妻の本心
私達はすぐに実家から引っ越す準備をした。梨花の小学校の関係もあり、学区を変えたくなかったので、近くで借りれる場所を探した。しかし、分譲しかなく、なかなか賃貸はなかった。
ちなみに購入する際の審査も、当然頭金無しの、まだ働き二年ぐらいで対して経ってない。
しかも借金があれば多分住宅ローンは組めない。そんな事を里美に話したら、がっかりどころの話ではない。
実家から離れた所に古い団地があった。ここはある意味廃墟の様な雰囲気の団地だった。
里美住めるならもう何処でもいいとの事だった。賃貸もあり、家賃もそんなに高くはなかった。
私はカードのキャッシングの枠を確認し、後は里美にわからない様に私が持っていたブランド品や釣り具など、全て売りお金を作った。
それでも足りなかった。もう片っ端から金を借りれる消費者金融に電話やネット審査やをやりまくった。
借りれるところから考えずに借りれるだけ借りた。
何とかお金を作った。
里美は引っ越す前に
「パパ、本当にお金大丈夫なの?借金とか私よくわからないけど。パパいつものお金になると話したがらないし、借金も大して金額じゃないから大丈夫っていうけど、無理なら無理しないで。」と言った。
私はここまで来たら、ある意味100万も200万も変わらない。
家族さえみんな一緒ならどんな事も頑張れると私は思っていた。
この時は私自身そんな前向きな考えを持っていたが、はたから見たらただの無計画などうしょうもない人間の考えだった。
私は家族さえいれば、家族さえいればとただの自分のエゴだった。
私は家電量販店の契約社員ではこのままでは食べていけないと思い、転職を考えた。
年齢も30歳。もう仕事は選べない。資格も特別なく今まで転職も何度かしている。焦っていた。
コンビニに無料で置いてある求人雑誌に、
食品を配送する運転手の仕事があった。手当て込みで29万だった。ここにすぐに電話した。
すぐに面接になり、行ったら受かった。びっくりした。
受かった理由は家族がいて、色々あって引っ越しもしたばかりで、結婚してから少し経ちますがこれから、新婚生活を始めたいと話したら、夢があっていいと面接官がその場で内定をくれた。嬉しかった。里美も大いに喜んでくれた。この給料なら、なんとか仕事掛け持ちせずギリギリだけど、生活できると思った。
しかし、仕事は想像以上に私とは合わなかった。今まで、接客などを好きでやっていた分、運転手の仕事を違う意味でなめていた。
仕事時間はは夜中2時から翌日の13時まで。そこからセンターに戻り片付けし、事務処理、入金処理して帰る。
大体15過ぎに家に着くが夕方19時ぐらいに寝ないと体は追いつかなかった。
仕事の時間は慣れればという所だったが、仕事内容が私には根本的にやりがいを感じられないでいた。
そもそもトラックの運転も慣れない上に、黙々と納品するのと回収、ましてや都内だったのと、指導員の人がとにかく細かく、バックが少しでも斜めになると俺の話し聞いてた?ちゃんと運転してよ。と繰り返し5分ごとぐらいに言っていた。
そう、この指導員が仕事というか人として根本的に合わなかった。コミニュケーションも取らない人で会話もなく、仕事を本当にクソ真面目にやる人だった。真面目なのはいいが細かく、気に入らないととにかくしつこいほど、指摘を入れてくる。言われる側はテンパってしまう。それでも繰り返し言われるので訳が分からなくなる。
私は今まで、人と合わないなんてそんな事なかったが、生まれて初めてこの人は合わないと感じていた。それが毎日、助手席の隣で狭い空間に二人。
耐えられなかった。
仕事を始めて二週間、里美に「すまん、本当にすまん。今の仕事合わない上司で無理だ。」と話した。
ちょっとした愚痴程度だったつもりだから、里美は今回ばかりは「また仕事辞めるの?」という様になった。
当然普通考えれば、言われて仕方ない事だし、何甘い事言ってんだってなるのに、私はその時、里美に「里美にはわかんないよ。俺の辛さなんて」とやけになった言い方をしてしまった。
それから里美は私の話に何も答えようとしなくなった。
この日から里美は私に言いたい事を言わなくなり、顔色を伺う様になり、私に気を使い始めてしまった。
あれから一週間だった頃、いつもの様、夜中に起きて里美におにぎりを作ってもらい、見送ってもらい家を出た。車に乗り込み、職場に向かう。
途中里美からメールが来た。
「パパ、仕事毎日ありがとう。もう無理しないでいいから。」と書いてあった。
私は本当に仕事の上司で気が滅入っていた為、この言葉で仕事辞めてやはり営業で正社員を目指そうとした。どんな仕事でも合わない仕事より、合う仕事の方がと思っていた。こんなにも営業や接客がやりたいと思う日はなかった。
私は職場のセンターについて辞めますと伝えた。センター長はびっくりしている様子だったが、こういう話はしょっちゅうある話なのか手際よく退職手続きをその日にした。
足りない制服は後日郵送でという形で、そのまま家に帰った。
家に着き「ただいま」と入る。時刻は夜中3時40分頃だった。里美は結生に母乳をあげていた。びっくりしていたが、里美は私が帰って来た事に何も言わなかった。私も素直に話しずらかった。
次の日里美は私に「お仕事辞めたの?」と聞いてきた。
私は「うん。ごめん…」と言った。
里美は「ううん、」と言った。明らかに気を使わせてしまっていた。いつしか里美は私への信頼も信用も薄れ、近寄りがたい存在になっていた。
私は片っ端から営業職のサイトに応募した。連絡が来たらすぐに面接した。ほとんど落ちた。
その中で、受かったのは歯科医院のルート営業だった。
かなり難しい分野だったが受かったのでそこに行く事にした。里美は受かった事に喜ぶというか少し安心していた。給料も手当て込みで26万だった。生活するのになんとかという所。
一般的にいい方だと思う。
里美、今度は家族の為に頑張るからね。
心に強く思うのだった。
営業の仕事が受ったが、来週から出勤だった。もう、お金はほぼ無い。
前職の運転手の仕事も途中で辞めたし、一週間空きがあるし、今月やっていけるか不安になっていた。お金は私が管理していた。
というか、借金もあったから里美に気持ちの負担をかけない様に食費のみ渡していて、給料明細も、お金の支払い、動きは里美は把握していなかった。里美も聞いてこなかったが聞けなかったんだろう。少し借金が減ったら里美に生活任せてちゃんと内訳を話そうと思った。今はこんなギリギリの生活は話せなかった。
次の仕事の初出勤まで、あと4日に控えた。その間は家にいて過ごした。子どもいる時間は里美も笑顔だった。
ふとした時に里美が
「パパ、今回の仕事ってパパが本当やりたい仕事なの?」と聞いてきた。
私はやりたいというか営業だから選んだと答えた。もちろん数ある求人から選んだと話した。内心、選ぶ余裕はなかったし、やりたいとか考えてなかった。ただ営業というだけで選んだ。そんな事は言えなかった。
里美は「私が言える立場じゃないのは重々わかってる。生意気な事言ってる事もわかってる。でも一言、言わせてほしい。パパ、本当にやりたい事あるの?」
私は正直答えようがなかった。
私は全く答えになっていない答えを返した。
「仕事は家族の為、頑張るんだよ。それだけ。」と答えた。
里美は「そう、わかった。もし、次の職場で前みたいに合わないと人がいたらどうするの?」と聞いてきた。
私は「もしいたら、もしいても辞めないよ。」と言った。
説得力がまるでなかった。じゃなんで、配送の仕事を辞めんだよ。なんで家族の為とかいい事ばかり言って、里美に期待させる様な事言ったんだよって自分で思った。
里美は毎月少ない食費をなんとかやりくりしながら、夜中の仕事の時、私におにぎりを作ってくれていた。
今も、本当は子ども達の服やおもちゃも買ってあげたいんだろうし、オムツだって一番安い物を使ってる。
オムツ一つにしたって選ばせてあげられてない。里美にはしばらく服一つ買ってあげてない。
買ってあげると話すと里美は
「私はいいよ。子供達に何か買ってあげて」と言っていた。そんな風に思い返すと、私はここに引っ越してから、里美を余計不安にしているだけだった。
何が新婚生活だろうか。借金がある俺にただ不幸にされてるだけなんじゃないかと思った。
初出勤の前日、とてもびっくりする話を里美から聞く事になる。と同時に私と里美が初めてケンカする事になった。
その日、私は明日の初出勤を控えてスーツを準備していた。
里美から「明日からだね。頑張ってね」と笑顔で言われた。
私は「ありがとう」と答えた。
里美が「パパ実はね、私、私妊娠したんだ…」と言った。私は「えっ?」と言った。その瞬間嬉しくなって喜んだ。
私は「里美おめでとう」と私は喜んだ。正直、正直生活は大変だったが、二人目の結生が成長する姿をみて子供がほしいと思ってしまっていた。
里美は「大丈夫?無理してない?」と聞いてきた。
私は「大丈夫だよ!」と答えた。里美は「産んでもいいの?」と聞いた。
私は「もちろん」と言った。里美は喜んでいたが、実際に生活していて食費しか渡されていなかった為、お金の不安があった。
里美は「パパ、正直に答えてほしいの。これは綺麗事とかでごまかさずに。パパ貯金ある?」と聞いてきた。
私は本当の事を言うか迷った。黙っていたらどっちにしろ答えはわかってしまう。私は「無い」と答えた。
里美は何も言わなかった。というより多分ない事はとうにわかっている様だった。
里美はしばらく食卓に座ってメモ帳を開いていた。食費の計算を一生懸命していた。
そんな里美をみて、私は「ごめん、貯金ないのに。不安だよな」と聞いてしまった。
里美は「私、もう不安を抱えながらお腹の子を産むのが嫌なの」と言った。
私は「不安かもしれないけど、頑張るから。仕事必死に死ぬ気で頑張るから!」と言った。
すると里美は「もうその言葉、どこまで信じていいかわからない。もうそういうのやめよう。」と言った。
私その後何でそんな事いうんだ!と里美に激しく言葉を何度も言った記憶があるが言い合いになってたのは確かだ。
私はここまで来て本当に何をしてるんだろうかと思った。馬鹿野郎を通り越してるのはもうわかっていた。
言い合いが終わりしばらくたった。
里美は「パパ、ごめん。お金ない中こんな事頼んでいいかわからないんだけど、冬休みになったら、実家に帰らせて下さい。お願いします。」と言った。
私は「どうして?」と聞いた。
里美は「もう、どうしたらいいか、正直わからない。今はわからない」と言った。
私は「帰りたきゃ帰れば」と言ってしまった。何か一瞬素直になれなくて冷たく言ってしまった。
本当は辛いのだから実家に行く気持ちもわかるのに。
すると里美は「ごめんなさい。」と一言だけ言った。
もうすぐ結生の誕生日だった。
結生は私たちを見て笑顔でいた。
子ども笑顔は純粋だった。
仕事は大変だったがもう辛いとか考えなかった。
後がないという気持ちでとにかく仕事に集中した。夜も遅かった。
その頃には里美は夜は寝ていて、ご飯だけ食卓に用意されていた。前なら里美は起きていたが、里美はもう、正直私対して気持ちが薄れていた。
でも何とか気持ちを切らさない様にご飯だけでも用意してくれてたんだと思う。
私はご飯だけでもあるだけありがたいと感謝の気持ちをもち一口一口噛みしめた。
私は休みの日、会社で内緒でアルバイトもやった。会社は副業は禁止だったが、もう考えている余裕は無かった。
里美の実家に帰る費用をせめて出してあげたいと思ったからだ。
結生の誕生日、お金がないのはわかっていた。だから里美が手作りのケーキを作ってみんなでお祝いした。
できる限りのご馳走を里美が作って。美味しかった。誕生日プレゼントは梨花が金メダルを作り結生にあげた。
私達にもくれた。仲良くしてねと手紙をくれた。その手紙が胸に刺さった。
もうすぐ冬休みだった。
私はずっと里美に聞きたい思いがあった。それはこのまま俺と本当に居たいか?




