兄襲来 シジャル目線
シジャル目線って打とうとしたら、シジャル眼鏡って打ってて焦った。
いや、眼鏡なんだけどね。
アルティナ様が目を赤くしてきた。
可愛らしい目が真っ赤で痛々しい。
悩みごとがあるなら、自分でよければ解決してあげたい。
そう思った。
甘いホットチョコとチョコレートで甘やかして気持ちも溶けてくれたらと思った。
己の不甲斐なさに嘆くアルティナ様。
自分の言葉のいたらなさから再び涙を流させてしまった。
それなのに、本当にアルティナ様の泣き顔、可愛すぎです。
綺麗な真珠の涙!
プライスレス!!
こんな可愛い生き物、男なら家に持ち帰りたいと思うに決まってる。
自分だって、連れて帰って一晩中抱きしめてその泣き顔を見続けたい!
…………冷静になれ、それは犯罪だ。
アルティナ様を別の意味で、主に恐怖的な意味合いで泣かしてしまう。
自分はクイッと眼鏡を持ち上げた。
アルティナ様が執務室を去って行った後、自分は膝から崩れ落ちた。
あまりの可愛さに赤面しなかったのは奇跡!
むしろ、石化の呪文をかけられたのと一緒だったのだ。
アルティナ様が執務室を出たから解けただけ。
可愛い!本当に可愛い。
天使じゃないのか?女神なのか?
は~~っと自分は深い息を吐いた。
あんなに可愛いアルティナ様に誘惑される男が羨ましい。
こんな只の相談役の自分にすら、度々無意識に誘惑にも似た態度をとってしまうアルティナ様だ。
自分でこの人にこうする!っと決めてからの誘惑は本当に……羨ましい。
さぞかし威力のあることだろう。
自分なら翌日には婚約を言い出すに決まってる。
…………無謀な夢だ。
アルティナ様が自分なんかを選ぶはずがない。
自分で解っていながら、悲しくなったのは許してほしい。
数日後、図書館に珍しく兄が訪ねてきた。
「シジャル。元気か?」
「まあ、それなりに楽しくさせていただいています」
兄は図書館の中をキョロキョロと見回すと言った。
「彼女出来たか?」
兄のこの不躾なところが嫌いだ。
「ご縁がありませんので」
「そうなのか?すっとぼけんなよ!最近仲が良い娘がいるんだろ?聞いてるぞ?」
「仲が良い?」
誰の事だ?ミランダさんには、いつもからかわれるだけだし、エンジェリーナ君には食堂勤務の彼氏がいたはず。
「何不思議そうにしてんだよ?」
「心当たりがなくてですね」
その時、アルティナ様が本を二冊抱えてカウンターにやって来た。
『この本をお借りしたいのですが』
「大丈夫ですよ。おや、恋愛小説ブームですか?」
自分がカウンターで貸し出しの手続きをおこなっていると、兄がニヤリと笑った。
嫌な顔だ。
「美しいお嬢さん、俺とお茶でもどう?」
自分は慌てて兄を睨んだ。
「怒りますよ」
「何でお前が怒んの?お前の彼女?」
思わず息がつまった。
自分はアルティナ様の彼氏でもなければ兄でも父親でもない。
怒る権利が自分にはない。
呆然とする自分を他所にアルティナ様はサササっとカウンターの中に入るとメモ帳に『彼氏です!』と書いて兄に突き付けると、自分の腕にしがみついてきた。
嘘だ。
アルティナ様の彼氏だなんて自分が名乗ることは許されない。
だが、アルティナ様は不安そうに自分を見上げていた。
か、可愛い上に柔らかい感触が腕に……
「シジャルのくせに生意気だな!こんな可愛い彼女がいるのかよ!」
兄は何だか嬉しそうに自分の頭を乱暴に撫でた。
この人の中で自分は小さな子供のままなのだ。
「俺の名前はサジャルだ。ちなみにコイツの兄貴」
兄の言葉に目を丸くするアルティナ様が可愛い。
しかも、顔を真っ赤に染めて腕から離れるとペコリと頭を下げていた。
「ああ、気にすんなって!未来の義妹!シジャルも滅茶苦茶良い娘そうじゃん!やったな」
「あの、兄さん」
「良いって良いって!兄貴に任せとけって!」
「いや、本当に話を聞いてください」
「シジャル、幸せは自分で無理矢理掴みとるもんだぜ!」
ダメだ。
この脳筋聞く気がない。
脳筋のせいでアルティナ様と付き合っていることにされてしまう。
そう思ったその時、アルティナ様が兄にメモを渡した。
アルティナ様自ら否定を?
何だか胸が抉られるようだ。
そう思った瞬間、メモを見た兄がガハガハ笑った。
「愛されてんな」
兄が『不束者ですが末永く宜しくお願いいたします』と書かれたメモを自分の手にのせた。
思わずアルティナ様を見れば顔を真っ赤に染めて自分の服の裾を掴んでいた。
鼻血が出るかと思った。
「親父には俺から言っといてやる」
「ままま、待って兄さんいや、あの」
な、何て言えば良い?
誤解だって、アルティナ様はナンパされた恐怖から逃げるために、このメモを書いただけだ。
けど、否定したらアルティナ様が傷つくかも知れない。
兄はすでに結婚して、二人娘がいるからナンパは本気じゃない。
けど、アルティナ様は自分に頼ってくれている。
3,3秒ぐらいの間にそれだけ考えて思わず兄の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「親父には自分で言うから、黙ってて……下さい」
兄は驚いた顔をしたかと思うとガハガハ笑って自分の背中をバシバシ叩いた。
マジで痛いから止めて欲しい。
「わあったよ!早めに報告しにこいよ!」
兄はやっぱりガハガハと笑ってさって行った。
マジで勘弁して欲しい。
いまだに背中が地味に痛い。
ゆっくり横を見れば唖然とした顔のアルティナ様が自分の服の裾を掴んでいる。
鼻血がでそうなんだって。
「す、すみません、アルティナ様」
アルティナ様は放心状態で首を横にふった。
「あの、誤解はちゃんと解きますのでご安心を」
アルティナ様は首を横にふった。
そして、『私が勝手に彼氏だなんて書いてしまったからです。ごめんなさい』と書いて寄越した。
それ、滅茶苦茶嬉しかったんですよ。
鼻血出そうなほど。
役得とはこの事か?
腕にしがみついてもらえたし……
「どっと疲れました。アルティナ様、お茶でもいかがですか?」
自分は苦笑いを浮かべてアルティナ様をお茶に誘った。
アルティナ様はヘニャっと笑うと頷いてくれたのだった。
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