本の虫
本日二話目
私が声を出すことを止めてから兄が気持ち悪いぐらいに優しくなり、姉二人は私が可哀想だと瞳をウルウルさせる日々。
どうしても伝えたいことがある場合は筆談になるのだが、これがまた画期的。
私が紙に言葉を綴る間、兄も姉達も黙って待ってくれるのだ。
興味の無い話は笑顔で頷いていれば良い。
意見を求められないって最高!!
「アルティナ……すまないが、今回の第二王子殿下との婚約は無かったことになった」
兄が神妙な面持ちで告げた言葉に私は内心歓喜のガッツポーズをしていた。
姉達がこの世の終わりのような顔で息を飲んだのが解ったが、私は眉尻を下げて紙に言葉を綴った。
『仕方がないことだわ。声の出ない女を王族にむかえるなんて誰の得にもならないもの』
内心歓喜の舞を躍りながら私は可哀想に見えるように演技をした。
姉達が私を抱き締めて咽び泣く。
兄も苦虫を噛み潰したような顔だ。
いやいや、全然悔しくも悲しくもないから。
むしろ、歓喜だから!
私は姉達の背中を撫でながらそんなことを思っていた。
婚約の話が無くなってから私が図書館に入り浸る事に兄も姉達も口を出さなくなった。
可哀想な私の唯一気が紛れる場所だと思っているようだ。
失礼だが、間違っていない。
可哀想ってところが間違いでは、ある。
私はかつて無いほど幸せなのだ。
起きる、食べる、近くの図書館に馬車で移動、日が沈む頃に馬車で帰宅、食べる、入浴、就寝のサイクル。
神スケジュール。
声が出せないってこんなに都合が良いものだったのか。
一生出なくて良いや。
その時の私は、本当にそう思っていたのだ。
声を出さなくなって3ヶ月。
兄と姉達は色々な医者を呼び、僧侶を呼び魔女を連れてきた。
そう、最後に連れてきた魔女のお婆様は私が声を出さないだけで声を出せることに気がついた。
『声を出さない理由を聞いてもいいかい?』
魔女様は私に筆談で聞いてくれた。
だから、私も筆談で返した。
『兄と姉達が面倒なので』
魔女様は愉快そうに笑った。
『面白い子だね』
『そうでしょうか?それより、もっと楽しい話をしましょうよ!魔法とか、薬とか興味があります』
魔女様の話してくれたお話は本当に面白かった。
魔法は想像力が大事だとか、この花は薬になるが根には毒があるとか。
本を読むように知識の溢れる魔女様を私は直ぐに気に入った。
「お嬢さん、図書館なら王立図書館の方が蔵書が多くて楽しいと思うよ。私もたまに行くしのう」
魔女様が来た次の日から、私は王立図書館の本の虫になったのは言うまでもない。
忘れないうちに書いています。