誓い シジャル目線
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自分はアルティナ様の涙に弱い。
真珠のような涙をポロポロと流す姿は美しく儚げでアルティナ様が揺らいで消えてしまいそうに見えるのだ。
アルティナ様の姉君をナンパしようとした騎士団の人間をのして、騎士団長に投げつけて帰ってきた時本当に息が止まるかと思った。
絡まれた本人ではなくアルティナ様が泣いてしまっている事実に、かなりビックリした。
姉君が絡まれたのだから仕方がないのだろうが、静かに涙を流すアルティナ様の顔を誰かに見せるのは本当に危ないと思う。
自分ですら今にも消えてしまいそうだと思うのだ。
他の男なら繋ぎ止めるために手を伸ばし、抱き締めたいと思うに決まっている。
ポケットに手を入れ、ハンカチを探せばクシャクシャの感触に絶望する。
アルティナ様に、こんなハンカチは渡せない。
仕方なく、前と同じように袖で涙をふくとアルティナ様はヘニャっと笑った。
何だこの可愛い生き物は!
ただでさえ美しいのにそんな顔!
危険だ!
普通の男が放っておかないだろ?
いや、今現在でもアルティナ様を嫁に欲しい男なんて星の数ほどいるだろうに。
なんて無防備なんだ。
ユーエン様が過保護になるのも頷ける。
変な男に捕まるなんてことになったらその男を殺したくなるだろう。
解る、ユーエン様の気持ちが解る。
早く良い男を見つけて囲ってもらわないと安心なんか出来ないだろう。
ユーエン様の審査は厳しそうだ。
自分の知っている良い男は…………駄目だ、自分は知り合いが少ない。
父の友人の騎士団長に良い男が居ないか聞くか?
あの人の良い男の基準がユーエン様の良い男の基準と合致しているかが疑問すぎる。
たぶんライアス様とファル様は論外だから、彼らとは違うタイプの人間…………ってなんだかアルティナ様の父親か兄のような気持ちになっていた。
これは、自分が考えることじゃない。
…………ユーエン様に少しだけアドバイスするのはアリだろうか?
ユーエン様が聞いて下さらなかったらナシか?
聞いてくるように仕向ける?
いや、頭の良いユーエン様をうまく誘導できるとは思えない。
自分がぐるぐると考えていると、アルティナ様の姉君二人が自分の横に立った。
二人ともアルティナ様と同じく美しい女性だ。
両手に花とは、このことか?
不意にそう思った。
「アルティナ、折角だからマカロンをもらってらっしゃいな」
「ラフラの言う通りよ!そのままじゃ目が腫れてしまうわ!冷やさせてもらってらっしゃい」
姉君二人の言葉にカウンターにいたエンジェリーナ君が控え室にアルティナ様を連れていった。
ホッとしたのも束の間、姉君二人が自分の腕を掴んだ。
何事かと思い、二人を交互に見ると二人は綺麗な顔に迫力をのせて言った。
「「ちょっと、お話よろしいかしら?」」
逃げ出したいと、強く思ったのは秘密である。
二人に図書館の奥に連行された自分はさながら人形のようだったに違いない。
なんだろ?自分がアルティナ様を驚かせて泣かしてしまったからだろうか?
「「司書長様」」
「あ、はい」
「司書長様はアルティナのことをどうお想いで?」
たしか、ラフラ様と呼ばれていた姉君が自分に詰め寄ってきた。
ああ、自分がアルティナ様に邪な気持ちを持っていないか心配なさっているのか。
「え、え~っとですね。お恥ずかしながら、父親のような兄のような気持ちでしょうか?」
さっき、真剣に感じた事を言葉にするとラフラ様の眉間にシワがよった。
ヤバイ、怒らせてしまった。
他人のくせに気持ち悪いと思われたに決まっている。
「では、アルティナに恋愛感情は無いとおっしゃっていると思って良いのかしら?」
ナンパされていた姉君がスッと冷たい視線を送ってくる。
「はい。恋愛感情などという気持ちは一切持ち合わせておりません」
安心してもらえるように言い切ったのに、二人の口元がヒクヒク痙攣している。
こ、怖い。
力の強い魔物と対峙した時のようなプレッシャーに押し潰されそうだ。
「アルティナってほら!可愛いでしょ!しかも綺麗で胸もでかくて魅力的じゃない!それでも恋愛感情は無いとおっしゃられるの?」
「アルティナ様が魅力的であるのは解っています。ですが、恋愛感情は無いと断言できます!」
これで安心してもらえる。
そう思ったのに二人はゆっくりと頭を抱えてしまった。
そ、そんなに自分は信用のおけない人間なのか?と泣きたくなる。
「ち、ちょっとも?お嫁に欲しいな~とか一瞬も思わない?」
「考えたこともございません」
そんなおそれ多いこと考えるのもおこがましい。
自分は婚約破棄されるような面白味のない男だ。
アルティナ様には非の打ち所のない男ではないとダメだろ?
自分が釣り合わない事ぐらいはじめて会った時から解っていたことだ。
仲良くなれただけで満足している。
「じ、じゃあ!メイデルリーナさんのことは?……今も好きなのかしら?」
元婚約者の名前が出たことに驚いた。
自分は暫く黙ると、ゆっくりと聞いた。
「ここだけの話にして下さいますか?」
「「も、勿論よ!」」
自分は一つ息を吐くと言った。
「自分、メイデルリーナのことが……苦手で」
「「はあ?」」
「あ、いや、親同士の口約束で婚約していたため出来るだけ歩み寄ろうとは、しましたが彼女の性格がどうも苦手でして……彼女がライアス様の婚約者候補に選ばれたことによってその口約束は無効になったので正直ホッとしています」
その瞬間、漸くお二人が笑顔になってくれた。
「では、メイデルリーナさんよりはアルティナの方が好きってことで良いかしら?」
ラフラ様が確かめるように聞いてきたので、苦笑いを浮かべて返した。
「アルティナ様とは趣味が一緒ですから」
お二人も困ったような顔をされていたが、納得して下さったようだ。
お二人は帰り際に自分の背中をバシバシ叩きながら頑張って下さいね!と念を押すように言って帰っていった。
嵐のような方達だったが、頑張れとはアルティナ様を守れと言うことだろうと解釈し、アルティナ様に邪な気持ちを持たなければ側にいても許すと言うことだろうと理解した。
その日自分は、出来る精一杯でアルティナ様を守ろうと強く誓いをたてたのだった。
ち、違うよ!
そう言うことじゃないんだよ!