精霊の洞窟
長くなるので途中で切ります。
フェンリルの背中に乗るのを楽しむなんて無理だった。
背中にシジャル様の体温を感じてちょっと揺れるとシジャル様が私の腰に片手を巻き付けて私が落ちないように支えてくれる。
密着する部分が多すぎて集中できない。
「……ですから、スライムなんてのはですね?番?聞いてますかい?」
「リル、お前、黙ってられないのか?」
「番が退屈しないようにじゃないですかい?反応うすいっすよ!」
「アルティナ様はスライムのせいで声を失われている。多くを求めるんじゃない」
「!!!大変じゃ無いっすか!精霊に治し方聞くんすね!急ぐっす!」
「おい、馬鹿!ゆっくり、ゆっくりだ!」
途中、言うことを聞かなくなってスピードを上げるフェンリルを止められずシジャル様が私をしっかりと抱き締めてくれたりして、ドキドキで死んでしまいそうだと思った。
漸くついた場所は空気から綺麗な場所で神聖な場所に来たと肌で感じるようだった。
周りは全てが若葉で出来ているようであり、朝露がついているようでありなんとも言えない神秘の力を感じる気がする場所の中心にポッカリと空いた横穴は入ってはいけないようなオーラを放っている。
「では、オラッチはこの先行ったら浄化されちゃいそうなんで帰りやす。番!声出るようになったらリル~って呼んで下さいっすよ!じゃ!」
フェンリルは私のほっぺをペロリと舐めるとさって行った。
「アイツ、後で舌引っこ抜く……」
シジャル様が何かをポツリと呟いていたがよく聞こえなかった。
私が首を傾げると、シジャル様はニコッと笑った。
「では行きましょうか?」
私が頷くと、シジャル様は私の手を引いて洞窟の中に向かって歩き出した。
暗い洞窟に恐怖を感じる私を落ち着かせるように、シジャル様は手にハンカチをのせると魔力を込めた。
すると、ハンカチは光る蝶々に姿を変えてヒラヒラと洞窟の中を照らし出した。
光る蝶々の美しさに誘われるように後をついていくと、薄い緑色に光る苔に覆われた場所に出た。
「光苔です。綺麗ですよね」
私が頷くとシジャル様は柔らかく笑ってくれた。
そして、次に出た場所はピンク色に光る湖のような場所だった。
私はあまりに美しい光景にシジャル様の上着の裾を握りしめてピョンピョン跳ねてはしゃいでしまった。
そんな私を優しく見つめるシジャル様に私は少し恥ずかしくなった。
「シジャル、顔が緩んでる~!」
突然声をかけられ驚いて回りを見れば、ピンクの湖の中に掌サイズの女の子が顔を出していた。
驚いてシジャル様を見てから女の子の方をむくと、すでに姿はなくなっていた。
「どうかしましたか?」
私の反応に首を傾げるシジャル様に私も首を傾げた。
シジャル様には見えなかったのだろうか?
「そろそろ精霊達も集まって来ると思いますよ。精霊達はキラキラ光る虫みたいで綺麗ですので見せたかったんですよ!」
シジャル様がそう説明してくれてる間に、黄色い光を発しながら飛ぶ小さな女の子がシジャル様の頭に座ったのが解った。
「私達を虫だと思ってるの?だからデリカシーのない男は嫌なのよ!」
可愛らしい女の子がシジャル様の頭の上でくつろいでいる。
私が見つめていると女の子は私の方を見て言った。
「あら、私のこと可愛らしいって言ってくれた?私のこと可愛く見えてる?」
女の子は私の目の前にヒラヒラと下りてきた。
よくよく見ればトンボの羽根のようなものが背中から生えていて羽ばたいていた。
「ああ、アルティナ様これが下級の精霊ですよ。下級の精霊は光の玉のようですが、上級の精霊は人のように見えるんですよ」
シジャル様にはどうやら人の形には見えていないようだと言うことだけが解った。
「下級とか言って!アンタが下級だから私がちゃんと見えないんでしょ!バーカバーカ」
女の子はシジャル様の回りを飛び回りながら悪口を言っているが、シジャル様には聞こえていないみたいだ。
可愛いのに口が悪いのは可愛さが半減してしまうからやめた方が良いじゃないだろうか?
私がそんなことを考えると女の子は私の方を見ると口を尖らせた。
「何よ!」
私が苦笑いを浮かべると女の子は私のところまで飛んできて首を撫でた。
「貴女呪われてるの?」
女の子の言葉に私は驚いた。
呪われてる?
どう言うこと?
「貴女の声が一生、出なければ良いって思ってるやつに襲われたでしょ?」
女の子の言葉に私はただただ絶句することしか出来なかったのだった。
シジャル様、馬鹿にされてるぞ!