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第一王子様の婚約者

お待たせいたしました!

 最近図書館に行こうとすると待ち伏せされることが多い気がする。

 特に待ち伏せしているのは第二王子様と第三王子様だ。

 偶然を装ったり、あからさまなプレゼントを携えて来たり。

 兄とシジャル様が素早く対処してくれるお陰で大した会話というか筆談をしたことがないが、私を声が出ない可哀想なやつだと思い慰めようとしてくださっているのだろうとは解っているつもりだ。

 きっと、王子様方は凄く優しい方達に違いない。

 その日も、第二王子様と第三王子様が図書館の前で何やら言い争いをしていて、それをシジャル様がなだめているのが目に入った。


「アルティナ今日は来ていないことにするから、少しそこの中庭で時間を潰してから図書館に向かってくれ」


 兄にそう言われ、私は頷いて近くの扉から中庭に出た。

 色とりどりの花の中心には大きな噴水があって、その後ろにまわれば噴水の縁に座って時間がつぶせるだろうと噴水に近づくと、先客がいた。

 第一王子のディランダル様だ。

 私の気配に気が付いたディランダル様はニコッと笑った。


「やあ、アルティナさんいつも弟達がすまないね」


 私はスカートの裾をつまんで淑女の礼をした。


「かしこまらなくていい。少しお話をしないかい?」


 私は声が出せない設定だ。

 どうしようかと思っていたらディランダル様は噴水の縁にハンカチを敷いてくれた。

 座らないといけないやつだ。

 私は頭をペコリと下げるとディランダル様の隣に座った。


「ユーエンから聞いたよ。シジャル司書長が好きなんだって?」


 核心をつく話に顔が熱くなる。

 そんな私を見てディランダル様はクスクスと笑った。


「私の婚約者も君みたいに解りやすかったら良かったんだけどな」

 

 私が首を傾げるとディランダル様は照れたように言った。


「私には生まれた時から婚約者がいるんだけど、本当に綺麗な人なんだ。はっきり言って私は彼女と婚約していることが嬉しくてたまらない。だけどね……彼女、あまり表情が変わらないんだ。赤面したところなんて見たことがない」


 ディランダル様は婚約者を思ってか切なそうに遠くを見つめた。


「彼女が私を好きかどうか不安で仕方ないんだよ。情けないことに、こないだ会った時に君の話をしたんだ。ユーエンが色々教えてくれて面白かったから彼女も喜ぶかな?って思ったんだけど直ぐに帰っちゃった」


 せつなげにため息をつくディランダル様は、まんま恋する乙女のようだった。


「アルティナさんはシジャル司書長とイチャイチャしてていいな~」


 苦笑いを浮かべながらディランダル様が私の方を見た。

 私は持っていたメモ帳を取り出して書いた。


『婚約者様にイチャイチャしたいと言ってみては?』

「……私は彼女の前だと格好つけてしまうんだ」

『でも、イチャイチャしたいのでしょ?』


 ディランダル様は両手で顔を覆った。


「そりゃ、イチャイチャしたい」


 その時だった。近くに人の気配がした。

 見れば近くに綺麗な銀髪をなびかせた女神様のような女性が立っていた。

 藍色の瞳が悲しそうに見えた。


「でも、アルティナさん、もし私がクリスタに彼女にこの気持ちを伝えるとしたら非常に言いづらいと思わないかい?」


 私は人が来たことを伝えようとディランダル様の服を引っ張った。


「私に、何を伝えるつもりなのだ?」


 女神様のような彼女の凛々しい声にディランダル様の肩がビクッと跳ねた。

 ディランダル様がゆっくりと顔を覆っていた指の隙間から彼女の顔を確認して飛び上がるように立ち上がった。


「クリスタ、あの」

「まさかと思って来てみたら、こんな現場に出くわすとは!婚約破棄したいならそう言えばいいだろ!」


 女神様の瞳から涙がポロポロと溢れて落ちた。

 見ればディランダル様の顔色が真っ青だ。


「誤解だ!」

「何が誤解だ!今はっきり言ってただろ!気持ちを伝えるとかなんとか!」


 どうやら、私は修羅場に巻き込まれているようだ。

 私は声が出せない設定だ。

 だから、この人は貴女とイチャイチャしたいと伝えたいだけですよ~とは言えない状況だ。

 ってことは、ディランダル様頑張れ!って念じる他ない。

 

「その娘は、この前ディランが楽しそうに話していた娘だろ!」

「違うんだ!クリスタ話を聞いてくれ!!」


 物語のようなやり取りを他人事のように……いや、他人事なんだけど、そのまま見詰めていると、女神が私を睨み私に近づいてきた。

 これは、もしかして殴られたりするやつだろうか?っと怯えたのだが優しく頬に触れられた。


「お肌スベスベに髪艶々!こんな可愛い生き物に勝てるわけない~!」


 女神様は何故か私を抱き締めて泣いた。

 何が起こっているのか解らないけど、ちょっと嬉しいと思ってしまったのは秘密だ。


「アルティナさん!ずるいぞ!」


 ディランダル様の本音が聞こえた気がしたが、もっと声をはってほしい。

 ディランダル様は一つ大きな咳払いをすると落ち着いた声音で言った。


「クリスタ聞いてくれ。私はアルティナさんに相談を聞いてもらっていただけで、アルティナさんに恋心を抱いたりはしていない」

「嘘だ!こんなに可愛いんだぞ!」

「嘘じゃない。本当だ」


 女神様は私の頭を撫で撫でしながら言った。


「じゃあ!私に伝えたいこととはなんだ?」

「うぐっ」


 ディランダル様が思わず息を飲んだ。


「言えないような事なのか!」

「違う!ただ、その……」

「言えないんじゃないか!」

「い、言える!私は……その、クリスタと……」


 思わずため息をついてしまったのは許してほしい。

 私は女神様の手をこじ開けて逃げ出すとメモ帳に書いた。


『ディランダル様は貴女の事が好きすぎて悩んでらっしゃいます』


 そして、そのメモを女神様に突きつけた。

 女神様はそれを受けとると首を傾げた。


「ディランが?」

「ちょ、アルティナさん、何を書いたんだ?」

「ディランが私を好きだと……」


 また、ディランダル様が両手で顔を覆った。

 耳が赤いのが見える。

 見れば女神様も真っ赤だ。

 目の前でイチャイチャしないでほしい。


「じゃあ、貴女に相談って」

『ディランダル様は貴女に笑ってほしい、側にいてほしくてイチャイチャしたいらしいのです』


 私のメモを見た瞬間、女神様は指先まで真っ赤に染まった。


「ディ、ディラン、貴方私に笑ってほしいの?」

「……はい」

「側にいてほしいの?」

「……はい」

「……イ、イチャイチャしたいの?」

「アルティナさん、筆談するの早すぎませんか?しかも、何ばらしてくれてるんですか!?」


 ディランダル様は泣きそうな声で叫んだ。

 今の私は、他人の色恋に干渉している場合ではないのだ!

 自分の恋愛ですらままならないのに、イチャイチャカップルの痴話喧嘩なんてムカついて仕方がない。


『ディランダル様、次は私とシジャル様が上手くいくように協力して下さいませ!』


 私はそのメモをディランダル様に手渡した。


「あの、アルティナさん、この状況解ってる?」

『婚約者同士が好きすぎて勘違いしてお互いの気持ちを確かめあい、この後イチャイチャ、キャハ、ウフフするって小説のような展開になるのですわ。私は邪魔をしたくないので、そろそろ図書館に行きます』


 ディランダル様の落ち着いた雰囲気が何処かへいってしまったように、まるで助けを求めるかのように首を横にふる。

 声が出せたなら男だろ!って言ってしまったかもしれない。


『後はどうぞお二人でイチャイチャするなり、イチャイチャするなりしてください』


 私はそう書いたメモを女神様に手渡した。


「あ、あの、ありがとうお嬢さん」


 女神様がいちいち格好いいのは何故だろうか?

 とりあえず私は図書館に向かって歩きだした。




 無事に図書館につき、シジャル様を見つけると聞いてみた。


「ああ、クリスタ嬢ですか?ディランダル様の婚約者で騎士団長の娘さんですね。見た目は母親似で腕っぷしが強く、戦女神と呼ばれるお人ですよ」


 ああ、だからしゃべり方とか格好良かったのか!

 納得して思わず頷けば、シジャル様がニコニコしながら言った。


「うちの親は騎士団長と友人なので小さい時によく遊びました」


 小さい頃のシジャル様と遊んでいたなんて、羨ましい。


「山に魔物狩りに行って血まみれで帰った時は怒られたな~全部返り血だったのにな~」


 ……まるで山菜狩りみたいなトーンで喋るシジャル様に羨ましさが吹き飛んでいきました。

 私では幼いシジャル様と遊ぶこともままならないようです。

 私がショボンとしているとシジャル様が私の顔を覗きこんで言った。


「実家のまわりは魔物がたくさん居ますが、そのさらに奥に精霊の住む洞窟がありまして、そこが凄く綺麗なので連れていって差し上げますね。魔物は自分が全部倒しますから安心して下さい」


 そう言ってシジャル様は凄く良い笑顔を私にむけた。

 その笑顔が凄く素敵だったから私はショボンとした気持ちを浮上させ笑顔を返すのであった。

 

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