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あの日全てを失った   作者: 涙山 原点
8/13

生命の誕生。結ばれている生命。生きているからこそ涙を流す日

その日は里美の部屋にそっと戻り寝た。


次の日から里美は私に対して会話もなく、見る事をなくなった。

朝ごはんもパンは焼いてくれるが、そっけなくおいてそのままだった。

私はこんなにもここからいなくなりたいほど悲しい日はなかった。

でも誰がどう見ても私が悪い。当然だ。


まだ存在として見てくれているだけましだった。私は仕事に行く途中、里美に電話をした。電話には出てもらえない。何度かかけた。しかし出なかった。

仕事中もメールや電話をしたが出なかった。

そして1通メールが帰ってきた。

今はあなたと話したくない。と。


名前すらもう呼ばなくなるんだと。私は30歳前で今更ながらお金でこんなにも人を不幸にしてしまう事、そして自分の中途半端な生き方が後でツケが回る事、未だ都合が悪いと逃げる事、いい歳で親に頼っている自分、出せば出すほどきりがなかった。

一層私みたいな人間生まれてこなければ良かったと思った。

せめて里美はもっと幸せ人と出会うべきだったと後悔してしまった。

そして申し訳ない気持ちでいっぱいだった。その日は仕事に集中できないなか仕事をしていたせいかミスも多く、何もかもいっぱいいっぱいだった。


私は次の日、連休だった為、里美に俺と今いたくないだろうから、少し外にいるよと言って、父の元に行った。

父に10万借りて、私はそのまま、消費者金融の窓口に行った。

今あるいくつかのローンを一つにまとめようと思ったのだった。カードA社 ショッピング50万 キャッシング30万 B社ショッピング20万 C社 キャッシング20万 D社 キャッシング 10万 E社ショッピング40万 合計170万だった。

正直、ここまでくると、里美にも父にも説明できない上、見放されてもおかしくない状況だった。

毎月9万返済だったがこれを一万も少なくしたいと思ったのだった。だが多く借りて多少今の借金の返済額が減っても、より返済期間が延びれば、結局金利で借金が多くなるのは変わらなかったが、とにかく今の支払いをどうにか減らしたかった。

もうすでにだめな方向に突き進んでいる事も分かっていたが時間がなかった。

本来であれば、他の家族に相談したり、市役所などの無料の弁護士に相談や、借金問題に詳しい弁護士に相談をすれば良かったがこの時は全くそんな考える余裕すらなかった。

結局、消費者金融で審査をした結果は借りれて20万だった。

意味がないと分かっていたが、私は父にから借りた10万でもし出産以外でかかるようであればまずいと思い、20万を借りてしまった。結局借金を増やしに行ったようなものだ。

その日は複雑な気持ちで里美の実家に帰った。里美の状況がどうあれ無事に今は出産する為に環境もお金とどんな手を使っても準備しようと思った。

何故なら里美には私のこの借金は関係ない所で作ったのだから。


とにかく、誰がどう見ても自業自得だった。どんな理由があっても借金は良くなかった。ましてや妻に黙ってこれだけの借金。必要だったお金ではなく、ただ、崩したくない愛情をないお金を作って保とうとした私の過ち。

それを今更、借金がありました。なんて許されるはずがない。

赤ちゃんの事を考えてない行動である。

もう今となれば全て私が甘く考えてたせいだった。

こうなった時のリスクを考えてないというか、何とかなるできたどうしようもない結果。

テレビで、働かない人を駄目だねなんて言った事があった。そんな人達より、もっとダメ人間だろう。働かない人達がいつダメと決められた。むしろ、何も考えずに人に迷惑かけている自分の方がよっぽどダメで価値がないと感じてしまった。



二ヶ月ほど経った頃、もうすぐで出産準備が近づいていた。私達夫婦は正直ほとんど会話していない。

私は不安で寝れないでいたが、里美はもっと不安だっただろう。


周りは妊娠中は情緒不安定になるとはいうが今回の借金の件で余計に気持ちが落ちてしまったのだろう。

私はずっと借金の事で里美は口を聞いてくれないと思っていたが、後々それは私の大きな勘違いだと気づくのだった。

そして私自身本当に人の気持ちを知らないのだなと思い知らされるのだった。


予定出産日が3日前となった日。私は会社にも妻が出産するかもしれないという事で、極力休みをまとめてもらった。

家のリビングで座っていたら、久々に里美が私に話しかけてきた。

「パパ、私借金の事許せなかったけど、もっと許せなかったのは、借金を隠してた事。それって嘘つくのと一緒だよ。パパはどんな時もまっすぐ気持ちを伝えてくれたけど、嘘をつかれたり、私が知らないからいいやとか、私は嫌なの。それに色々考えてお金使ってくれたんだよね。だから借金はいいから、もう嘘とか知らないからいいとかやめてね。」と泣きながら言った。

私も泣きながら「うん、ごめん。これからは里美にちゃんと話す」と言った。

そして久しぶりに手をつないでお腹の子にもうすぐだからねと声をかけた。

里美は嘘がずっと許せないでいた。


赤ちゃんは何としても無事に産まれて欲しい。それに里美も心配だった。特に出産する際に母親が命の危険になる事はそんなにないがとにかく母子ともに無事でいてくれればいいと思った。

そう願った。


それでも…それでも頭から借金の事が離れなかった。今は里美も赤ちゃんの事で頭がいっぱいだが、現実上手くやっていけるだろうか?不安だった。

私は嘘も良くないと思ったが、この先の借金をどうするかも考えていた。



出産予定日当日。その日は私は落ち着かなかった。朝から家でうろうろ。里美のお母さんは落ち着きなさいと私に何度も声をかけていた。里美はずっと食卓に座って落ち着いていた。


どのぐらいたっただろうか。時計を見ると昼の11時だった。私は里美に陣痛はきたか聞いた。すると結構前からきてると答えた。

私は「ええっ⁉︎」とびっくりした。

すぐ車に乗って病院に向かった。

里美は「パパ、そんなに急がなくて大丈夫だよ。それより安全運転でお願いします」と里美はまだ余裕そうだった。


でも私は里美が無理する性格なのは知っていたから心配だった。運転中に何度も里美に大丈夫か?と聞いていた。


もうすぐ会えるんだね。お腹の赤ちゃん。頑張れ、我が子。


病院についてすぐに分娩室の待合室に案内され私と里美は待った。まだ里美は笑っていたが、徐々に緊張し始めた。


1時間ほど経った。

すでに里美は苦しそうになっていた。

里美は呼び出しボタンで先生を呼んだ。先生がそろそろ分娩室に行きましょうと声をかける。

私ももうすぐなんだと思うと、心臓がきゅーっとなっていた。

そうして里美は分娩室に行った。里美は必死、新しい命の為に頑張っていた。


私はとにかく、とにかく母子ともに無事に出産してくれる事を祈り続けた。

分娩室の前で祈り続けたていると、お父さんとお母さんと梨花がきた。


みんなで祈り続けた。


そして1時間ほど経ったあたりで赤ちゃんの声が聞こえた。

私もお父さん、お母さん、梨花も顔をあげた。すると分娩室から先生が出てきた。

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。お母さんもよく頑張りました。」と先生が言った。


私はほっとした。本当によかった。本当に、よかった。

先生が「お父さんだけですが、赤ちゃん抱っこしてみますか?」と言われた。

私は「はい!」と言って分娩室に入った。

入った奥の分娩台に里美がいた。

私はすぐに里美に「頑張ったね。よく頑張ったね。」声をかけた。


その横には小さくあくびをしている我が子がいた。本当に小さく、でも一生懸命目を開けてこっちを見ていた。


「初めまして。パパだよ。よく頑張ったね」と赤ちゃんに声をかけた。


赤ちゃんを抱っこした時、小さすぎて抱っこが怖かったが、赤ちゃんは小さい手で必死に私の服を掴んだ。それを見て、この子の為にも頑張らなきゃって思った。


その後、里美と赤ちゃんは別室に移動した。その日に里美は赤ちゃんの母乳をあげてオムツを交換をしてた。

私はあれだけ出産という大仕事をした里美がすぐに赤ちゃんに母乳やオムツをやるなんて、母は凄いと思った。


しばらく赤ちゃんがいる部屋の外からビデオや写真を撮り、お父さんとお母さんと梨花と帰った。私は父に産まれた写真を今日見せたいと実家に行った。


実家に向かっている途中で、里美からメールがあった。



今日はありがとう。パパがいてくれてとても安心したよ。さっき赤ちゃん笑ったよ。笑ったように見えただけかな。今日はゆっくり休んでね。お仕事休んでまで出産に立ち会ってくれてありがとう。

あと、車の後部座席のポケットに手紙があるから、後で読んでみてね。

と書いてあった。


私は途中コンビニに車を止めて後部座席のポケットを見た。手紙が入っていた。私は中身を見た。



パパへ

これを読んでいる頃、無事に赤ちゃんが産まれてくれた後だと思います。正直、毎日、赤ちゃんを産むことに不安で仕方なかった。本当にパパは喜んでくれるのかなって。妊娠中、色んな事でパパに冷たくしてしまったり、パパの借金の事で、今赤ちゃんを産んでもこの子は幸せなんだろうか?パパは本当は嫌なんじゃないかって、毎日考えてしまった。でも毎日パパがお腹にパパだよって、元気に産まれてきてねって言ってくれて、本当に産む決心と勇気を持てました。私ね、前に流産した時に、もう赤ちゃんを妊娠するのが怖くなっていたの。でもこの子を妊娠した時、天国の赤ちゃんの分まで生きて欲しいって思ったの。だからね、名前も実は決めてたの。名前は結生(ゆい)。結んだ生命で結生。

もし嫌だったら言ってね。私、これから新しい家族とみんなで笑っていつまでもいたい。だから、これからもこんな私だけど、よろしくお願いします。

里美より



私は涙が止まらなかった。里美はいつもどんな時も言葉だけじゃなくて、こうやって手紙で気持ちを伝えてくれる。そんな里美が大好きだ。どんな時にどんな風に書いていたんだろう。里美からの手紙を何度も読み返し想像した。


私は里美にメールを返した。

手紙ありがとう。里美こそ、結生と一緒にゆっくり休んでね。愛してるよ。


結生か。いい名前だな。

北沢 結生 11月 23日生まれ 体重2987g

14時18分 出産


その日は実家に行って父、今日産まれた孫の写真と動画を見せた。父は柄にもなく、笑い続けて喜んでいた。

私は父に「親父、いつもありがとうな。今回の件も。俺、ちゃんと家族守れるように頑張る」と伝えた。


父は「頼むぞ。」と一言だけ返した。

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