朝
短めです。
翌朝、アクビを耐えながら起き上がり身支度を整えていると昨日のマーサさんが起こしに来てくれた。
「まあまあ!早起きなんですね!」
もうすでに着替えも終わっていたため、朝食をとるために食堂に連れていってもらった。
食堂にはまだ誰もいなくて、隣接したキッチンから料理人らしき人が食事を運んでいた。
私が興味深く見ていると何だか挙動不審になってキョロキョロしだす人もいて邪魔をしてしまっているのかも知れないと思っていると、マーサさんがため息をついた。
「お客様が美しいからといって集中を切らすなんてプロ失格ですよ!」
私は驚いて首を横にふった。
すると、マーサさんはニコニコと笑った。
「お客様は坊っちゃんの大事なお方なのですから、胸をはっていれば良いのです」
シジャル様の大事な人!
私は嬉しくなって思わずニヤニヤしてしまった。
「「「うぉぉ!天使!!」」」
キッチンの方から何か叫び声が聞こえたが何事だろうか?
何だか怖い。
「おはようございます。アルティナ様」
そこに現れたのはシジャル様だった。
私はメモに挨拶を書いて手渡した。
何だか嬉しくなって笑顔をむけると、シジャル様も柔らかく笑ってくれた。
「坊っちゃんからも言ってあげて下さい。コック達がたるんでるんですよ!」
そこにマーサさんが不満を口にした。
「マーサ、自分は昨晩のマーサの方が問題ありだと思っているよ」
マーサさんはキョトンとした顔をした後、不思議そうに言った。
「坊っちゃんはヘタレなのでお客様に無体な真似は出来ませんでしょ?何も問題御座いません」
シジャル様が唖然とする中、私はマーサさんにメモを渡した。
『皆様がたまにお使いになる〝ヘタレ〟とはどんな意味ですか?』
私のメモを見たマーサさんはにっこりと笑った。
「度胸の無い、頼り無いという意味です」
『シジャル様は頼りがいのある方ですわ。私はいつも頼ってばかりですの』
私のメモを見たマーサさんはクスクスと笑った。
「そういった度胸はありますが、女性に手を出すような甲斐性は無いのです」
その言葉に私は絶句した。
それは、甲斐性というのか?
『紳士的と言うのでは?』
私のメモを見るとマーサさんはフーっと息を吐いた。
「マーサ。アルティナ様に変なことを言うな」
「坊っちゃん、もっと頑張って下さいませ」
マーサさんはフンッと鼻を鳴らすとスタスタとキッチンに消えて行った。
「何だかすみません」
シジャル様は申し訳なさそうに呟いた。
『私はシジャル様はとても素敵な方だと知ってますので大丈夫ですわ』
メモを書いて渡せば、シジャル様は困ったような顔をした。
「自分だって男ですので、アルティナ様は警戒して下さい」
私は暫く考えてから書いた。
『シジャル様も、私をただの小娘だと油断なさらないでくださいませ。昨日のような無防備な格好をしていたら腹筋に触ってしまいますわよ!』
どうだ、と言わんばかりに書いたのにシジャル様はキョトンとした顔だ。
「腹筋ですか?アルティナ様が触りたいのであればいくらでもどうぞ」
シジャル様の言葉に私は顔が熱くなるのが解った。
『シジャル様は破廉恥です』
私がそう書けばシジャル様は慌てたようだった。
「えっ?あの、えっ?すみません」
私は口を尖らせて拗ねて見せた。
シジャル様は何が破廉恥だったのかが解らないようでオロオロしていたが、他のご家族方も集まって来たので朝食をとることになったのだった。
進みが遅くてすみません。