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モヤモヤ

『勿論、慰謝料請求いたします!』もうすぐ発売!

 兄からラベンダーをもらった翌日私は爽やかな目覚めを実感していた。

 匂いとは凄いものだ。

 最近寝覚めが悪かったが、ラベンダーを枕元に置いて寝たら夢すら見ずにぐっすり寝ることが出来た。

 兄にアドバイスをしてくれたシジャル様にはお礼を言わなくては。

 


 

 身支度を整え、兄と一緒に朝食をとる。

 何故か兄がチラチラこちらをうかがっているのが解った。

 言いたいことがあるなら言えばいいのに。

 そう思ったのと兄が口を開いたのは同時だった。


「良く眠れたか?」


 何だ、ラベンダーの効果を聞きたかったのか!

 私はゆっくりと頷いた。

 兄は少し挙動不審にそうかっとだけ返してパンを口に運んでいた。

 何だか兄が変だ。



 いつも通り、王立図書館に行くために乗った馬車の中で兄は意を決したように口を開いた。


「お前、司書長は好きか嫌いかで言ったらどっちだ?」


 この人は何を言っているのだろうか?

 私はメモを取り出すと一言書いた。


『好きです』


 比較的に考えて、あんなに私の秘密を守ろうとしてくれる人を嫌いだなんて言えるわけがない。

 好きか嫌いかで言ったら好きだ。


「そ、そうか……好き……か……」


 何故か兄の肩がプルプル震えて見えた。


「そうか、司書長……良いやつだもんな……」


 私は兄の言葉に嬉しくなって大きく頷いた。

 私の頷きに、兄は何故か苦笑いを浮かべた。




 漸くついた図書館のドアの前には第二王子のライアス様が立っていた。

 はっきりいって邪魔だ。


「ユーエン!」

 

 兄に用なのか、ライアス様が走りよってきた。


「妹君もおはよう」


 挨拶をされたので頭を下げておく。


「何か、ご用でしょうか?」


 兄の言葉にライアス様は私の方をチラチラ見ながら言った。


「妹君が俺の婚約者候補に上がっていると聞いたのでな。挨拶をしておこうと思ってな」


 私は思わず首を傾げた。


「ライアス様、妹はライアス様の婚約者候補から外れました。挨拶は不要です」

「はぁ?」

「妹の声が出なくなった時点で外されました」


 兄はジリジリとライアス様に近づき言った。


「僕は、これ以上妹が傷つかぬよう貴方様には近寄らないでもらいたいものです」

「ち、ちょっとまてユーエン!俺はそれに関与していない」

「でしょうね。ですが、国王陛下がお決めになったことです」


 どうしよう。

 図書館は目の前、ドアをそっと開けて中に入ってしまって良いだろうか?

 私がそんなことを考えていると、兄と話していたはずのライアス様が目の前に現れた。

 驚いている間に、ライアス様は私の手をガシッと掴んだ。

 

「俺はけして貴女を候補から外したつもりはない」


 えっ?困る。

 私がそう思った瞬間だった。


「おや、騒がしいと思ったらライアス様にユーエン様にアルティナ様。おはようございます」


 のほほ~んとした声に顔を上げると図書館のドアを開けてこちらをうかがうシジャル様が見えた。


「シジャル、騒がしくして悪かったな。直ぐに場所を変える」

「いえ、ライアス様との話は終わりました。司書長、アルティナを中に」

 

 兄の眉間にシワがよっている。

 あの顔をしている兄は本当に怖い。


「まだ、妹君と話が終わっていないだろ!」

「ですから、アルティナはライアス様の婚約者候補からは外れているので話す必要ないではないですか!むしろ、婚約者候補に残ったご令嬢とお話されて下さい」


 まったくだ。

 私もコクコク頷いた。

 それを見ていたシジャル様が目を大きく見開き、その後クスクスと笑った。


「ライアス様、無理矢理はいけません。嫌われるだけですよ」


 いつものニコニコに戻ったシジャル様は私達に近づいてきた。

 そして、掴まれていた私の手を流れるような動きでスルリと抜き取るとサササッと図書館のドアの前まで誘導してくれた。

 結構しっかり掴まれていたのにどうやったのだろう?


「ユーエン様、自分もアルティナ様に少し用事がありましてライアス様との話が終わっているのであれば申し訳ないのですがアルティナ様をおかりしてもよろしいでしょうか?」

「ゆるそう」

「ありがとうございます。では、アルティナ様まいりましょう」


 シジャル様は何か言おうとするライアス様が喋り出す前に勢い良く兄に許可をとり図書館の中に私を連れて入った。

 図書館内に入った瞬間、ちらほらと何処からか拍手の音が響いた。

 見ればカウンターにいた年配女性の司書様も拍手していた。


「司書長ったらやるじゃない!胸がスッとしたよ」

「ハハハ、お恥ずかしい。アルティナ様、もう大丈夫ですよ」


 シジャル様の笑顔に安心感を感じた後、乱暴に掴まれたのが怖かったのか今頃になって思い出したかのように手が震える。

 それを見たシジャル様は私の手を優しく包むと言った。


「新しい茶葉をいただいたのですがいかがですか?それともホットチョコの方が良いですかね?」

「今日の司書長の机のお菓子は高級チョコレートだから紅茶が良いよ!」

「何で知ってるんです?」

「一ついただきました」


 司書様とシジャル様の話に思わず笑ってしまった。

 

「私らの宝石姫にはずっと笑ってて欲しいもんだよ!ねぇ、司書長」

「はい。微力ながら出来るお手伝いはいたしますよ」


 ああ、ここが私の居場所で良いと言われたみたいだ。

 何だか嬉しくなって大きく頷いておいた。

 その後、シジャル様の執務室で猫のコップに紅茶を淹れてもらいチョコレートと一緒にいただいた。

 何から何までシジャル様には感謝しかない。

 どうお礼をしたら良いのだろう?

 私がそんなことを考えていたらシジャル様がゆっくりと言った。


「アルティナ様、ありがとうございます」

「へ?……お礼は私がしなくてはいけないと思うのですが」

「いえ、アルティナ様がライアス様を拒んだのを見たら何だか気持ちがスッキリしました」


 どういうこと?

 私が首を傾げるとシジャル様はニコニコしながら説明してくれた。

 シジャル様に婚約者がいて、ライアス様の婚約者候補に選ばれたせいで婚約破棄されたのだと。


「いや~、自分の性格の悪さにまで笑えてしまう」


 シジャル様はそうやって笑ったが、私の中にはモヤモヤが残る。

 その令嬢はこんなに良くしてくれるシジャル様よりライアス様が良かったのだろうか?

 私ならシジャル様の方が断然良い。

 …………私は何を考えているんだ!

 私はあわてて紅茶に手をのばし、気持ちを落ち着けるためにゆっくりと紅茶を口にふくむのだった。

『勿論、慰謝料請求いたします!』買って下さい‼

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[気になる点] そのメイデルリーナってのが アルティナを茶会で侮辱した女かな?
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