秘密のお茶会
今日は時間があったので。
姉二人がそろって家に帰ってくるときはお茶会や夜会のお誘いのためだと私はずっと思っていた。
『今日は何のお誘いですか?』
私のメモを見て二人はニコニコと笑った。
「私とラフラとアルティナ三人だけのお茶会をしましょ」
「お兄様から聞いたのよ!アルティナにいい人が出来たって!」
……いい人?ってなんだっけ?
私のキョトンとした顔にリベリー姉様がじれったそうに言った。
「とぼけるつもり?司書長様のことよ!」
リベリー姉様の言葉にポカンとする私に今度はラフラ姉様が気に入らなそうにフンっと鼻を鳴らした。
「私の大事なアルティナにあんな冴えない男なんて!って思ったけどお兄様のお話をちょっと聞いたら、ちゃんとアルティナのピンチを助けてくれているみたいなんだもの!文句も言えないわ!!」
ラフラ姉様はメイドが淹れてくれた紅茶を飲むとため息をついた。
「アルティナが司書長様が良いなら仕方ないわ」
「私はラフラほどあの方が冴えない男なんて思ってないわ!綺麗な顔をしてるもの」
二人の話を総合すると、兄が発端で私がシジャル様を好きだと姉二人が思い込んでいると言うことか?
そう言えば、兄にシジャル様を好きか?みたいなことを聞かれた覚えがある。
「アルティナのライバルは司書長様の幼馴染みのメイデルリーナ・ホフマン伯爵令嬢よ!ね!ラフラ」
「自慢話しかしないあの娘ね。私あの娘嫌い」
リベリー姉様が意気込んで言った名前に私は食いついた。
『その、幼馴染みさんの話を聞きたいです』
二人はウキウキしたような顔をして頷いてくれた。
姉達の話によると、メイデルリーナ・ホフマン伯爵令嬢とは話の中心が自分でないと気がすまない人らしい。
姉達は社交界の宝石と呼ばれるほどファションからゴシップまで何にでも詳しく周りに人が集まってくる類いのタイプでピラミッドの頂点のような存在だからメイデルリーナさんは姉達の取り巻きに入りたがったらしい。
だが、姉二人が取り巻きを連れているところを見たことがないがどういうことだろう。
「まあ、アルティナったら不思議そうね。私は気にしないけど、ラフラは取り巻きになりたいなんて他力本願な令嬢とは仲良く出来る気がしないと思わない?」
「姉様だって自分が築き上げてきたものを掠め取ろうとされたら腹がたつでしょ!」
「ふふふ、私が築き上げてきたものを掠め取れるわけがないじゃない。私、ラフラとアルティナ以外には何もゆずってあげるつもりないのよ」
リベリー姉様の迫力にさすがのラフラ姉様も黙ってしまった。
そうか、姉二人は社交界で生き抜くために頑張っていたのだ。
私みたいに社交界で生きていくつもりもない人間とは違うってことだ。
「ってわけで、メイデルリーナさんとお友達になることはなかったわ」
「そういえば、この前アルティナ絡まれていたじゃない」
「そうよ!この前連れていったお茶会で第二王子様の婚約者候補に残っているからって絡んできたあの女よ」
…………うん。そんなことあったけど顔を覚えていない。
「司書長様はメイデルリーナさんを溺愛していて週に五回は会いに来るとか自慢してたのを聞いたことがあるわ」
「メイデルリーナさんに嫌われたくなくて服装に気を付けるようになったとか。まあ、最初からラフラも私も興味のない話しだったのだけど」
もし、万が一シジャル様がいまだにメイデルリーナさんを好きで、そのメイデルリーナさんを奪う形になったライアス様を目の敵にしていたのならあの時のシジャル様のスッキリも納得出来る気がして、息がつまる気がした。
『司書長様はまだメイデルリーナさんが好きなのでしょうか?』
私がメモに書いた言葉に二人は驚いたようだった。
「まあ!アルティナ!ジェラシーね!」
「ああ、姉様!アルティナは本気なんだわ!」
「大丈夫よ!無口で何の関心も持ち合わせていないような司書長様でもアルティナが頑張ったらイチコロよ!」
「そうね!見た目には感情を読み取らせない面白みのない男でも、姉様と私がついているから大丈夫よ!」
姉二人が私をはさむように抱きついてそう言った。
だが、二人は誰のことを言っているんだ?
シジャル様は無口じゃない。
いつもニコニコしているし、表情も豊かだ。
私の知ってる司書長様はシジャル様だが、姉二人の言ってる司書長様は別人なんじゃ…………
動かなくなった私を姉二人が心配そうに見詰めてきた。
『あの、司書長様ってシジャル様ではないのですか?』
私のメモに二人は首を傾げた。
「「シジャル・ミルグリット辺境伯子息でしょ?」」
同姓同名の辺境伯子息は存在しないだろう?
『シジャル様は無口で無表情ではありませんよ』
姉達の驚いた顔に私が驚きそうだ。
姉達は何回かメイデルリーナさんとシジャル様が一緒に居るところを見たことがあったらしい。
そして、どの時も無口で無表情だったからそういう類いの人間だと思っていたらしい。
私の中で、シジャル様はいつもニコニコしていて私が困ると駆けつけてくれて秘密を守ってくれて甘いものが好きで可愛いものも好きな……不思議な人。
私の周りには居なかった穏やかな時間が流れている人だ。
二人にどう説明しようか考えていたらリベリー姉様が手をポンと叩いた。
「明日、ラフラと一緒に王立図書館に行こうと思っていたのよ!刺繍の本を探したくて、ね!」
「そ、そうね!私も薔薇の品種の本が見たいのよ!アルティナ、案内してくれる?」
二人は動かなくなった私に気を使ったのか話題を変えてくれた。
私は二人の優しさに笑顔を作って頷いたのだった。
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