私には愛する婚約者がいます。
長らくお待たせ致しました。
私、アルティナ・モニキスには愛する婚約者がいます。
名前をシジャル・ミルグリット様。
王城の中にある図書館の司書長をしていて、穏やかな喋り方や、一緒に大好きな読書をしている時の安心感も私には勿体ないほど素敵な人だと思う。
思い返せば、シジャル様との出会いは偶然だった。
私はその頃、反抗期真っ只中で人と喋ることが苦痛になり声を出さないと決めました。
そんな私がうっかり声を出したのを聞かれてしまったのがシジャル様との出会い。
声が出ないという私の嘘を何度もフォローしてくれて、護ってもらった。
そんなの、惚れてしまうに決まっている。
声が出ないフリをしている私の恋路を全面的にバックアップしてくれたのは一番会話するのが面倒だと思っていた兄と姉二人であった。
私は家族から愛されているのだと初めて気付いたのが、シジャル様のお陰だったりする。
その後、私の声が本当に出なくなったり、シジャル様の計らいでシジャル様のご実家に静養に行ったり、上級精霊様に会ったりした後、色々あってシジャル様との婚約にこぎつけることができた。
声も出るようになったが、シジャル様と婚約できたことが何より嬉しかった。
兄と姉二人とは、絆が深まったと思う。
その日、私と兄は優雅に朝食を食べていた。
「アルティナ、司書長とは仲良くやっているか?」
「勿論です。誕生日パーティーの招待状も他の方々とは違い、手渡しするつもりでいます」
「そうか」
兄はそう言ってパンをちぎって口に運んだ。
最近の朝の日課になりつつある会話だ。
今日も兄と一緒に城に行き王立図書館でシジャル様とまったりとした時間を過ごす予定だ。
そんな優雅な朝食の時間には珍しく、うちの執事長が銀細工のトレーに手紙を一通乗せてやってきた。
「急ぎの手紙か?」
うちの優秀な執事長がこの時間に手紙を持って来ることは滅多にないことだ。
兄は手紙を手に取り宛先を見て呟いた。
「あっ……」
兄は急いで手紙を開いて中を確認した。
そして、私に申し訳なさそうな顔を向けた。
「お兄様、どうされたのですか?」
「それが、その……」
歯切れの悪い返事に私はハッとした。
「まさか! シジャル様に何かあったのですか?」
私が慌てて聞くと、兄は勢いよく首を振った。
「違う……父上が帰ってくるらしい」
「もう! 驚かせないでください」
私は口を尖らせた。
私の父は今海外にいる。
兄が二十歳になったお祝いに家督を兄に押し付け、王弟殿下の通訳係として海外を飛び回っている。
ちなみに、母も海外を渡り歩いているのは父と同じだが、こちらは文学学者という職業がら海外の書物を集める旅に出ているのだ。
そんなこともあり、私にとっては二人ともたまにしか会うことのない、遠い親戚のような認識になっていた。
「お前の誕生日を祝うために、帰ってくるらしい」
私は朝食の後の紅茶をゆっくりと口に運んだ。
「それで、だな……」
兄は若干目を泳がせた。
「お前の婚約者候補を連れてくると手紙に書かれていたんだが……」
「はあ?」
私は唖然として兄の顔を見つめることしかできなかった。
「これは、僕のミスだ。お前を司書長と婚約させたことで安心してしまった」
「安心すると、こんなことになるのですか?」
私は泣きたい気持ちで呟いた。
「違う! ただ」
兄は俯くと唸るように言った。
「両親に報告する! ということを、すっかり忘れていた」
私は天を仰いで返した。
「私もです」
その場に長い沈黙が流れたのは、仕方がないことだと思う。
2月に二巻が出ることがきまりました!