犯人? シジャル目線
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アルティナ様が眠ると、アルティナ様の部屋の前に待機していた侍女殿に頼み自分はユーエン様の元に向かった。
ユーエン様は書斎のような場所にいた。
部屋の突き当たりに大きな机があり、その向かいにテーブルとソファーが置かれている。
ソファーにはクリスタが座っていてお茶を出されているようだ。
「アルティナは?」
「泣きつかれて眠ってしまいました」
「そうか……実は、司書長が来るまで泣くことも出来ずにいたんだ」
ユーエン様は苦しそうにそう言って笑った。
「何もしてあげられない不甲斐ない兄で、嫌になる」
「違います。アルティナ様はユーエン様を不甲斐ないなどと思うような方ではありません!……むしろ、一緒です。ユーエン様達に心配をかけてしまっていることを不甲斐ないとアルティナ様が考えている」
アルティナ様の苦しそうな泣き顔を思い出して、苦しくなる。
「アルティナは何も悪くない」
「ユーエン様も悪くないです」
ユーエン様は深い息を吐き出した。
「クリスタ様からメイデルリーナ嬢の話を聞いた」
自分は息を飲んだ。
メイデルリーナがアルティナ様を殺そうとしたと言うのか?
「僕が調べた上でも、彼女が一番怪しい」
「ですが」
「メイデルリーナ嬢に明日、この家に来てもらうよう招待した」
メイデルリーナは我が儘だが、やることは全て幼稚なことだと思っていた。
「そこで、司書長に立ち会って欲しいと考えている」
「解りました」
自分は信じたくない気持ちを抱えて頷いた。
翌日、自分は早めにアルティナ様の家に向かった。
アルティナ様は自分が顔を出すと、困ったように笑った。
自分に出来ることは些細なことだ。
自分はアルティナ様に見えるように近づくと言った。
「お土産を忘れてしまいましたので、今、作りますね」
そう言って、魔法で氷の薔薇を作って見せるとアルティナ様は驚いた顔をした後、泣きそうな顔で笑ってくれた。
アルティナ様の心が少しでも軽くなれば良いと思い、ギリギリまでアルティナ様の側にいさせてもらった。
その後、ユーエン様が呼びに来たのでアルティナ様の頭を軽く撫でてからユーエン様についていった。
聞けば、お茶会と称してメイデルリーナを呼び出したようだ。
案内されてついた中庭にはアルティナ様の姉君二人とクリスタとメイデルリーナが待っていた。
メイデルリーナの顔を見れば楽しそうに笑っている。
「シジャルも呼ばれたの!会えて嬉しいわ!」
メイデルリーナは自分の元へ駆け寄ってきた。
この無邪気なメイデルリーナが本当にアルティナ様を殺そうとしたのだろうか?
そこにクリスタの声が響いた。
「メイデルリーナ!話がある」
「?」
不思議そうに首を傾げるメイデルリーナを睨み付けてクリスタは静かに言った。
「アルティナさんに贈り物をしたのは君だろ?」
メイデルリーナは口を尖らせると拗ねたような顔をした。
「もうバレちゃったの?ちょっとイタズラしただけじゃない」
クリスタは目を吊り上げて叫んだ。
「アルティナさんは死ぬところだったんだぞ!」
「し、死ぬの?ミミズボックスで?」
その場にいた全員が驚いた顔で固まった。
「集めるの大変だったのよ!まあ、家の執事が集めたんだけど……あ、あの、もしかして、アルティナ様は心臓とか悪かったの?私知らなくて……ごめんなさい」
メイデルリーナは嘘をついているようには見えなかった。
「ブローチは?」
クリスタが首を傾げて聞くと、メイデルリーナも同じように首を傾げた。
「ブローチ?ブローチなら、私が欲しいわ!」
自分はメイデルリーナの肩に手を置いた。
「司書を装った手紙は?」
「私のシジャルとイチャイチャしてたから〝貴女を愛する司書より〟って書いたら絶対にボックスを開けるって思ったんだもの!まさか、死んじゃうほどビックリするなんて思ってなかったの!ごめんなさい」
メイデルリーナの言い分でいけば、メイデルリーナのミミズボックスをすり替えた誰かがいると言うことになる。
「メイデルリーナはアルティナ様にブローチを送っていない」
「ブローチ?私は嫌がらせをしたかったの!ブローチなんて良いものあげないわ!」
「魔物寄せの宝石のついたブローチでも?」
「シジャル、私はあまり頭が良くないって解ってるけど、シジャルと仲良かったのよ?魔物がどれだけ恐ろしいかってことだけは知ってるわ!アルティナ様にそんな物を送ったってバレたら私だけじゃなくて家族までどうなるか」
そこまで解っていてミミズボックスは送ったって言うのか?
自分が呆れたように見るとメイデルリーナはぐっと暫く黙った後呟くように言った。
「私はシジャルがお兄ちゃんみたいで大好きだったの。だから、とられて本当にムカついたわ!でも、アルティナ様の方が身分は上だし何かしたら家族にまで迷惑がかかるからどうしよう?って思ってたら、新しく来た侍女がアルティナ様はお優しいからイタズラのプレゼントぐらい許してくれるって……言われて」
「それを信じた?」
ゆっくりと頷くメイデルリーナを見て、ため息が出た。
メイデルリーナは良いように使われただけだ。
これには他に犯人がいる。
「その侍女に会わせてくれるかい?」
「昨日、お母様が倒れたから故郷に帰るって出ていっちゃったわ」
ユーエン様が壁を殴り付け、姉君達が支えてあげている中クリスタはメイデルリーナの腕を掴んだ。
「メイデルリーナ、君は騙されてアルティナ様暗殺未遂事件の犯人にされそうになっている」
「はあ?私、殺そうなんて思ってない!信じてシジャル!」
自分も、メイデルリーナがするイタズラのレベルを越えていると思う。
「メイデルリーナ、その侍女の顔は覚えている?」
「記憶力はいいわ」
「似顔絵を書く絵描きを探して描かせましょう。その侍女が怪しい」
自分の言葉にその場にいた全員が頷いたのだった。
メイデルリーナさんではありませんでした。
すみません。