした覚えもないぞ」
「父上、モニキス公爵家の当主は今は貴方ではありません」
兄が呆れたように父に言った。
父は慌てたように私を抱きしめた。
「ユーエン! アルティナの婚約を勝手に決めるとは何事だ‼︎ アルティナ、安心するんだ。父が必ず国王に直談判してやるからな!」
この人は何を言っているんだ。
私は父の真意が見えず混乱していた。
「お父様、勝手なことばかりしているとお母様に全てばらしてしまいますよ。それはもう、あることないこと……ふふふ」
リベリーお姉様がいい笑顔で言えば父の顔色が悪くなった。
いい笑顔なのに恐怖心を煽るなんて、素晴らしい!
私も見習いたいものだ。
「サマンサの名を出すとは、卑怯だぞ!」
「では、お母様に告げ口されたら困ることはお控えになられてはいかがでしょう?」
リベリーお姉様! 格好いい! 美しい! 憧れる‼︎
私はリベリーお姉様に向かって小さく拍手してしまった。
見れば、ラフラ姉様も兄も同じように拍手していた。
「どこのどいつだ? アルティナと婚約したというのは?」
父は眉間にシワをよせて叫んだ。
「王立図書館司書長のシジャル・ミルグリットだ。ミルグリット辺境伯の次男だな」
お兄様が冷静に言えば、お父様は額に青筋を立てて言った。
「そんなしょうもないヤツにアルティナを婚約させたのか!」
「しょうもないヤツではありません。司書長は誰よりも紳士でアルティナを思い支えていける男です」
お兄様は力強くシジャル様を褒めてくれた。
お兄様素敵です! 格好いいです! 私よりシジャル様と仲良くなっては嫌ですよ!
「とにかく、そんな婚約は認めん! この二人から婚約者を選ぶんだ!」
あまりの横暴に私はお兄様の後ろに隠れて言った。
「お父様なんて大嫌いです! もう、お父様とは会話もしたくありません!」
私はその時、お父様がいる場所で声を出さないと決めました!
二巻が2月15日にでます。