涙 シジャル目線
シジャル司書長目線になります!
その日、アルティナ様は図書館に現れなかった。
次の日、ユーエン様も城に来ていないのだと司書仲間から聞いた。
「シジャル兄さん!」
その次の日にやって来たのはクリスタだった。
「そんなに慌ててどうしたんだい?」
「これが慌てずにいられるか!」
クリスタは図書館のカウンターテーブルを叩くと叫んだ。
「アルティナさんが魔物に襲われたんだぞ!」
何を言われたのか解らなかった。
たぶん、理解したくなかったのだ。
思わず立ち上がり、クリスタの肩を掴んでしまった。
「シジャル兄さん痛い」
慌てて手を離したが悪いことをしてしまった。
「何故魔物なんて……」
「……魔物寄せの宝石のついたブローチが送られてきたらしい。司書を名のる人物から」
魔物寄せの宝石とは人には解らない魔物を引き付ける臭いを放つ石で、真っ赤な宝石で見た目は綺麗。
主に、魔物を使った暗殺などに使われる石だ。
「シジャル兄さん、アルティナさんは無事だ。少し擦り傷を作ったみたいだが、馬車を運転していた執事が昔騎士をしていた人だったらしい」
自分は安堵の息を吐き出したが、クリスタの眉間にはシワがよったままだった。
「クリスタ」
「シジャル兄さん、お見舞いに行こう。アルティナさん、凄くショックをうけてるらしいんだ」
その言葉に息が詰まる。
アルティナ様が恐ろしい目にあっている時に自分は何も出来なかった。
なんて情けないんだ。
「シジャル兄さん、アルティナさんの気持ちが復活するように楽しい気分になれるような本を選んで持っていこう!」
「……ああ、そうですね。アルティナ様は今、恋愛小説がブームらしいから、ハッピーエンドの話を選りすぐろう」
自分は少しでもアルティナ様の気持ちを軽くするべく、笑って幸せな結末になる恋愛小説を数冊選んでクリスタと共にアルティナ様の屋敷に向かった。
アルティナ様の屋敷につくと、ユーエン様が出迎えてくれた。
「司書長、よく来てくれた。クリスタ様もありがとうございます」
「アルティナ様のお心が少しでも明るくなればと、本を持参いたしました」
「ああ、アルティナに会ってやってくれ」
案内されたのは白を基調とした可愛らしい部屋で、天蓋つきの真っ白なベッドに近づいた。
「アルティナ、司書長が本を持ってきてくれたぞ」
天蓋を開けて声をかけるユーエン様の後ろから中を覗くと可愛らしい寝巻き姿のアルティナ様の姿が見えた。
顔色は青白く、ただでさえ儚げだったというのにスッと消えてしまいそうに見えた。
ユーエン様がカーディガンをアルティナ様を座らせてから肩にかけてあげた後、苦笑いを浮かべて自分に場所を代わってくれた。
「アルティナ様、この度は大変な目に遭われたらしく……貴女が無事で良かった。ずっとベッドの上では暇でしょうから本を持ってきました」
虚ろな目をして、こちらを見たアルティナ様は本当に人形のようだった。
後ろでクリスタが息を飲んだのが解った。
寝起きだからと言うわけではないのだと嫌でも解る。
相当のショックをうけてるのがひしひしと感じる。
アルティナ様を狙った人間を殺してやりたいと思いながら本をアルティナ様の膝の上に置いた。
アルティナ様はゆっくりと本の表紙を指先で触った。
少しでも反応をしてくれたことに少しだけ安堵した。
「アルティナ様、今はショックが抜けないのは当たり前です。楽しいことだけしてゆっくり忘れましょう。また直ぐに新しい本を持ってきますからね」
すると、アルティナ様は自分の方を見てゆっくりと自分の服の袖をぎゅっと掴んだ。
それを見たユーエン様が口を開いた。
「司書長、少しアルティナをまかせても良いだろうか?クリスタ様と話をしたいんだが」
「私に話?」
「まあ、色々と話があります。その間、アルティナをお願いしたい」
ユーエン様は自分とアルティナ様を二人きりにしてくれるつもりらしい。
自分は苦笑いを浮かべて頷いた。
そして、ユーエン様がクリスタと部屋を出ていくとアルティナ様の目から涙か溢れて落ちた。
自分は慌ててポケットからハンカチを取りだし涙をふいた。
「怖かったですね」
そう言って背中をさすると、アルティナ様は枕元に置いてあったメモ帳にゆっくりと震える手で書き始めた。
『声が出なくなってしまいました』
どういうことか解らずアルティナ様を見れば、涙を流しながら必死にメモ帳にむかっていた。
『声が出ないなんて嘘をついたから、バチが当たったのです』
そこまで見て、アルティナ様が何を言いたかったのが解った。
彼女は本当に声を失ってしまったのだ。
今まで自分にだけ聞けていたあの、可愛らしい声が出なくなってしまったと言いたいのだ。
『兄と姉達に心配をかけた罰なのです』
震える文字に痛々しさが滲む。
あまりの恐怖に彼女の嘘が本当になってしまったのが解る。
「アルティナ様」
『声が出ないと言うのはこんなにも恐ろしいことだったのですね』
アルティナ様はそれだけ書くと自分にしがみついて泣いた。
自分はアルティナ様が泣きつかれて眠るまでの間、彼女の背中をさすり続けたのだった。
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