シジャル様のお母様
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シジャル様に抱えられて屋敷の中庭に出ると、そこにはシジャル様のお兄様と美しい女性が二人お茶会をしていた。
「……しまった」
シジャル様が小さく呟いたのが解った。
「シジャル!」
直ぐにお兄様に気づかれてしまい逃げることは、出来ないと思ったのかシジャル様は深いため息をついた。
「まあ!シジャルが女性を抱えてくるなんて」
「シジャル君の未来のお嫁様ね」
シジャル様は私をチラリと見るとゆっくりと下ろしてくれた。
私は急いで淑女の礼をとった。
「この子!シジャルの彼女のアルティナちゃん。今、声が出ないらしいぞ」
お兄様の説明に息を飲む美しい女性二人に私はメモを書いて、テーブルに置いた。
『アルティナと申します。訳あって声が出せませんが宜しくお願いいたします。失礼を承知でお聞きしても宜しいでしょうか?お二方はシジャル様のご兄妹でしょうか?』
そのメモを見た二人は顔を見合わせて笑った。
「私はサジャルの嫁のシュリン、こちらはサジャルとシジャル君のお母様よ」
私は失礼にもシジャル様とお母様を交互に見てからメモを書いた。
『お若く美しい方ですが、お母様なのですか?どんな魔法をお使いなのでしょうか?』
すると、お茶会をしていた三人が豪快にアッハハハと笑った。
「二人とも猫被っていたのが剥がれていますよ」
シジャル様の言葉にシジャル様のお母様がニヤリと口元をつり上げた。
「お前が連れてきた女がどんな者か見てやろうと思えば、人外な美しさの若い女だろ?良いように騙されてんじゃねぇかな?って思ったけど中身天使かよ」
男性のような言葉使いに思わず絶句する私を他所に、お兄様のお嫁様のシュリン様が私に近づくとギュッと私を抱き締めた。
「シー君、この子マジ可愛いね!シー君には勿体無いから私にチョーダイ」
何を言われているのか解らず、どぎまぎしている私を軽々と取り戻したシジャル様が私を抱え直した。
「アルティナ様は姉貴のオモチャじゃありません!」
「つまんない!シー君のくせに生意気だぞ!」
プンプンと怒ったフリをするシュリン様から私を隠すように背中をむけるシジャル様に何だか可笑しくなって微笑んでしまった。
「シュリンちゃん、からかうのもその辺にしといてやれ。え~とアルティナ様……じゃ長いからアルちゃんって呼ぶな!私はコイツらの母親のミーナってんだ!気軽にミーちゃんって呼んで良いからな!」
ニシシっと笑うシジャル様のお母様、改めミーちゃん様が何だか、さっきまでのすました姿より断然美しく見えて私は驚いて、シジャル様の腕の中でメモを書いた。
『ミーちゃん様は飾らない美しさをお持ちのようで憧れてしまいます』
そのメモを見たミーちゃん様はパーっと嬉しそうに笑い、シジャル様は信じられないと言いたげな顔をした。
「おいおい、マジ天使だろ」
「お袋が美しい?……声だけでなく目までおかしくなられているのでは?」
案外シジャル様が失礼で驚いてしまう。
そんな私を見ていたシジャル様の眉が頼りなく下がった。
「アルちゃんがシジャルの嫁なら安心だな!シジャルは死ぬ気でアルちゃん幸せにしてやれよ」
「そうよ!シー君なんて、アルちゃんが側にいるだけで幸せなんだから、馬車馬のように働いてアルちゃんを幸せにしてあげないと」
シュリン様の言葉に私は慌てて首を横にふった。
『馬車馬なんて駄目です!私もシジャル様が居るだけで幸せですから、側にいて下さるだけで充分ですわ』
私のメモを見たその場に居たシジャル様以外の全員がフーっと生暖かな息を吐いた。
意味が解らずシジャル様を見ればシジャル様の顔が真っ赤に染まっていた。
何があったのか解らずシジャル様の額に手をのせて熱が無いか確かめると熱くて心配になった。
『シジャル様大丈夫ですか?』
「……お気になさらないでください。むしろ、こっちを見ないで下さい」
なぜか心配を拒否され、視線をミーちゃん様達の方にむけると、物凄く不満顔をしていた。
「「「ヘタレ」」」
しかも、三人揃って謎の呪文を唱えていた。
「とにかく!アルティナ様は療養に来ているのだから、あんたらは余計なことしてアルティナ様の負担にならないよう、もう構うな!」
シジャル様はそれだけ叫ぶと、私を抱えたまま、また走り出した。
もしかしたら、シジャル様の今までの穏やかな空気は家族から離れた安堵からきているのかも知れないと漠然と思いながら、私はシジャル様の胸にキュッとしがみつくのだった。
今日はイーブイの日!
後、旦那様の誕生日!