婚約者
長らくお待たせいたしました。
私の声が戻った。
姉二人は私を抱き締めて泣いた。
私は声が出る感動を噛み締め、もう声が出ないなんて嘘はつかないと決めた。
私の声が出るようになっても兄は私を王立図書館に連れていってくれた。
兄いわく、婚約者の元に送り届ける義務が兄にはあるらしい。
その日も私は兄と一緒に図書館に向かっていた。
「ユーエン!アルティナ嬢!」
「おはよー」
図書館の前に居たのは第二王子と第三王子だった。
兄が深いため息をついたのが解った。
「そんな嫌そうな顔するなよ」
「そうだよユーエン!は~~いつ見てもアルティナ嬢は可愛いね!声なんて関係ないよ」
第三王子が私に近づくのを兄が間に入って阻む。
私は苦笑いを浮かべてから口を開いた。
「ライアス様、ファル様おはようございます」
私は兄に阻まれながら、二人に淑女の礼をした。
二人がこぼれ落ちそうなほど目を見開いたのが兄越しに見えた。
「ア、アルティナ嬢……声が戻ったのか?」
「なんて可愛い声なの?わぁ~~もっと聞かせて!」
二人が私の方に近づこうとするのを兄が睨み付ける。
「妹に近づかないでいただきたい」
「何故だ?アルティナ嬢は声が戻った。なら、俺の婚約者候補に戻るだろ!」
「なんで!僕の婚約者候補になるんでしょ!」
王子二人が睨みあうのを無視して私は図書館の扉を見つめた。
暫く見ていると、ゆっくりと図書館の扉が開きシジャル様が顔を出した。
「騒がしいと思ったら、またですか?」
シジャル様は呆れたような顔をしながら図書館から出てきた。
ああ、シジャル様の顔を見ただけで安心する。
「シジャル司書長、あんたは何でいつも俺の邪魔をするのかな?」
「邪魔をしているつもりはありませんよ」
シジャル様は、兄と私に優しい笑顔をむけた。
「おはようございますユーエン様。アルティナ様」
兄が一つため息をついた。
「まだ様付けしているのか?」
「ああ、すみません。つい……ははは」
私は兄の後ろから出るとシジャル様に抱きついた。
「シジャル様おはようございます。お会いしたかったですわ」
私が抱きつくとシジャル様は難なく私を受け止め、おずおずと私の頭を撫でる。
「自分もお会いしたかったです」
耳元でそう囁かれると照れてしまう。
「アルティナせめて兄が居なくなってからイチャイチャしてくれるか?」
「ごめんなさいお兄様。嬉しくて」
私がそう言うと兄は呆れたように笑った。
「ち、ちょっと待て!何故司書長とアルティナ嬢が……」
第二王子がそう呟くのが聞こえ、王子達を見ると、青い顔でこちらを見ていた。
私はシジャル様にしがみついたまま言った。
「婚約者になりましたので、誰にもとられないように見せつけておこうかと思いまして」
私の言葉にその場にいる全員がキョトンとしていた。
そして、王子二人が真っ青になったのが見てとれた。
そんな中、シジャル様が困ったような顔で呟いた。
「アルティナ様、自分をとろうなどという人間は極稀だと思いますが?」
「そんなことは御座いません!私はシジャル様が誰かにとられないか心配で心配で!ですので、手始めに義理の兄にいただいた誘惑の資料のように大胆に行動しようかと思っているのです!その第一歩がシジャル様をお見かけしたら抱きつく!ですわ!!」
なんだが喋れるのが嬉しくてたくさん喋ってしまった気がした。
「ア、アルティナ様……その資料は参考にしてはいけませんよ。自分の心臓がもちませんので」
「……では、司書様達が言っていたお胸を腕に押し付けるのは大丈夫ですか?」
「それは、口に出して言って良い作戦ではありませんよ」
そうなのか?
私はシジャル様の顔を見上げた。
「では、シジャル様が忘れた頃にいたします」
「……楽しみにお待ちしております」
私とシジャル様は一緒に笑いあった。
「ち、ちょっと待て!待ってくれ……アルティナ嬢は司書長と本当に婚約したのか?」
「はい!ラブラブですわ!」
第二王子が膝から崩れ落ちた。
何だろ?邪魔だからはじっこによれば良いのに。
「アルティナ嬢!司書長なんかより僕の方が可愛くない?」
第三王子が青ざめながらも笑顔をむけてくる。
「シジャル様はとっても可愛らしい方ですわ!私が無理矢理キスした時もお顔を真っ赤にされて!シジャル様が可愛くてキュンキュンいたしましたもの!」
私が力説すると第三王子も膝から崩れ落ちた。
だから、邪魔だからはじっこに行けば良いのに。
私は王子二人を邪魔に思いながらシジャル様の腕にしがみつき笑顔をむけた。
「図書館へエスコートをお願いしても宜しいでしょうか?」
「勿論です」
こうして、私はシジャル様と図書館に入っていったのだった。
イチャイチャさせて終わった……