表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/53

幸せな時間

いつもありがとうございます‼

 お茶会に現れたシジャル様とやり取りをしていると、兄に肩を掴まれた。

 何かと思えば、メイデルリーナさんが目に涙をためながら私を睨み付けていた。

 あまりの恐ろしい形相に思わずビクッと肩が跳ねた。


「シジャルは私のなのに!」


 メイデルリーナさんの言葉にシジャル様は不思議そうに首を傾げた。


「メイデルリーナは、自分を別に好きでも何でもないでしょう?愚痴を聞いてくれる人間が欲しいだけなのだと、いつも思っていましたが違いますか?」


 メイデルリーナさんがウルウルの瞳でシジャル様を甘えたように見つめた。


「違うのシジャル」

「それに、自分もメイデルリーナと付き合いたいと思ったことが無いんですよ」

「へ?」

「家族から自分のようなボーっとした人間は相手を見つけるのは不可能だからと、メイデルリーナと仲良くするように言われていたからで、その、ライアス王子様の婚約者候補になったと聞いた時は全力で応援しようと思っていました。なので頑張ってくださいね」


 ニコニコのシジャル様の言葉にメイデルリーナさんの顔が真っ赤に染まり、手を振り上げシジャル様の頬をビンタした。

 キャーっと周りのご令嬢から小さな悲鳴があがった。

 シジャル様はかわらずニコッと笑いながら言った。


「こんなことで気がすむのであればどうぞ」


 メイデルリーナさんはフンっと鼻を鳴らして去って行った。

 私は慌ててシジャル様の頬に手をのばした。


「大丈夫ですよ」


 シジャル様の赤くなった頬に目頭が熱くなりポロポロと涙が溢れた。


「司書長、妹を泣かさないでくれるか?」


 兄の呆れたような声がその場に響いた。


「えっ?じ、自分のせいですか?あの、アルティナ様、申し訳ございません」


 オロオロしながら司書長はポケットに手を突っ込み絶望の顔をした。

 そこに、更に呆れた顔の兄がシジャル様にハンカチを手渡した。


「あっ、すみません」


 シジャル様は受け取ったハンカチで私の涙をぬぐってくれた。

 そのやり取りがなんだか可笑しくて、私は小さく笑ってしまった。


「アルティナ様は泣いているお顔も可愛らしいですが、笑っている時の方がより可愛らしいですよ」


 突然の甘い言葉に一気に顔が熱くなった。

 真っ赤になった自覚がある! 

 ニッコリと笑うシジャル様の左の頬が赤いのに気が付いて私は泣いていたのも忘れてシジャル様の頬に手を添えた。

 私の手が冷たいのか、シジャル様の頬が熱いのかは解らないが私の手で腫れが引けばいいと思ったのだ。

 だが、何故かシジャルの顔が赤く染まっていった。


「アルティナ、司書長が困っているぞ」


 兄の言葉に私が首を傾げるとシジャル様は踞って顔を両手で覆ってしまった。

 

「アルティナ、無闇に男性に触るのは感心しない」


 兄がシジャル様の肩をポンポンと叩いた。

 顔を上げたシジャル様の顔は真っ赤だった。

 

「司書長、冷やした方がいい」

「あっ、はい。すみません」


 シジャル様がトボトボとお茶会会場から去っていくのを呆然と見つめていると、兄が私の頭をポンポン叩き言った。


「アルティナ、よくやった!攻撃は確実にヒットしている。このまま押すんだ!司書長を追いかけろ!」


 私は深く頷くとシジャル様を追いかけた。




 シジャル様に追い付くとシジャル様は私に気が付き驚いた顔をした。


「アルティナ様?」


 私は周りに人が居ないことを確認してから言った。


「私のせいですから」

「いや、違いますよ。避けようと思えば避けられたので自業自得ってやつです」


 シジャル様は、まだ赤みの残る顔をニッコリと笑顔に変えた。


「それでも、お側に居させてください」

「そ、そうですか?」


 シジャル様は苦笑いを浮かべながら頭をポリポリとかいてゆっくりと歩きだした。


「アルティナ様、ちょっと寄り道しましょうか?」

「だ、ダメです!早く冷やさないと」


 私がそう言って怒ると、シジャル様はポケットの中からシワシワのハンカチを取りだし、小さく呪文を唱えた。

 すると、シワシワのハンカチが水に浸したようになり、ゆっくりと霜がふったようになった。

 そのハンカチを頬に当てると、シジャル様が中庭を指差して言った。


「これで大丈夫です。王宮の中庭の中でもこの先にあるダリア園は今が盛りです。なかなかの見応えなんですよ!」


 シジャル様はハンカチを持っていない方の手で私の手を握るとニコニコ笑った。

 私は小さく頷くことしかできなかった。

 そんな私にシジャル様は気を悪くする素振りもなくダリア園までエスコートしてくれた。

 手を繋いだままなのが気になる。

 現れた一面に広がる色とりどりのダリアに圧倒される。


「ダリアはお好きですか?」


 シジャル様はニコニコ楽しそうに聞いてきた。


「ダリアは姉達の方が好きだと思います」

「アルティナ様は好きではないですか?」


 驚いた顔のシジャル様には悪いけど、好きか?嫌いか?で聞かれたら嫌いだ。


「私は小さな花が咲くものが好きです。カスミソウとか菫のような」

「そうでしたか」


 せっかく誘ってくださったのに嫌な気分にさせてしまった。

 私は凄く後悔した。

 可愛らしく好きだと言えれば良かったのに。


「自分も華やかな花より控えめな花の方が好きです。気が合いますね。そうだ、今度はそういった花が咲く場所を探しておきましょう。王宮では華やかな物が多いので別の場所にはなりますがね」


 私が驚いているとシジャル様はイタズラを思いついたような顔をした。


「ご一緒していただけますか?」


 私が頷くとシジャル様はニコニコ笑った。


「良かった。これでアルティナ様とデートが出来ます」


 私は跳び上がりそうなほど驚いた。

 デ、デート?

 私とシジャル様がデート?

 

「サンドイッチにジャムたっぷりスコーンに紅茶を持って本の話をしながらピクニックする。楽しそうだ」

 

 シジャル様は私と手を繋いだままの手をニギニギと確かめるように握った。

 

「まあ、既にデートですがね」

 

 私が真っ赤に染まるとシジャル様は満足そうな顔をした。


「そんな可愛い顔ばかりしていると、手を離したくなくなってしまいますよ……悪い男に捕まる前に逃げて下さい」


 私がシジャル様から逃げる?

 私は今試されているのかも知れない。


「シジャル様からは、逃げません」

「後悔なさるかも」

「しません」

「では、逃がしてあげません」


 そう言ってシジャル様は私の手をギュッと握った。

 なんて幸せな時間だろうか。

 私はダリア園をぬけて図書館に着くまでの間、幸せな時間を噛み締めたのだった。

コイツら何故まだ付き合って居ないんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
えっ、作者さま これまだお友達なんですか⁈ いやいや、周りからみたらガッツリ… 甘々で胸焼けするくらいなのに によによしながら気長に待とう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ