真犯人
更新が不定期でごめんなさい。
ちょっと長めです。
私、アルティナ・モニキスはこの度、初めての恋を実らせシジャル・ミルグリット司書長様と婚約することができた。
周りで応援してくれた人達のお陰である。
聞いた話によると王妃様が婚約の申請書の受理を早めてくれたらしい。
そんなところにも私を応援してくる人がいたなんて感動しかない。
そう、私はこの時幸せすぎて気が付いていなかったのだ。
私を呪いたいほど憎んでいる人がいるなんて……。
私とシジャル様が婚約した次の日、私は兄と一緒に王立図書館に向かっていた。
「アルティナ、司書長に早く呪いを解いてもらうんだぞ」
兄のデリカシーのない言葉に私は顔を赤らめながら、兄の肩をグーで殴った。
全然痛そうじゃなかったし、蚊に刺されたほども感じでいなさそうに笑われた。
それでも、やらずにはいられなかったのだ。
私が羞恥にたえながら図書館に向かっていると、図書館の前でシジャル様とシジャル様の元婚約者のメイデルリーナさんとその取り巻き令嬢様が二人話をしているのが見えた。
私はゆっくりとシジャル様達に近づいた。
そんな私にシジャル様は直ぐに気が付いて爽やかな笑顔をくれた。
「アルティナ様おはようございます」
私が優雅に淑女の礼をとっている横で兄がシジャル様にニッコリと笑顔をむけた。
「司書長、もうアルティナに様をつける必要はないだろ?」
「!!!そ、そうですか?」
シジャル様は何だか照れた顔をしながら頭を軽くかくと私に笑顔をくれた。
「では、アルティナ」
解っている。
これから、ずっと言われるのだから動揺しては駄目だと。
だが、私は顔に熱が集まるのを止めることが出来なかった。
「ずっと休んでいると思ったら、何がどうして公爵令嬢を呼び捨てにできるほど出世できたのよ?」
シジャル様と私が照れているうちに、シジャル様の腕にメイデルリーナさんがしがみついた。
私はムッとしてシジャル様を見上げた。
私はもう嫉妬することを許される立場なのだから!
「メイデルリーナ悪いのですが、離れてください。婚約者に疑われるようなことはしたくないので」
「……婚約者?」
「はい。アルティナ様……いえ、アルティナと自分は婚約したんです。正式に、国の認めた婚約者ですよ」
メイデルリーナさんはシジャル様と私を交互に見ると私に近づいてきた。
私が身構えるのをものともせずに、メイデルリーナさんは私を強く抱き締めるとポツリと言った。
「私のお兄ちゃんを不幸にしたら許さないから!」
メイデルリーナさんは私が苦しくなるほど強く私を締め上げると解放してくれた。
何だか少し感動してしまったのはなんなんだろう?
「アルティナ様大丈夫ですか?」
その後、シジャル様は私を気づかってくれたが、様付けが直っていなかった。
なれるまでに時間がかかりそうだ。
「……嘘よ……シジャル司書長と貴女は身分が違うでしょ!!」
静かな廊下にヒステリーな声が響いた。
その声の出所は、メイデルリーナさんの取り巻き令嬢の一人。
茶色の髪の毛をゆったりとした横結びにした、おっとりとしたイメージの令嬢だった。
もう一人の深翠の髪の毛を三つ編みにした黄緑の瞳の令嬢も突然の事に驚いた顔で固まってしまっていた。
「なぜ?なぜその方なの?貴女は何でも持ってるじゃない!」
「サニーどうしたの?悩みがあるなら私、聞くわよ?私達親友でしょ?」
メイデルリーナさんが動揺しながらも話しかければ、サニーと呼ばれた令嬢はメイデルリーナさんを睨み付けた。
「私は親友なんて思ったこと一度も無いわ!メイデルリーナと一緒にいればシジャル司書長と会えるから一緒にいただけよ!」
メイデルリーナさんの顔が悲しみに歪んだのが解った。
なんて酷いことを言うんだ!
「シジャル司書長がメイデルリーナを愛していないことなんて見てれば解るわ。だからメイデルリーナが第二王子の婚約者候補に選ばれた時、漸く手に入ると思ったのに!!」
サニーさんは今度は私を睨み付けた。
「シジャル司書長は私のなのよ!それなのに、ポッと出の貴女が何で?声の出ない欠陥品のくせに!あの時死んでればよかったのよ!!」
初めて向けられる殺意に私の体がプルプルと震えているのが解った。
「図書館で男性に言い寄られ困っていた時に颯爽と助けて下さったシジャル司書長は私だけの王子様なのに……」
ブツブツと呟くサニーさんの顔には狂気が浮かんでいた。
その時だった。
私の側にいたメイデルリーナさんの小さな声が聞こえた。
「私、しらないからね!御愁傷様」
何のことか解らずメイデルリーナさんの方を見るとメイデルリーナさんは私の腕を掴むと引き寄せた。
「シジャルから離れときなよ!怒ったシジャルは手がつけられないから」
何だか顔色の悪いメイデルリーナさんから視線をそらすと、冷えきった表情のシジャル様がいるのが見えた。
「あの襲撃は君が仕掛けたと?」
「へっ?」
「あの時、死ねばよかったと君は言いましたよね?……アルティナ様を傷つけようとしたのは……お前かと聞いている」
地をはうような低い声が響き私とメイデルリーナさんが縮み上がる。
あの低い声を向けられているサニーさんの顔は青を通り越して白く見えた。
「だ、って……シジャル司書長は私を助けて下さった王子様で」
「図書館の中でトラブルに司書長が出向くのはごく普通のこと。何の感情も持っていないことでアルティナ様を危険にさらしてしまった」
シジャル様の消えそうな声がハッキリと聞こえた。
私は慌ててシジャル様の前に飛び出した。
シジャル様の顔は今にも泣いてしまいそうなほど絶望に染められていた。
「すみませんアルティナ様……全部自分の……」
これは駄目だ!
このままでは、シジャル様が婚約破棄するとか言いかねない!
私はシジャル様とずっと一緒にいたいのだ!
「自分と一緒になったら、アルティナ様を不幸にしてしまう……アルティナ様……」
これ以上の言葉は聞きたくない。
私はシジャル様の首に腕をまわし引き寄せた。
そして、そのままシジャル様の唇に自分のを押し付けた。
喉の奥にスーっと何かが通り抜けた気がした。
今なら出せる!
「私は、シジャル様の側にいられるだけで幸せなのです。シジャル様が嫌でも、私はもうシジャル様の婚約者。離れません」
シジャル様は真っ赤な顔で口をパクパクさせるだけで何も声が出ないようだった。
せっかくだから、シジャル様から一旦離れ、背中に腕をまわし直し抱きついてシジャル様の胸にスリスリと頬をよせた。
「アルティナ!兄はだいぶ複雑な気持ちなんだが!」
兄の動揺した声が聞こえたが聞こえなかったことにした。
そんな中、シジャル様は私をゆっくりと抱き締めかえすと私の耳元で小さく呟いた。
「アルティナ様の声……やっぱり好きだ」
耳にかかるシジャル様の声に私は息が止まるかと思った。
ドキドキがピークだとこんなことになるのだと初めて知った。
〝好き〟という言葉が耳に張り付いている。
「いつまでイチャイチャしてるのよ!」
メイデルリーナさんの言葉に私とシジャル様は弾かれたように離れた。
見ればサニーさんが首を押さえていた。
何だか少し前の自分を見ているようだった。
「ウィーザの呪い返しです」
シジャル様は冷静にそう言った。
「アルティナ様の声が出なくなる呪いは消滅することなく同じ呪いとしてかけた本人に返っていくようにしてもらいました。アルティナ様の苦しみを少しは解った方がいい」
シジャル様の言葉にサニーさんは泣きながらその場を走って逃げていったのだった。
長々とすみません。