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フェンリル

キャラが増えすぎ問題。

 朝食が終り、シジャル様に案内されて向かったのは屋敷の裏に広がる森だった。


「この森には沢山の魔物が居ます」


 その言葉にビクッと肩を跳ねさせてしまった私を見て、シジャル様は優しく笑うと言った。


「話から推測するにアルティナ様を襲ったのはスライムの上位種だと思います。スライムは魔物の中でも弱い魔物ですので、自分が居れば危険ではありません」

『あれが弱い魔物なのですか?ぬるぬるしていて気持ち悪いものでしたわ』


 私のメモを見るとシジャル様はニコッと笑った。


「種類にもよりますが比較的弱い魔物です。むしろ、ドラゴンとかになると苦戦しますので逃げましょう」


 ドラゴンに会うかも知れないという事実に震え上がる私を他所にシジャル様は私の手を引いて森の中に入っていく。

 怖くて足が震える私に気が付いたシジャル様が私の方をむいた時、シジャル様の背後に白銀の毛並みに青と緑を混ぜたような瞳の馬車のようにでかい狼が現れたのが解り私は意識が遠退くかと思った。


「アルティナ様」


 シジャル様が倒れそうになる私をギュッと抱き締めてくれたことで私の意識は浮上したが、後ろに大きな狼が居ることに代わりはない。

 私はシジャル様の腕の中でもがき後ろを向くようにシジャル様に促した。

 振り返ったシジャル様は狼を見ると深い息を吐いた。


「突然出てくるな」


 シジャル様の言葉に狼はおとなしくお座りをすると、喋りだした。


「旦那の気配がしたので馳せ参じましたが……デートですかい?」


 喋りだしたのだ。

 喋るんだ。

 私が驚いているとシジャル様がゆっくりと言った。


「これは、フェンリルと言う魔物です。この森の中では一二を争う強い魔物です」


 そんな強い魔物がシジャル様に親しげに話しかけているのはどう言うことだ?

 私が首を傾げると、フェンリルと言う魔物は私に顔を近付けて言った。


「フェンリルのリルと言います。旦那の番ですかい?」


 クンクンと臭いを嗅がれ、震える私を安心させるようにシジャル様は私の背中を撫でながら空いている方の手でフェンリルの鼻をグーで殴った。

 キャインっと高い声で鳴くフェンリルにシジャル様は口元をヒクヒクさせながら言った。


「アルティナ様の臭いを嗅ぐな」

「旦那~~酷いっすよ。野性の獣は鼻が命なんすからね」


 鼻が命!

 この魔物は今命を殴られてしまったの?

 私は慌ててフェンリルの鼻に手を伸ばし鼻を撫でた。

 しっとりと湿った鼻をいたわるように撫でていると、撫でていた手をベロリと舐められ驚いた。


「旦那の番じゃなかったら連れて帰ったのに」


 フェンリルの瞳がキラリと光った気がした。


「アルティナ様心配いりません。コイツに連れ拐われたら自分が秒で迎えに行きますのでご安心下さい。そして、二度と同じ過ちをおかさぬよう種族皆殺しに……」

「旦那、皆殺しとか言ったら番に引かれちまいますぜ!」


 焦ったようなフェンリルの言葉にシジャル様はニコニコしながら言い直した。


「皆半殺しにしますので、大丈夫ですよ」


 あまり変わっていないが、助けに来てくれるってことなのは解った。

 後、私にとっては、いまだにシジャル様に抱き締められていることの方が大問題で、ドキドキが止まらない。

 メモを書きたいが手も足も出ない状況である。

 ドキドキのせいで冷静な判断が出来ずにいると、私の首に巻き付いていたシャルロがシジャル様の手をパシパシと尻尾で叩いた。

 シャルロのお陰で気がついてくれたのか、シジャル様が慌てたように私から離れてくれて私は安堵の息を吐いた。

 シャルロにお礼の意味を込めて首もとを撫でてあげれば、シャルロはピユーーッと可愛く鳴いた。

 

「旦那の使い魔良いな~~オラッチも撫で撫でされたい」


 モフモフの大きな狼が期待をしたような瞳を私にむける。

 私が手を伸ばすと期待に耐えきれないように尻尾をブンブンとふり、それに驚いて手を引っ込めると尻尾がシュンと動かなくなる様はなんとも可愛らしかった。


「アルティナ様はスライムに襲われてから魔物が怖いんだ!無理をさせるな!」

「スライム?この番はそんなに過弱いんすか?」

「普通の女性は過弱い」

「人の雌は容赦の無い化け物では?」

「それは家に居るごく一部の化け物のことであって普通の女性は儚くか弱い」

「知らんかったす……怖がらせちゃってすんません」


 そう言ってシュンと耳を垂れさせるフェンリルは可愛くて、私は首を下げているフェンリルの首もとに手を滑り込ませるようにして撫でてみた。


「フワワ、それ気持ち良いっす!もっともっと」


 そう言って私に顔を寄せてくるフェンリルは本当に可愛かった。


「リル、調子にのってると、鼻の穴に腕突っ込んで奥歯ガタガタ言わせるぞ」

「ヒッ……旦那、雄の嫉妬は見苦しいっす」

「嫉妬じゃない。精霊の洞窟まで行くんだ。時間がおしい」


 シジャル様の言葉にフェンリルは良いことを思い付いたというように口を開いた。


「なら、オラッチがそこまで運ぶっす!背中に乗ってくれっす」


 フェンリルはそういうとふせをした。

 シジャル様は私をチラッと見ると言った。


「リルには鞍など無いので乗り心地は保証出来ません。安全を考慮すると、自分が後ろからアルティナ様を支えるのがベストだと思いますが……どうしますか?」


 シジャル様が支えてくれるのであれば、ふわふわのフェンリルに乗ってみたいと、その時は思った。

 私がメモに乗ってみたい旨を書いて見せると、シジャル様は私を抱えるとフェンリルの背中に乗り私を後ろから抱えるように座った。

 私の前にある鬣を掴んでいるためシジャル様に抱き締められているみたいでドキドキが止まらない。

 

「じゃあ、行くっすよ」


 掛け声とともに動き出したフェンリルはゆっくりとした動きで安全に、そして、確実に前に進んでいったのだった。

なんでこんなお調子者に……

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